以前、訪れた村にて
「特別クエストだって?」
ギルドへ行くとアンジェラさんに二階へ来てくれ、と言われた。
そして、特別クエストの依頼を提示される。
「そうだよ。以前にお前が盗賊団を壊滅させたことがあっただろ?」
アンジェラさんから言われて思い出した。
あれは確かクエストが終わって、立ち寄った村でのことだった。
そこで偶然、盗賊団と出くわした。
それで私に突っかかって来たから、返り討ちにして、ついでに下っ端から聞いたアジトを襲撃して壊滅させたんだっけ?
「その顔、思い出したみたいだね。で、その時の村から盗賊の残党がまだいるから、討伐してほしいって、あんた指名で依頼が来たんだよ」
「そうか」と言いながら、私はクエストの紙を受け取った。
「大丈夫かい?」
「たかが盗賊だ。前に戦ったが、魔法を使える奴もほとんどいなかった。私の敵じゃない」
アンジェラさんは何か言いたそうだったが、結局は何も言わずに私を送り出した。
「盗賊か……少しは暇潰しになればいいな」
私はそんなことを考えながら、レイドアの街を出発した。
「いや~~、またあなたに来てもらえるなんて、本当にありがとうございます。今日はゆっくりとお休みください」
村の村長は私を歓迎してくれる。
盗賊の脅威があるにしては悠長なことを言っているな。
まぁ、私としてもこれから日が沈むのに盗賊討伐なんてしたくない。
暗闇は盗賊の領域だ。
いくら魔力を持たない奴が大半だとはいえ、盗賊の有利な条件で戦うことは無い。
「食事を用意したのです。さぁ、どうぞ」
村長の家に行くとすでに料理が用意されていた。
食欲はずっとないが、用意されたものだし、拒否するのは失礼か。
私は席に着き、食事を始める。
「どうですか?」
「え? ああ、美味しいですよ」
私は嘘をついた。
もうずっと食べ物の味なんて分からない。
「それは良かった。さぁさぁ、酒もどうぞ」
酒の味も分からないが、酔える分、食い物よりもマシだ。
それに私は酒を飲まないと寝れない。
出された酒を飲む。
随分と強い酒だな。
たった、一口で意識が朦朧としてきた。
「……!? いや、これは…………」
この酒がおかしいことに気付いたのは遅すぎた。
私は椅子から転がり落ちて、床に倒れる。
これは毒だ。
でも、何故?
「おい、早く縄を持ってこい。縛るんだ!」
私が最後に聞いたのは村の男たちに指示をする村長の声だった。
「…………ここは?」
どうやらまだあの世ではないようだ。
「納屋か…………」
「う、動くな!」
かなり慌てた声がした。
見ると少年が剣を構えている。
「動きたくても動けない」
私は現在、手足を縛られている。
これでは動きたくても動けない。
それに先ほどの酒に混ざっていた毒のせいで体に力が入らないし、魔力を発動できないようだった。
しかし、分からないことばかりだ。
村長が私に毒を盛った理由も分からない。
それに致死性の毒ではなく、私の動きを制限する毒を使ったんだ?
「君、えーっと……」
「ミーツ……」
少年は名前を教えてくれる。
かなり素直そうな少年だし、悪い子には見えない。
「ミーツ君、私はこの後どうなるのかな? そもそも、何故私は毒を盛られて、拘束されているんだい?」
「そ、村長は盗賊にあなたを渡す、って言っていました」
「私を盗賊に? どうしてだ?」
「そ、それは…………」
ミーツ君は言い淀む。
知っているが、言って良いのかを迷っているようだった。
「そうすれば、盗賊がこの村を襲わないと約束してくれたからだ」
かなり余裕のない様子で村長が納屋に入って来た。
「あんたのせいで盗賊団は壊滅。残った奴らはあんたにかなり恨みを持っている。盗賊たちはあんたを渡せば、この村の安全を保証すると言っていた」
「分からないな。数名は逃がしたと思っていたが、この村の人口よりは少ないはずだ。戦えばいいじゃないか?」
「戦う? 馬鹿なことを言うな。私たちはただの村民だ。畑を耕したり、狩りをして暮らしている。戦い方なんて知らない」
「戦い方を知らなくても、武器はあるだろ。農具や狩りの得物は立派な武器だ」
「戦ったら、死ぬかもしれない」
なるほどな。
どうやら、勝つか、負けるか、以前の話らしい。
戦う気が無い。
相手が盗賊というだけで心が折れている。
「盗賊のアジトへ使いを送った。あんたにはそれまでここで待っていてもらおうか」
「嫌だと言ったら、縄を解いてくれるのか?」
「…………」
村長は何も言わずに納屋から出て行った。
本日、短編『育成して、転売しようとハーフエルフを買ってきたはずなのに…………!』を投稿しました。もし、宜しければ、こちらもよろしくお願いします!