エドワーズの家
「おい、どこまで行くつもりだ?」
村を出てから、しばらくしてルタンスが私に尋ねる。
「次の村か、それかレイドアの街まで歩くのさ」
「冗談だろ!? 次の村までだって、かなり距離があるぞ」
「冒険者は体力が重要だ。そういえば、さっきは簡単に息切れをしていたし、運動不足みたいだね」
「う、うるさい! 歩くぐらいは平気だ」
「だと、良いけどね」
結局、ルタンスは途中でバテてしまう。
「気にせず、先に行けば良いだろ」
とルタンスは言うが、流石に置いていくわけにもいかない。
どうしようかと考えていると、運よくレイドアへ向かう行商人と出くわした。
交渉して馬車の荷台に乗せてもらうことになり、私たちは無事、レイドアの街へ帰って来れた。
私はすぐにギルドへ行き、今回の特別クエストの顛末を説明する。
「それはすまなかったね。そんなことになっているなんて思わなかったんだよ」
アンジェラさんが苦い表情になった。
「思わなかっただって? あと少しでエドワーズは…………」
ルタンスがアンジェラさんに文句を言いそうになった。
私がそれを止める。
「誰にでも噛み付くその性分をどうにかしろ」
「だって……」
ルタンスは不満そうだった。
そして、なぜかアンジェラさんは笑い出す。
「そうかい。パーティを組む気になったんだね」
どうやらアンジェラさんは勘違いをしたらしい。
「違う。付き纏われているんだ。アンジェラさん。こいつは後方専門としては中々優秀そうだから、どこかのパーティを紹介してやってくれ」
「その必要は無い。私はエドワーズとパーティを組もう、と言っている」
「だから、私は…………いや、今は止めよう」
反論をしたかったが、これ以上、話をするのは面倒だし、クエストで疲れた。
今日はもう帰って寝ようか。
「ほい、今回の報酬だよ」
アンジェラさんが袋を渡す。
「袋を二つにしてくれないか?」
私が言うとアンジェラさんはすぐに袋の中の銀貨を二つに分けてくれた。
「ルタンス、君が片方はもらってくれ」
「いや、別に私は……」
なんでパーティを組もう、とあれだけグイグイ来るのに、ここで遠慮するんだ?
「今後はともかく、今回は君に助けられた。報酬をもらう権利がある」
「あ、ありがとう」
ルタンスは素直に報酬を受け取ってくれた。
頼んだわけではないとはいえ、ただ働きはさせたくない。
「じゃあ、私はこれで」
ギルドを出ると、まだルタンスは付いて来る。
「お前はどこまで付いてくるんだ?」
私はルタンスがまた「パーティを組もう」と言ってくると思ったが、
「えっと、その……住む場所が無いんだ。それにこの前は人に絡まれたし…………」
ルタンスはあれだけ「パーティを組もう」とグイグイ来るくせに変なところで遠慮をする。
「散らかっているけど、うちで良ければ、来るか?」
「ありがとう」とホッとした表情でルタンスは言う。
まぁ、それによく考えれば、一度ゆっくりと話した方が良いかもしれない。
聞きたいこともあったしな。
「…………おい、これはなんだ??」
私の家に着くとルタンスは引いているようだった。
「私の家だ。なんだ、冒険者が家を持っているのが不思議か? 私はかなり稼いでいるから、家くらいは買える」
といっても、そんなに大きな家じゃないし、空き家を運よく安価で買えただけだ。
「いや、そうじゃない! ゴミ! 足の踏み場が無いじゃないか!」
なるほど、そういえば、ずっと掃除をしていなかったな。
「…………!? おい、今、何かがカササカって言ったぞ!」
「虫くらいいるだろ。気にするな」
「気にするだろ!」
ルタンスはずっと文句を言って来る。
「もう疲れたから、文句は明日にしてくれ。この家には風呂もついているから、入って来るといい」
「一緒には入らないか?」とルタンスがしおらしい声で言った。
「悪いが私に女性趣味はない」
「私にだってない! こんな家の風呂に一人で入りたくない!」
泊めてやるのに「こんな家」なんて失礼な言い方をする奴だな。
「なぁ、頼むから……」
ルタンスは泣きそうになっていた。
「はぁ…………分かった。じゃあ、用意をしてくる。着替えは私ので良いか?」
「ちゃんと洗ってあるよな?」
「さっきから失礼な奴だな。服も洗っているし、浴室だって綺麗だ」
「この惨状を見せられたら、信用できない」
結局、ルタンスはビクビクしながら、浴室まで向かった。