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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜5章 大罪の悪女〜

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47 決意の悪女


「実のところ、私自身もまだこの恋心に慣れておらず……! エドガルドさまに知られたら、ますますどうしたら良いか分からなくなってしまいます!」

「こ、恋心を自覚したてということですか!?」

「それはなんというか、一大事では……!」

(ちょっと待って。これはもしかしたら、チャンスかもしれないわ)


 メアリは思考を巡らせる。羞恥心に襲われているのは事実だが、同時にあることを閃いてもいたのだ。


(恥ずかしいけれど。すごく恥ずかしいけれど……!! この失言を利用して、悪女アピールに活用しなくちゃ……!!)


 貴族の男性だけではなく、女性たちも心配そうに集まってくる。年若い令嬢ばかりではなく、メアリよりもお姉さんが多いようだ。


「エドガルドさまのことを考えるとぼんやりしてしまい、使い魔さんたちとのお掃除にも身が入らず……。せっかくエドガルドさまの御本をお借りしたのに、あのお方の持ち物が手元にあると思うと、それを読むこともままなりません」

「まあまあ、メアリさま……」

「今日の夜会だって、本当なら皆さまにご挨拶をして回るべきですのに。エドガルドさまのお傍から離れがたく、この時間にまでなってしまいました……」


 これらはすべて事実なので、話しながらも罪悪感が凄まじい。


(恋心に溺れて、王太子の婚約者にあるまじき時間を過ごしてしまう大罪。こんな人間が王太子妃になってしまっては、国の未来が危ういと不安に思っていただけるはず!)


 メアリは恥じらいと戦って、ぷるぷるとしながら周りに語る。


「昨日もそうです。エドガルドさまのうたた寝に遭遇して、すぐに起こして差し上げるべきでしたのに……! どこか無防備に眠っていらっしゃるお顔が愛おしくて、三十分も眺めてしまいました……!」

「あらあら、まあ……」

(皆さましかとご覧ください! これぞ! 色欲と怠惰の合わせ技!!)


 メアリの行った所業のうち、一番の悪事は『魅了魔法を掛けてしまったこと』だ。


「何よりも、私が罪深いのは……」


 それを秘密にする代わりに、二番目の悪事を打ち明ける。

 メアリは真っ赤になっている顔を上げ、その大罪を告白した。


「……このような浅ましい恋心を抱いていることを、エドガルドさまに打ち明けていないことなのです……!」

「メアリさま……」


 周りを囲む人の表情が、なんだか深い思いやりに満ちている。

 それを不思議に思って瞬きをすると、傍にいた女性が瞳を潤ませてこう言った。


「メアリさまは本当に、心底エドガルド殿下に惚れ込んでいらっしゃるのですね……!」

(あれ……っ!?)



 その発言をきっかけに、女性たちがメアリを励ますよう駆け寄ってきた。


「健気なメアリさま。殿下に恋をなさって、ずっと悩んでいらっしゃったのですね?」

「あ、あの、皆さま?」

「わたくしたちメアリさまの味方ですわ。今度ぜひお茶会にいらして! 切ない恋を経験したお友達も、見事成就させたお友達もお呼びしますわ。みんなで一緒に語り合いましょう?」

(あわわわわわ! 駄目だわ、悩んでいたのは本当だもの! やさしい言葉がうっかり胸に沁みちゃう……!!)


 女性たちは目を輝かせながら応援してくれ、男性陣はうんうんと頷いている。なんだか微笑ましく見守られている雰囲気であり、悪女に向けるまなざしではない。


「冷酷と噂されるエドガルド殿下であろうとも、メアリさまにとっては愛おしいお方なのね」

「! は、はい……! エドガルドさまは私におやさしくて、それに……」


 そのとき、誰かが呟いた。


「――メアリさまはエドガルド殿下によって、魅了魔法に掛けられているのでは?」

「!!」


 その場の空気が一気に凍り付き、メアリを見る目がはっきりと変わる。


「違います! エドガルドさまは、私にそのような魔法など……」

「メアリさま……」


 婦人がそっと手を伸ばし、メアリの頬をやさしく包んだ。


「お心当たりはありませんか?」

「!」

「魅了魔法とは、対象を強制的に恋に落とす魔法。大変難しい魔法ではありますが、エドガルド殿下でしたら可能なはずです」

「有り得ません。私は断じて、魅了魔法に掛かったのではありません」


 魅了魔法を使っているのは、エドガルドではなくメアリなのだ。


「私は自分自身の感情で、エドガルドさまに恋をして――……」

「魅了魔法とは、なんと卑劣なことをする……!!」


 誰かが言い放ったその言葉に、メアリの肩がびくりと跳ねた。


「筆頭聖女を手に入れるために、魅了魔法によってメアリさまを陥落させたのだ。神に指定された王位を強固にするべく、ご自身の妃殿下にそのような裏切りを……」

(違うわ。エドガルドさまが望んでいるのは、その逆だもの)


 そんな弁解をしてしまっては、エドガルドの計画を妨害してしまう。メアリの心臓に突き刺さった鋭い言葉が、じくじくと痛みを疼かせた。


「人の心を魅了魔法で操り、その想いに付け入って利用するなど!」

「そんな悪人を、神が決して許すはずもない」

「……っ」


 それらはすべて、メアリに向けられるべき言葉なのだ。


「――悪女はただひとり、この私です」

「メアリさま……?」


 震える声で口にして、メアリは背筋を正した。


(悪女のふりなんて、する必要すら無かったのだわ)


 彼らの言うことはすべて正しい。

 魅了魔法で人の想いを支配し、操って恋をさせることこそが、他者を踏み躙る悪事なのである。


(……神に許されない大罪を、私は最初に犯している……)




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