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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜5章 大罪の悪女〜

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45/62

45 様子が変です


「何か飲みたいものでもあるのか? 好きなものを言え。あちらのテーブルにも、お前のまだ知らない甘味を用意させている。給仕を呼ぶぞ」

「い、いえ! それは大変嬉しいですし、後で是非ともいただきたいのですが。いまはその」


 メアリは言い、自分の腰に視線を落とした。

 大きなホールは立食形式だが、壁際にいくつかの椅子が用意されている。エドガルドとメアリはそこに座り、周囲を大勢が取り囲んでいる状態だった。


 問題はこの座り方だ。

 エドガルドは長椅子の左側にメアリを座らせると、自分はその右側に座り、メアリの腰をしっかりと抱いている。


 メアリは心臓をばくばくと跳ねさせながら、小さな声で抗議した。


「これではまるで、私を人前に連れて来て下さったものの、『誰ひとりとして近付けるつもりはない』という意思表示のようでは……!?」

「そうだが?」

「『そうだが』!?」


 あまりにもしれっと言い切られて、供給過多のメアリはちょっぴり泣きそうになった。


 いくら魅了魔法に掛かっているとはいえ、溺愛は不本意そうなのが普段のエドガルドだ。それなのに、今日は一体どうしてしまったのだろう。



「エドガルドさま、頭を何処かにぶつけてしまいましたか?」

「ぶつけてない。撫でなくていい」


 メアリの腰をがっちりと抱えながら、サイドテーブルに並べられているメロンを一切れ口元に運んでくれる。

 人目が恥ずかしくて躊躇するが、美味しそうに思っていたのはバレているのだろう。エドガルドは素知らぬ顔で、メアリのくちびるにメロンをちょんちょんと触れさせる。


「食べないのか? メロンは知っているのだろう」

「は、はい。果物は多少なら……むっ」


 口を開いてしまったため、抵抗虚しくメロンを放り込まれた。芳醇な甘さが広がる中、メアリは必死に顎を動かす。


「んむむ……」

「は。そんなに懸命に咀嚼していると、小動物のようだな」


 そんなメアリたちを見て、周囲はますますどよめくのだ。


「エドガルド殿下が、あれほど機嫌よく過ごしていらっしゃるとは……」

「あの、エドガルドさま……!」


 メアリはなんとかメロンを食べ終えると、ひそひそとエドガルドに耳打ちした。


「こ、これはどのような作戦なのでしょう? 私、今日こそは頑張って、『国をも滅ぼしかねない悪女』を演じるつもりで来たのです!」

「お前の気概は知っている。その小さな鞄に氷魔法をかけて、チョコレート入りの箱をありったけ仕舞い込んでいる様子も見ている。何に使うのか全く分からんが」

「え!? これはもちろん皆さまの前で美味しそうに食べて自慢し、暴食と傲慢を同時に行う作戦です。我ながら安直で、想像しやすいと思っていたのですが……」

「国をも滅ぼしかねない悪女というより、冬眠前に好物を溜め込むリスのようだったぞ」


 エドガルドは呆れたまなざしのあと、ふっと柔らかく笑った。

 その表情がやはり、これまでと全然違っている。


(そう見えるのは、私がエドガルドさまを愛おしく思うからなんだわ)

「メアリ」


 エドガルドはメアリの髪を指で掬いながら、耳元で小さく囁いた。


「今日は悪女の振る舞いをする必要はない。普通にしていろ」

「そんなことを仰って……」


 メアリは嫌な予感がして、ひそひそとエドガルドに反論する。


「また先日のように、エドガルドさまおひとりが悪者になられるおつもりでは?」

「そうじゃない。今夜はお前の披露目だろう?」

「……!」

「俺が、お前を見せびらかすための日だ」


 エドガルドは葡萄をフォークで刺すと、それを同じように口元へと差し出す。


「分かったら、もっと愛でさせろ」


 メアリの口に葡萄を放り込み、むぐむぐと食べる様子を満足そうに眺めて、指で戯れるように髪へと触れた。


「……お前のことをいくら自慢しても、まったく足りる気がしない」

「……っ!!」


 メアリは葡萄を飲み込んだあと、両手で顔を覆って嘆く。


「うう……!! エドガルドさまがっ、壊れておしまいに……!!」

「どうした、疲れたか?」


 エドガルドはそう言って、メアリの頬に手を伸ばす。


「先ほどから、ふとした拍子に疲れた顔をしている。溜め息も多いな」

「そ、れは」

「何かあれば言え。王族の魔力にだけ反応する隠し部屋で、休ませてやれる」

(疲れているのは事実だし、有り難いお申し出だけれど……!)


 隠し部屋というのは恐らく、有事の際の避難経路なのだろう。だが、人前で凄まじい注目を浴びている現状であっても、メアリがその言葉に甘えるのは難しい。


(これ以上いまのエドガルドさまのお傍にいては、柱に何度も額を打ち付けてしまいそう)


 心臓の鼓動がとんでもなかった。魅了魔法に翻弄されるエドガルドの気持ちが、いまのメアリにはよく分かる。


「え、エドガルドさま! 私、少しあちらの女性たちとお喋りをして来たいのです!」


 咄嗟に思い付いてそう言うと、エドガルドは少し眉根を寄せた。


「……どうしてもか?」

(どうしましょう、しょげているお顔が可愛らしい……!)




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