凶弾のエドワーズ
新作、始めました。
よろしくお願いします。
「ロベル、シェリー。君たちはいつになったら、結婚するんだ?」
ヴィヴィオがそんなことを言う。
私はまたか、と思い、苦笑してしまった。
「そうだな。冒険者家業から引退して、お互いにおじさん、おばさんになったらじゃないか」
ロベルが答えて、私も頷いた。
するとヴィヴィオが身を乗り出す。
「それは困る! 私は早く君たち二人の子供を見たいんだ。早く子供を作って、私に抱かせてくれ!」
ヴィヴィオに直線的なことを言われて、私は照れてしまった。
「そんなに子供が好きなら、自分で産めばいいだろ。君の実家の力があれば、それなりの家の男と結婚出来るんじゃないか?」
私がそう言うとヴィヴィオは本気で嫌そうな顔になった。
「今更、堅苦しい貴族の世界になんて戻りたくないよ。それに私はみんなから英雄と呼ばれることに快感を覚えているし」
ちょっと変わったところのある私たちのリーダーはそんなことを言う。
それを聞いた私たちは笑った。
まともな家族というモノに縁が無かった私にとってはこの冒険者パーティが初めて出来た身内だ。
それにロベルの奴、口ではまだ結婚しないようなことを言っているが、私は知っている。
あいつはかなり高価な指輪を買ったらしい。
もし、結婚したら私は引退しようか。
冒険者しかやって来なかった私に家庭的なことが出来る自信はないが、ロベルがいてくれれば、どうにかやっていける気がする。
「シェリー、どうしたの? 気持ち悪い笑い方して?」
「ヴィヴィオ、気持ち悪いなんて言われたら、私だって傷付くんだが?」
「ごめんごめん。帰ったら、ウィスキーを奢るから」
「私が酒さえ飲んでいれば、満足だと思っているな…………奢ってはもらうけど」
今日も私たちはクエストを行う。
こんな日々が続くと思っていた。
「………………随分と懐かしい夢を見たな」
どうせならもっと夢の中に居たかった。
いっそのこと、永遠に…………
「まったく、もっと静かに出来ないのか? 酒のせいで頭が痛いんだ…………」
私の眠りを妨げた魔物の集団がギャーギャーと叫んでいた。
ゴブリンだ。
巣を二つ壊滅させたが、まだ別の巣があったらしい。
そして、私が女だと分かると数体がズボンを降ろそうとしている。
「まったく、私を犯すことを考えるよりもまず手を拘束したらどうだ?」
私は愛銃を腰から抜いて、複数のゴブリンの額を打ち抜いた。
味方をやられたゴブリンたちは激高し、私に襲い掛かる。
「だから、頭が痛いんだ。叫ばないでくれ」
次々にゴブリンを討伐していく。
私とゴブリンの戦いは夜明けまで続いた。
「今日も生き残ってしまった…………」
私はまだ仲間の元へ逝けないらしい。
パーティ壊滅から三年、私は辺境の街〝レイドア〟で単独専門の冒険者をやっている。
私がクエストから帰還し、レイドアの冒険者ギルドへ入ると空気が変わった。
「おい、あれが凶弾のエドワーズか?」
「この前は一人でトロールを仕留めたらしい」
「俺はオーガの集団と戦ったって聞いたぞ」
そんな話が聞こえてくる。
私は気にせず、ギルド嬢の元へ向かった。
「クエストは完了だ。ゴブリンの巣は壊滅させた」
私からの報告書を受け取ったギルド嬢は内容を確認して驚く。
「え、えっと、確かゴブリンの巣の駆除は一件ですよね? ここには三件って記載されていますけど?」
「一つ、壊滅させたら、傍にもう一つあったんだ。で、疲れ果てて寝ていたら、三つ目の巣から出てきたゴブリンに襲撃された。それをついでに壊滅させたから、三つになったんだよ。別に追加で金をくれなんて言わないさ。それよりももっと難しいクエストを回してくれるかい」
私が高圧的な態度を取っているとギルドの奥から、
「小娘が何を生き急いでいるんだい」
という声がした。
「アンジェラさん。丁度いい。難しいクエストを紹介してくれ」
「そんなに難しいクエストをしたきゃパーティを組むことだね」
パーティ……
その言葉に私の心は酷くざわつく。
「私にパーティなんていらない。群れるのは弱い奴らのやることだ。私は強い」
「確かにあんたはこのレイドアで最強の冒険者だよ。それは認める。だが、所詮、それは個人の力だ。ほれ、クエストの報酬だよ。働き過ぎた分、少しだけイロを付けておいた。だけど、そんな無茶をしていたら、いつかは死ぬよ。パーティを組むことを考えることだね」
私は無言で報酬を受け取り、ギルドを出た。
パーティだって?
冗談じゃない!
私には最高のパーティ、家族がいた。
あいつらを忘れて、新しい冒険者と組むことなんて考えられない。
それにもう誰かを失うのは嫌だ…………
私は現実から逃避するようにクエストと酒屋を往復していた。
今日も店で酒を飲んでいると、
「隣、良いですか?」
女性が私に声を掛けてくる。
白い肌に整った顔立ち。
年齢は二十歳前後だろうか
こんな冒険者や商人が集まる酒場に似合わない見た目だ。
「他の席が空いているだろう。他に行ってくれ」
私は彼女を突き放した。
しかし、彼女は私の意見など聞かずに隣へ座る。
「他の席にはあなたが居ませんから」
「…………何のつもりだ?」
私は瓶の酒をグラスへ注ぐ。
「お酒がお好きなんですね」
「…………別に好きじゃない。味なんて分からない」
すると彼女は少しだけ悲しい表情になった。
「じゃあ、どうしてお酒を飲むのですか?」
「現実を忘れる為」
「………………」
私はそう答えて、酒を一気に飲み干した。
また、酒を注ごうとして瓶を彼女に取り上げられてしまう。
「何のつもりだ? 返せ」
「少し話をしませんか?」
「だったら、その癇に障るわざとらしいしゃべる方を止めたらどうだ?」
「……へぇ、気付いていたのか?」
私が指摘すると彼女は口調を変化させた。
可愛らしい顔と不釣り合いな男勝りな口調だ。
「無理をしていたのはすぐに分かった。よそ者が私に何の用だ?」
「私がよそ者だって、なんで分かる?」
「この街の人間なら私に声なんかかけない。どういう趣味か知らないが、男漁りなら他を当たってくれ。こんな格好をしているが、私は女だ」
今はもう無いが、この街へ来たばかりの時は男に間違われて、よく女性に声を掛けられた。
私は彼女から酒瓶を奪い返し、またグラスへ注ぐ。
それを飲もうとした時だった。
「確かに私はよそ者だ。だけど、あなたを男と勘違いして、声を掛けたわけじゃない。凶弾のエドワーズさん、いや、シェリー・エドワーズ、と呼んだ方が良い?」
その言葉に私は飲もうとしていたグラスを止める。
シェリーという名前を知っているのは限られた人間だ。
レイドアへ来てからはエドワーズとしか名乗っていない。
ギルドの登録というのもいい加減で、エドワーズという名前だけで問題はなかった。
この街で私のシェリーという名前を知っている者はいない。
知っているとしたら…………
「君はサンフォード王国の出か?」
私の過去を知っている人間だけだろう。
「やっと私に興味を持ったな。私の名前はルタンスだ。あなたの昔の名声を頼りのここまで来た」
昔の名声…………
その言葉に私は怒りが込み上げてくる。
「なんだ、サインでもしてやればいいか?」
私が不愛想に言うとルタンスと名乗った彼女は首を横に振った。
「そんなものをもらう為に私はここまで来たわけじゃない。なぁ、エドワーズ、私と組まないか?」
「は?」
「あなたのことは調べた。私の能力とあなたの能力を合わせれば、良いパーティを組めると思うんだ」
パーティだって?
馬鹿馬鹿しい!
「自分を売り込むなら、他を当たってくれ。私は誰とも組まない」
「だが、それだと大きな仕事は出来ないだろ? 低級の魔物を討伐している今の状態で満足なのかよ?」
「私は強い。ギルドが許可をすれば、ドラゴンだって討伐してやる。とにかく、私は誰とも組まない。サンフォード王国から遥々来たところを申し訳ないが、それが私の答えだ」
これ以上絡まれるのも面倒だと思い、私は店を出た。
ルタンスも私を追って、店を出る。
「私は諦めないからな! エドワーズの相棒になるまで何度だって頼み込んでやる!」
まだ人の多い時間だ。
叫んだルタンスに注目が集まる。
私はルタンスを一瞥して、その場を立ち去った。
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