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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜4章 色欲の悪女〜

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30 幸せが回る



 ぱちぱち瞬きを繰り返していると、エドガルドが僅かに苦い顔をする。


「どうした。もう食わないのか?」

「! いえ、いただきます!」


 見ているだけでも美しいチョコレートだが、やはり食べてこそなのだ。意を決して、悪女らしく『暴食』に挑むことにする。


「チョコレートは、素手でいただくものなのですか?」

「それでもいいが、一定の温度下に留めなければ溶けるものだ。人間の体温にも耐えられないので、不安ならそれを使え」


 エドガルドは視線で示したのは、金色のピックだ。先端が兎の形に彫り込まれていて可愛らしく、メアリはこのピックを借りてチョコレートを味わうことにした。


「んんっ、美味しい……!」

「…………」


 一粒一粒がもたらしてくれる感動に、メアリは思わず頬を押さえる。


 豊かなミルクの風味を感じられるものや、品の良い苦味を感じられるもの。真っ白で滑らかなチョコレートや、オレンジの香りがするものもあった。


 中にはメアリのまったく知らない、とろりとした美味しいジュレの入ったチョコレートや、中にさくさくとしたナッツが入ったチョコレートも存在しているのだ。


 一粒ずつ大切に楽しみたい気持ちと、次のチョコレートを早く食べてみたい気持ちに挟まれつつ、メアリはこの僥倖を噛み締める。


(お口の中に、幸せが溶け出していくかのよう……)


 エドガルドはテーブルに頬杖をつき、そんなメアリの様子をじっと見詰めていた。


「エドガルドさまがみんなに言って、世界中からこのチョコレートを探して下さったのですよね。ありがとうございます……!」

「それほど難しいことじゃない。各国の情報を収集する中で、どの国のどの街でどんな事業が栄えているかが見えてくる。それを製菓に絞って分析し、あとは実際に使い魔たちへ足を運ばせれば良いだけだ」

「しれっと簡単そうに仰ってますが、とても難しいことでは……? 日頃から様々な情報に気を配る必要がありますし、それを的確に活用なさっているのもすごいです」


 メアリが目を輝かせていると、エドガルドはふんと鼻を鳴らした。


「大袈裟だろう。やっていることは所詮、美味いチョコレート屋の情報収集だ」

「ふふ」


 それは確かにその通りなので、メアリは笑ってしまった。


「言い換えれば、私を幸せにするためにお力を発揮して下さったのですね」

「ぐ……」


 不本意そうに顔を顰めるエドガルドに、申し訳ない気持ちも確かにある。けれどもそれと同じくらい、メアリはどうしても嬉しかった。


(美味しいチョコレートを食べられたことも、そうだけれど。何よりもエドガルドさまが私のためにと手を尽くして下さった、そのお気持ちがとても嬉しい)


 心の中がほわほわするのは、先ほどエドガルドのことを可愛らしく感じたときとおんなじだ。


「ありがとうございます、エドガルドさま」

「……訂正させろ。これは決して、お前のためにやったことじゃない」


 それではどんな理由があるのかと、メアリは首をかしげる。

 そして、自分の近くに置かれたお皿が、ほとんど空になってしまっていることにはっとした。


「ごめんなさい!! エドガルドさまもチョコレート、食べたかったですよね!? そんなこと当たり前ですのに私ったら、自分の前にあるお皿のチョコレートは私にいただいたものだと勘違いしてしまい……!!」

「違う」


 エドガルドは額を押さえ、大きく溜め息をついた。


「お前の喜ぶ顔が見たいと思った、俺自身のためにしたことだ」

「え……」


 メアリは驚いて、エドガルドを見詰める。エドガルドは顔を上げると、その美しい紫の双眸でメアリを見詰め返した。


「お前の口に合うものが何か、それを知りたかった。俺が用意させたものが美味かったとき、お前が一体どんな表情をするのかを想像して、その顔が見たくてたまらなかったんだ」

「エドガルド、さま」

「……想像以上に愛らしい顔をしたので、いまはそれに参っている」

「……!!」


 忌々しそうな不機嫌顔なのは、『メアリの可愛い顔に参っている』からなのだろうか。なんだか恥ずかしくなってきて、メアリは自分の頬を覆った。


「……変な顔をしていた気がするのですが!!」

「愛らしいと言っただろうが。――あまり何度も繰り返させるな、お前が許しを請うまで止まらなくなるぞ」

「ごめんなさい!!」


 ただチョコレートが美味しかっただけなのに、そんな風に評してもらえるなんて想像もしていない。落ち着かない気持ちになり、メアリはぎこちなく俯く。


「み……魅了魔法。やっぱりすごく、怖いですね……」

「本当にな」


 溜め息をついているエドガルドには、心から申し訳ないと感じた。けれども胸に生まれた温かさを、なんとか言葉にしたくなる。


「エドガルドさま、どうしましょう」

「……なんだ?」


 メアリは火照る頬を押さえたまま、どきどきしながらエドガルドに告げた。


「私が喜ぶ姿を、エドガルドさまは見たいと仰って下さるのですよね」


 そう尋ねれば、エドガルドは観念したように口を開く。


「そうだ。悪いか?」

「そんな風に言っていただけると、私も嬉しくなります。私はいま、とっても喜んでいます!」

「…………そうか。それで?」

「つまり! 私が喜ぶとエドガルドさまが満たされて、エドガルドさまが満たされると私が喜ぶ…………これがこう、繰り返されますので……」


 人差し指をくるくると回し、メアリは真剣な表情で説明する。

 言いたいことが伝わった気がした瞬間、にこーっと微笑んで言い切った。


「私たち。ふたりで一緒に居る限り、ずうーっと幸せなのではありませんか?」

「――――――――……」

「エドガルドさまーーーーーーーーっ!?」


 ごおん!! と大きな音と共に、エドガルドがテーブルに額を打ちつけた。メアリは大慌てで立ち上がり、突っ伏しているエドガルドの肩を揺さぶる。


「エドガルドさま、お気を確かに!! 大丈夫ですか、お怪我は!?」

「別に。ちょっと血を吐くかと思っただけだ、大事は無い」

「それは一大事と言えるのでは!?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] テーブルの安否 [一言] クリティカルヒット連打状態、楽しすぎます。
[一言] 楽しく作品を読ませて頂いてます。エドガルド様はパワーアップしてますね!メアリちゃんはもっと無自覚に面白くエドガルド様を振り回して欲しいです~
[一言] …こっちは砂糖を吐きそうだわ(笑)
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