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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜5章 大罪の悪女〜

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51 恋の魔法

「その通りなのです、お姉さま!」


 頬を嬉しそうに紅潮させたニーナが、ドレスの裾を広げるように摘んではしゃぐ。異形の神の下でくるくると回って踊るその姿に、クリフォードがますます顔色を悪くした。


「クリフォード殿下におねだりして、レデルニアの神殿に招いていただきました。そこで一番得意な魔法を使ったら、レデルニア神とこんなに仲良くなることが出来たのですよ!」

「あなたの一番得意な魔法。それは……」

「ええ!」


 ニーナがドレスの裾から手を離すと、それはまるで花びらのようにふわりと揺れた。


「――魅了魔法です。レデルニア神は今や、私の虜」

「……っ」


 メアリの知る伝承のレデルニア神は、半人半竜の体を持ち、その背に美しい鳥の両翼を持つ姿をしていたはずだ。


 聖国の守護神にふさわしい、荘厳な美しさを持つと語られていた。

 けれどもニーナの背後に立ちはだかるレデルニア神は、禍々しいほどの魔力を全身に纏い、歪んだ姿形をしている。


 全身を覆う醜い鱗も、その肌を不快そうに掻き毟る鉤爪も、神どころか魔物にしか見えないのだった。


「聖女ニーナさまが、レデルニアの神を魅了しただと……?」

「そんなことが可能なのか。なんという、凄まじい力をお持ちなのだ……」


 ニーナの言葉を聞いた貴族たちも、恐怖に震えながら驚愕している。それを聞いたニーナは、満足そうに目を細めた。


「私に恋をして下さった途端、このような醜い姿になってしまわれましたけれど……」


 ニーナはくすくすと笑いながら、レデルニア神の竜の尾に甘えて擦り寄る。


「恋とはそういうものなのですよね? 醜く浅ましい、ひどい欲望。ふふ、聖女には無欲さと清貧を求める神にも、そんな感情を持つことが出来るだなんて!」


 クリフォードが項垂れて床に膝を突く。ニーナはそれに見向きもせず、幸福そうに笑った。


「レデルニア神は私のもの。お姉さまにすら出来なかった、神をも虜にする聖女の力を持っているのです!」



 メアリは静かに目を伏せると、エドガルドの腕の中でこう言った。


「……エドガルドさま。お願いがあります」

「――――……」


 妹に聞こえない小さな声で、そっと懇願する。

 メアリがエドガルドに告げているあいだ、ニーナはクリフォードや貴族たちが怯える中で、ひとりだけ上機嫌に歌うように、竜の尾と踊るように歩いていた。


「ご覧くださいお姉さま、すごいでしょう!」

「…………」

「これで、お姉さまよりも私の方がすごいと証明できたはず! 私の方がずっと、ずっと……!!」


 立ち止まったニーナが両手を広げて言い切った、そのときのことだ。


「――それで?」

「!」


 メアリの肩を抱いていたエドガルドが、心底からどうでもよさそうな言葉を吐いた。


「くだらない茶番に、いつまでメアリを付き合わせるつもりだ」

「……なんですって……?」


 メアリの肩から手を離し、エドガルドが庇うように歩み出る。メアリはそれを受け、密かに両手を組んで目を閉じた。


「七十二柱のうち、序列二十九位の神。確かにレデルニア神の力は『それなりに』強大であり、それを殺して国を奪おうと考える敵は少ないだろうな」

「当然です」

「だが、それがなんだと言っている」


 ニーナはレデルニア神を背後に従え、エドガルドを強く睨み付ける。


「虚勢ですね。いかなエドガルド殿下といえど、私たちのことは恐ろしいはず……!!」


 レデルニア神の開いた口から、ぼたぼたと赤い粘液が垂れた。それはニーナの傍に落ち、美しいドレスを汚す。


「偉大なる神を、人である私が服従させました。私の素晴らしさを、凄まじさを、分かりもしない愚者でもないでしょう!!」

「神の力は、貴様自身の力ではない」


 エドガルドの声は冷ややかで、そこには蔑みすら滲んでいた。


「どうして貴様よりもメアリの方が、聖女として優れた力を持つのか教えてやる」

「なにを……」

「神どもは罪のない魂を好むらしい。その罪を生み出す根源とは、人間の持つ欲の心だ」


 エドガルドの説明する内容を、ニーナはどうやら知らなかったようだ。


 ニーナは大神殿から大切にされるあまり、聖女としての働きを免除されてきた。その結果として、幼いころに受けるべき聖女教育を、与えられてこなかったのではないだろうか。


「だからこそ、メアリのような欲を持たない聖女が強い。――そして、その逆が起きるのは道理だな」


 エドガルドは、ニーナを挑発してこう言った。


「欲にまみれた醜い聖女が、メアリに勝てるとでも思うのか?」

「っ、レデルニア神さま……!」


 エドガルドの断言に、ニーナが聞いたことのないような声音で言った。


「いまの言葉をお聞きになりまして!? アイゼリオン国の王太子が、レデルニア神さまの聖女たる私を侮辱したのです!!」

『う……あ』

「レデルニア神さま。どうかあなたの恋しい私のために、あの男に思い知らせてくださいませ!!」


 上半身が人に似た竜の異形は、鉤爪のついた腕を大きく振り上げる。


 夜会のホールいっぱいに膨れ上がったその体で、人間が攻撃されてはひとたまりもない。ましてやその爪はどす黒い紫に変色し、明らかな毒を帯びていた。


「まずは、お姉さまの今の居場所を奪うところから……!!」




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[一言] 神さま可哀想(´;ω;`)ウッ…
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