62 婚約の宣誓(第2部プロローグ)
※次話は1月10日の朝6時更新です
【第2部 プロローグ】
アイゼリオン国の大聖堂で執り行われた式典は、複雑に入り組む思惑の渦中にあった。
「神と、ここに集いし証人たちの御前において」
ステンドグラスを透かした七色の光が、高い天井から降り注ぐ。
白い大理石の床は淡い輝きを帯びて、ひとつの魔法であるかのようだ。
「エドガルド殿下、ならびにメアリさまの『婚約』が成立したことを宣言し、祝福する」
(……私と、エドガルドさまの……)
『かつて』聖女と呼ばれたメアリは、いまはひとりの人間として、どこか不思議な気持ちに包まれていた。
(大神殿を追放されてから数ヶ月ほどで、たくさんの出来事があったわね。……エドガルドさまと契約をして、魅了魔法にかけてしまったと勘違いをして。お望み通りの悪女業を頑張ろうとしたのに、ちっとも上手くいかなかった)
いまのメアリが纏っているのは、友人の領地で仕立てられた白のドレスだ。
髪は、妹から贈られた花の飾りで彩った。支度を手伝ってくれたのは、大精霊と呼ばれる使い魔たちである。
(ニーナと喧嘩をして、仲直りをして。レデルニア神さまを鎮めることが出来て、何よりも)
胸がいっぱいになったメアリは、そっと傍らの青年を見上げる。
(エドガルドさまに恋をして、本当の想いを通わせることが出来た……)
「……メアリ」
深い慈しみを帯びた紫色の瞳が、静かにメアリへと向けられている。
黒の軍服に身を包み、正装の勲章とマントをつけたエドガルドを見詰めるだけで、メアリの心臓は早鐘を打つのだ。
「こちらへ」
「はい。……エドガルドさま」
メアリが微笑んで頷けば、エドガルドがやさしく抱き寄せてくれる。
左手をメアリの腰に添え、そうしてメアリの手を取って、その甲にひとつの口付けを落とすのだ。
(…………っ)
愛おしい壊れ物を、大切に扱うかのように。
「この名において誓う。メアリを我が婚約者として迎え、やがて……」
低くて穏やかなその声が、はっきりと紡ぐ。
「――遠からぬ未来に、生涯の伴侶とすることを」
「エドガルドさま……」
左胸がきゅうっと疼き、メアリは目を細めた。
(現在この国では、エドガルドさまと私の結婚を反対する貴族の声が、どんどん強くなっている。この状況で敢えての『婚約式』を挙げるなんて、どんな罵りを受けてもおかしくないけれど……)
大司教が小さく咳払いをし、こう続ける。
「ここからは、婚儀までの道のりとなります。試練は多くなりましょうが、互いを護り、尊重し合って……」
(エドガルドさま。私)
誇らしく胸を張ったメアリは、きらきらとした気持ちでエドガルドを見上げる。
(――これでまた一歩、エドガルドさまを誑かす、すごい悪女に近付けたでしょうか!?)
「………………」
なんだか今、エドガルドが頭の痛そうな、物言いたげな顔をした。
(あら???)
「何を考えているか、おおよそ分かるが。……その前に、あまり可愛い表情をするんじゃない……!」
「ごほん!」
小声のお叱りに首を傾げながらも、メアリはひとまず、この儀式に集中する。
数ヶ月後には正式な婚儀だ。それまでに、『雇われ悪女』としての使命をたくさん果たしていこうと、強い決意を新たにするのだった。
***
「――お聞きになられましたか?」
「ええ。エドガルド殿下のことでしょう」
王城では、定例の会議を終えた貴族たちが、大袈裟に呆れた様子で話していた。
「ご自身の父君が病に伏せていらっしゃる中で、堂々と婚約式を行うなど……しかもお相手は、『まさしく聖女を体現した存在』と名高いメアリさまだ!」
「あのお方は、聖女を独占しようとなさっているのだ。生まれながらに呪われた身であるご自身の咎が、それで浄化されるとでもお思いなのだろうか」
嫌悪感を露わにする者も居れば、怒りを滲ませる者も居る。
そんな中、上座でただひとり口を閉ざした青年に、ひとりの貴族が進言した。
「やはり、正しきお世継ぎはただおひとり。――我々は、あなたさまの忠実なる臣下です」
柔らかな銀色の髪に、赤の瞳。
妖艶さと、それと同じくらいの清廉さを纏ったその青年に、貴族たちが礼の姿勢を取る。
「ヴィンセント殿下」
「――――……」
第一王子ヴィンセントは、弟のエドガルドを悪し様に言う彼らに向けて、柔らかなまなざしを返したのだった。
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第2部スタート
雇われ悪女コミカライズ、26年1月5日に連載スタート!!
えとう綺羅先生による、この美しいエドガルドとメアリをご覧ください! どうぞお楽しみに!!
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書き下ろし小説は第1部エピローグの間の、イチャイチャを更に補完するエピソード。
両想いになったエドガルドとメアリが、いっぱいキスをして『悪女』を追求するお話です!
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「忘れるな。……お前がここにいるのは、俺が願ったからだ」
「エドガルド、さま」
今度のキスは、メアリのまなじりに落とされる。
「離れることは許さない」
***
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