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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜第1部エピローグ〜

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59 罪の告白

【エピローグ】




「エドガルドさ、ま……っ!」

「――それで?」


 メアリを寝台に降ろしたエドガルドは、使い魔たちを呼び出して振り返った。

 部屋の隅に立ったシュニとフラムは、エドガルドの前でしゅんと項垂れている。ふたりの目は潤み、泣きそうだ。


「ご命令に違反してしまい申し訳ございませんでした。ご主人さま」

「ご、ごめんなさい。でも俺たち、あそこでご命令通りにメアリを遠ざけたら、ご主人さまが死んじゃうと思って……」


 ふたりの謝罪を聞いたメアリは大慌てで起き上がり、エドガルドの手を引く。


「エドガルドさま、私が我が儘を言ったのです! シュニとフラムは悪くありません、お叱りは私に」


 エドガルドは使い魔たちに、メアリを神から遠ざけるように命じた。けれどもふたりはそれに背き、チョコレートの入ったメアリの鞄を探してくれたのだ。


 エドガルドは、メアリたち三人の顔を順番に見遣った後で溜め息をついた。


「その件を追求しようとした訳じゃない」

「え……」

「メアリの命令を聞くことに、さほど躊躇が無かったように見えた。日常的な世話の範囲以外で、何かメアリから命令を受けているな?」


 メアリはぎくりとしてしまった。しかし、使い魔たちも気まずそうにメアリを見上げるので、彼らに説明させる前に白状する。


「……みんなにお願いしていたのです。私がエドガルドさまに掛けてしまった魅了魔法の解き方を、一緒に探してほしいと……」

「…………」


 エドガルドの眉が僅かに動いた。シュニとフラムはますます項垂れるが、エドガルドは寝台に腰を下ろしながらこう告げる。


「その命令には従うな」

「え……」


 使い魔たちと一緒に、メアリも驚いて瞬きをした。


「聞こえなかったのか? 魅了魔法を解く方法は探さなくて良い。俺の使い魔なのだから、これに関してはメアリよりも俺の命令を聞き入れろ」

「で、ですがご主人さま。ご主人さまからも……」

「もう一度言うぞ。今後一切、探そうとするな――メアリからの頼みであろうと、誰の命令であろうとな」

「!!」


 その言葉に、使い魔たちの表情がぱあっと華やいだ。メアリだけがまったく飲み込めずに、何度も瞬きを繰り返す。


「え……え?」

「ご主人! それじゃあご主人は、メアリの魅了魔法が解けなくても良いってことなんだな!?」

「分かったのならもう退がって良い。他の使い魔たちにも伝えておけ」

「ご命令しかと承りました、ご主人さま。ありがとう、ございます……!」

「お、お待ちくださいエドガルドさま。それにシュニもフラムもどうしてそんなに、喜んで……!!」


 狼狽えるメアリをよそに、使い魔たちはとても嬉しそうにはしゃいでいる。


「やったなシュニ!! 早くみんなにも教えてやろうぜ!!」

「言われるまでも。それではご主人さま、メアリさま、僕たちはこれにて」


 そうしてふたりが姿を消すと、寝室にはふたりきりになってしまった。


「ほ……本当に、使い魔さんたちにも探して貰わなくて良いのですか? 魅了魔法を解く方法……」


 メアリは少し緊張しつつ、寝台の上にぎこちなく座り直す。


「不要だ。お前も探すのはやめて、毎晩しっかり休め」

「そ、それは」

「……そもそもが、そんなものはどうせ必要ない」


 エドガルドが小さく呟いたので、メアリは首を傾げた。けれどもふと不安になり、彼の頬に触れて覗き込む。


「もしや、毒が抜けてからもお体の具合が……?」

「……」


 エドガルドは目を閉じて、メアリを安心させるようにこう言った。


「問題は無い。お前がレデルニア神を鎮めたあと、すぐに毒の影響は抜けた」

「……ほんとうに?」

「毒とは呼んでも、あれはほとんど呪詛のようなものだ。……それよりも」

「!」


 メアリの手首が捕まって、彼の方へと引き寄せられる。

 かと思えばもう一度、お互いのくちびるが重なった。


「……!」


 キスをしながら優しく後ろに倒され、メアリの背中がシーツに沈む。何が何だか分からなかった所為で、反射的にその背中にしがみついてしまった。


「っ、ん」


 口付けからはすぐに解放してもらえたものの、名残を惜しむかのようにゆっくりと離される。目を開けたメアリが見上げれば、エドガルドはメアリに覆い被さったままこちらを見下ろしていた。


(紫色の、瞳が……)


 黒い前髪の掛かった双眸は、神秘的な光を宿して揺れている。寝室の淡い灯りが逆光になっている所為か、いつもより暗くて深い色合いに見えた。

 エドガルドは、親指でメアリのくちびるを拭いながら尋ねてくる。


「……『話』の続きが必要だな?」

「〜〜〜〜……っ」


 一気に頬が熱くなり、メアリは慌てて抵抗した。

 先ほど隠し部屋で口付けをされたとき、メアリは彼に告げたのだ。魅了魔法を解き、雇われた務めを果たしたら、エドガルドからは離れると。


 その話は確かに終わっていなかった。けれども続けられる気がしなくて、ぐいぐいと必死にエドガルドを押し遣る。


「明日……! ごめんなさい、お話は明日に」

「駄目だ。……許さない」

「ひゃう!」


 今度は頬に口付けを落とされて、メアリは殆ど泣きそうになってしまった。


「え、エドガルドさま……!」

「俺から離れると言った癖に。そのあとにまったく違うことを口にした、本音はどちらだ?」

「う……」


 メアリのまなじりに触れてくれる、その仕草がとても恭しい。

 左手をメアリと繋ぎ、右手で頭を撫でながら、エドガルドはメアリの耳元にもキスを落とす。そして、僅かに掠れた声で紡いだ。


「メアリ」


 大切そうに名前を呼ばれる。

 少しだけ身を起こし、代わりにメアリのおとがいを指で掴んで、決してエドガルドから視線が逸せないように上向かされた。


「傍に居たいと、そう願ったな?」


 エドガルドは無表情に、けれども穏やかに目を伏せて、愛おしいものに注ぐまなざしをメアリに捧げる。


「……俺に、ちゃんと聞かせろ」

「…………っ」


 本心を偽るような大罪を、メアリが選ぶことは出来なかった。


「……お慕い、しております」


 震える声でそう答えると、視界が滲んで揺れてしまう。


「……あなたのことが、愛おしい……」

「――――……」


 そう答えた瞬間に、メアリの瞳からいくつも涙が零れた。

 エドガルドはその指で、子供をあやすように柔らかく、とてもやさしく雫を掬う。


「だったらお前の望むまま、俺の元にずっと居ろ」





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