表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/66

54 妹の存在



 呆然とした妹の悲しげな言葉に、メアリはぎゅっと眉根を寄せる。


(小さな頃からずっと、大神殿から出ることも許されなくて。……司教さまに逆らえず、自分で考えることが出来なかったのは、ニーナも同じ)


 メアリはそっと膝をつき、ニーナの間近に視線を合わせる。


「あのね、ニーナ」

「……おねえさま……」


 メアリは彼女に手を伸ばし、こう告げた。


「歯を食い縛って」

「……え……」


 そうしてニーナの顔を手でくるむと、額同士をごちん!! とぶつける。


「きゃん……っ!!」

「メアリ!?」


 悲鳴を上げたニーナが額を押さえ、驚いてメアリのことを見上げた。


「悪女だから暴力で解決するの。しっかり聞いて、ニーナ!」


 おでこが痺れてじんじんする。ニーナも痛かったはずなのだが、メアリも同じく痛かった。しかし、いまはそれどころではない。


「私には今、あなたが必要だわ!!」

「……!」


 メアリと同じ桃色の瞳に、ちかちかと星が瞬いた。


「いますぐ立って、力を貸して! 私の結界を強化した上で、ここにいる人たちを少しずつでも転移させるの!」

「……おねえ、さま……」

「転移魔法は触れている人しか飛ばせない。私ひとりでこの人数は無理だわ! 戦うには狭いホールの中、他の人たちに危害が及ぶかもしれない状況で、エドガルドさまは全力を出せないはず」


 エドガルド自身は否定しても、彼はそういう人なのだ。だからこそ、王になるのを避けるためであっても、民を直接殺めて傷付けるような方法は取らない。


「エドガルドさまをお助けしたいの。……お願いニーナ、力を貸して……」

「……っ、私は……!!」


 ニーナの瞳から、先ほどよりも大粒の涙が溢れる。


「私は。……誰よりも、何よりもメアリお姉さまに、私の存在を認めてほしくて……」

「ニーナ」


 幼い頃から傍に居たのに、誰よりもお互いが遠かった。

 大神殿の中ですれ違う際、司教たちに囲まれたニーナの姿を遠目に見たことを思い出す。あのときニーナも同じように、メアリのことを見詰めてくれていたのだろうか。


「認めない訳がないわ」

「……!」


 ニーナに手を伸べて、メアリは告げる。


「あなたは生まれたときからずうっと、私の妹なんだもの」

「お姉さま……」


 ニーナがぎゅっとくちびるを噤み、メアリの手を掴んだ。そして立ち上がると、涙を手の甲で拭って言う。


「私はお飾りの聖女どころか、神を穢した大罪人です。ですがいまは、お姉さまと一緒に……!」

「ニーナ」


 そのとき、レデルニア神が大きな咆哮を上げた。


『退け……!!』

「エドガルドさま!!」


 轟音と共に雷鳴が走り、エドガルドの雷が竜の尾を貫く。しかし振り上げられた尾の勢いが殺し切れず、それが天井を打ち砕いた。


『通せ。通せ。そこを通せ、聖女を寄越せ……!!』

「メアリ、逃げろ!」

(いいえ。結界を!)


 メアリは祈り、怯えて蹲る人々の頭上に物理結界を張り直す。それが落下してくる無数の瓦礫を弾くものの、どうしても広範囲を守り切れない。


(ただの瓦礫じゃないわ。崩れる天井の塊に、レデルニア神の魔力を帯びている……!)


 穢れた神の強い魔力が、結界を作るメアリの魔力に侵食する。結界に瓦礫が当たる度に、術者であるメアリの頭がひどく痛んだ。


 ニーナが隣に並び、同じく結界を張ってくれる。それによってメアリの負荷が少し和らいで、顔を上げることが出来た。


「お姉さま、結界は私にすべてお任せください!」

「ありが……」


 けれどもそのとき、ニーナの頭上に瓦礫が落ちてくる。


「危ない、ニーナ!」

「!!」


 結界を張り直す時間はない。メアリはニーナを抱き締めて庇おうとするが、それすらも間に合うはずがなかった。


 その瞬間メアリの目の前で、ニーナに覆い被さった人物がいる。


「ぐ……っ」

「クリフォード殿下!!」


 ニーナを押し倒して抱き締めたクリフォードの背中に、邪気を帯びた瓦礫が直撃した。


「く、あ……」

「クリフォード殿下……!? どうしてですの、なんという無茶を……!」


 ニーナの顔色が真っ青になり、クリフォードの下から急いで這い出る。ニーナとメアリが治癒魔法を使おうとするのを、クリフォードはすぐに止めた。


「私の治癒は、いま必要ない……」

「ですが、クリフォード殿下……!」

「それよりもニーナ、他の方々の、避難や救助を。……そしてメアリ、君には……げほっ、ぐ」


 苦しそうに咳き込んだのは、瓦礫が直撃したことだけが理由ではないはずだ。

 神の穢れた魔力か、あるいは毒の所為で、クリフォードの顔から血の気が失せてゆく。


「私の優柔不断や浅慮で、君を、君たちを傷付けた。君が追放されるときだけでなく、そのずっと昔から、僕だけは君の味方であるべきだったのに……」

「クリフォード殿下」


 メアリはぎゅっとくちびるを結び、クリフォードに治癒の魔法を掛ける。


「メアリ。私は……僕は」

「ニーナ、クリフォード殿下をお願い。そしてクリフォード殿下は、ニーナをお願いいたします」


 クリフォードからの謝罪なんて必要ないのだ。メアリが望んでいるものは、そこには存在しない。


「託したわ」

「……っ!!」


 ニーナは相変わらず泣きそうな顔で、それでも懸命に頷いた。


「私にお任せくださいませ。行ってください、お姉さま!」

「ありがとう。ニーナ」


 ニーナひとりの結界で、この会場にいる人たちを守れるはずだ。それを確信し、メアリは再び駆け出した。


 目指すのは、レデルニア神と戦うエドガルドの元だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ