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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜5章 大罪の悪女〜

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52 神の望むもの

(……ありがとうございます、エドガルドさま)


 その瞬間、メアリはぱちっと目を開ける。


「――無言詠唱、完了」

「は……?」


 ニーナたちに気付かれないように、長い長い詠唱を心の中で唱えられた。

 エドガルドの背中に守られ、視線から隠されていたメアリは、両手を翳して最後の仕上げを口にする。


「神よ。終焉を前に悪しき力封じ、秩序に従い守り給え!」

「!!」


 メアリが組んだ両手を中心にして、光が広がった。

 それは球状の結界となり、エドガルドに迫るレデルニア神の腕を弾くのだ。


『ぎ……!!』

(んん……っ!)


 エドガルドへの直撃は防いだものの、メアリはぎゅっと目を瞑る。レデルニア神が悲鳴のような咆哮を上げると、ホール中の窓やシャンデリアがびりびりと震えて共鳴した。


「見ろ! メアリさまが、神をも退ける結界を!!」

「なんというお力だ……!!」

「メアリ」


 エドガルドがメアリを守るように抱き寄せ、耳打ちするように小さな声で言う。


「もういい。あとはすべて俺が対処する」

「いいえ。いくらエドガルドさまといえど、おひとりで神と戦っていただくわけには……!」


 レデルニア神に纏わり付く霧のようなものが、毒素を帯びていることは明白だった。

 いまの結界は、エドガルドへの物理攻撃を弾くだけではなく、この場にいる参加者たちを毒霧から守るためのものだ。


「こ、この光は……?」

「メアリさまの魔法なのか……!?」


 広がってゆく結界に包まれた人々が、自分たちの体に淡く滲む光を見て驚く。強力な結界に解呪効果を混ぜた魔法が、なんとか上手くいったようだ。


(神と戦うだけであれば、エドガルドさまなら可能なのかもしれない。けれど人々を守りながらでは、どうしてもエドガルドさまの御身が危ういわ)


 転移魔法で大勢を逃すことは出来ない。エドガルドの使い魔たちの魔法は、上位存在である神に相殺されてしまう。神を殺す大罪を犯せるのは人間だけだという、強固な掟が存在するのだ。


(毒が通用しないようにする結界も、お怪我をなさった際の治癒も、エドガルドさまには効かない……。どれほど強い聖女の力を持っていても、エドガルドさまだけはお助け出来ない……!)

「メアリ」

「……っ」


 強い目眩に襲われて、メアリは顔を顰める。


 レデルニア神を結界で弾いた瞬間に、頭の奥が鷲掴みにされたような衝撃を覚えたのだ。

 エドガルドはそれを案じ、ニーナたちに知られないように止めてくれている。


(詠唱に時間と魔力を要する、最上級の結界なのに。それでもやっぱり、神を完全に拒むことは出来ない)


 メアリは痛みを堪えながら、エドガルドを見上げた。


「妹を、止めたいのです」

「……くそ」


 エドガルドを守るためだと言ってしまえば、絶対にこの場には居させてくれないだろう。

 だからメアリは、もうひとつの理由だけを口にする。やさしい人の力になるためには、どうしても嘘が必要だった。


「言っておくが、さすがに手段を選べないぞ。いざとなったら他の人間を切り捨ててでも、お前を最優先する」

「やはり、レデルニア神さまの毒が理由で……?」

「ただ神殺しを行うだけでは、恐らく終わりはしないだろう。下手をすればこの国を中心に、大陸中が毒で汚染されるだろうな」


 メアリの結界でも、大陸中に範囲を拡大することは出来ない。ましてや魔法の効かないエドガルドのことは、傍にいたって守れないようだ。

 やはり方法は、レデルニア神を正常に戻すしかない。


「こんなの、おかしいです……」

「ニーナ」


 ニーナが震える声で呟いた。結界に弾かれたレデルニア神は、爛れた腕を掲げるようにして悶え苦しんでいる。


「これは神たる存在。服従させれば、誰もが私をお姉さま以上だと思い知るはず。それなのに」

『ぎあ、あ、あ……!』

「お姉さまの結界なんかが、神を押し留めるなんて。欲が無く、罪から遠い聖女が、それほどまでに強いとでも!?」


 巨大な竜から遠ざかるように、ニーナが一歩後ずさった。


「なぜお姉さまの結界に負けるのです、レデルニア神さま!! 私のことを好いているのでしょう? 恋しい私のためでしょう!?」

「……ニーナ」

「どうして私のために、あの男を殺してくれないのですか……!!」


 メアリは、支えてくれるエドガルドの腕に縋り付きながら息を吐き出す。


「いまのレデルニア神さまは、すべてのお力を発揮出来ていないわ」

「いいえ、有り得ません! だってこれは私のため、それなのに」

「……だって、偽りの想いだもの……」

「!!」


 エドガルドの袖口を握り締め、やっとのことで頭痛に耐えながら異母妹に告げる。


「魅了魔法による恋は、相手を支配しているだけ。聖なる神がそんな不誠実に侵されて、正しい力を出せるはずもないの」

「……魅了魔法が、相手への支配……?」

「エドガルドさまが仰った通り、神は人の犯す罪を嫌うわ。……無理やり恋をさせるという大罪で縛り付けた想いは、神々の力を妨げてしまう……」


 こめかみから汗が伝ったが、エドガルドは見守ってくれていた。


「ニーナ。いい子だから、魅了魔法を解いて」


 メアリは肩で浅く息をしながら、異母妹にそっと促す。


「レデルニア神さまを、聖国にお返ししましょう?」

「……っ」



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