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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜3章 傲慢の悪女〜

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21 身を守る手段は必要ですか?



「それではエドガルドさま、参りますか?」

「待て。当然だが、夜会ではずっとお前の傍に居られる訳では無い」


 確かにエドガルドの言う通りだ。夜会という公の場になれば、彼がメアリから離れなくてはならない場面も出てくるだろう。


「ティストの森にお前を行かせている間、何をしていても気が気では無かった。最低限、お前の護身方法については考えておくぞ」

「ですがシュニからのお話によると、夜会の会場には結界も張られているし、警備の方もいるのですよね? それほど心配していただかなくとも、そこまでの危険は無いような……」


 何の気は無しにそう言うと、エドガルドは顰めっ面のまま当たり前のように返してきた。


「……お前、夜会のあいだ中ずっと俺の腕に抱えられて居たいのか?」

「な、なんとか致しましょう!」


 そんな状況のエドガルドが、途中で我に返ってしまうのが可哀想すぎる。メアリがこくこく頷けば、エドガルドはじっとこちらを観察するように覗き込んできた。


「それだけ潤沢な魔力があれば、攻撃魔法くらいは当たり前に使えるだろう。これまでに経験は?」

「神殿の決まりでは、聖女は攻撃魔法を使うことが許されていません。神に反する行いだからということを説かれていましたが、真の目的は聖女から武力を取り上げて、神殿に反抗出来ないようにするためかと」


 メアリもそれくらいは分かっていたが、攻撃魔法を使いたいと思う場面も無かったので、その教えに逆らうことは無かったのである。


「……待っていろ。神殿をいつ滅ぼすかは、最も効果的な機会を検討して考えている」

「ですからそれ、実行すると世界各国の報復を受けてしまいますので!」

「まあいい。ひとまず念のため、攻撃魔法を習得しておけ」


 エドガルドは言い、手のひらを上にしてメアリの前に差し出す。そこにぼんやりと浮かんだ魔法陣は、繊細な魔法式で描かれたものだった。


「この魔法陣は、エドガルドさまが考案したものですか?」

「考案というほど大袈裟なものではない。適当に組み上げたらこうなった」

「改めて、天才的な思考をお持ちですね……」


 魔法を発動させるには、体内に流れる魔力があることは大前提の上で、その魔力を一定の法則に従って構築する必要がある。その法則を式にしたものが、魔法陣だ。


「式の内容を説明する。まず……」

「いえ。恐らくは、理解できたと思います」

「!」


 メアリは目を瞑り、魔法陣から読み取ったことを頭の中に思い描いた。


「これは炎の魔法陣ですよね? 初級のもので、威力も弱い代わりに消費魔力も少ないもの。正しいですか?」

「……筆頭聖女が、攻撃魔法への才もあるとはな」


 エドガルドはシュニを見遣り、彼に命じる。


「窓を開けろ、使い魔」

「はい、ご主人さま」

「メアリ。窓の外に向けて、試しにその魔法陣を撃て」

「分かりました、頑張ります!」


 メアリは張り切って窓辺に立ち、手のひらを外に向けた。

 ここは城の中でも高い場所にある部屋で、窓の近くには何も無い。初級魔法程度の火が出ても、誰かに迷惑を掛けることは無いだろう。


「では参ります。せえの……っ」


 目を瞑り、脳裏に魔法式を描いてゆく。

 それに合わせて魔力を練り、すべてが上手く噛み合った瞬間、メアリは目を開いて前方を睨んだ。


 その、次の瞬間だ。


「――――っ!!」


 ごおっと凄まじい音を立てて、炎の濁流が噴き上がった。


「え……」

「…………」


 ぽかんと口を開けたメアリの後ろで、エドガルドが眉根を寄せたような気がした。

 周囲の空を飛んでいた鳥たちが、突然の炎に驚いて旋回する。炎はすぐに消えたものの、いまの火柱はどう見ても、初級魔法の火では無かった。


「ごめんなさい! おかしいですね、教わった式の通りなはずなのですが……!!」

「め、メアリさま。どうやらまだ攻撃魔法に不慣れでいらっしゃるため、最大出力で魔法が発動してしまうようです」


 せっかく教えてもらったものの、これでは使う機会も訪れそうにない。

 たとえ夜会で何か危険があったとしても、問答無用でその相手が焼き尽くされてしまう魔法など、そうそう発動できるはずもなかった。


「エドガルドさま……」

「…………」


 けれどもエドガルドはメアリを見たあと、視線を逸らしてからしれしれと言う。


「……これで『最低限』身を守る手段が身についたな。この程度ではまだ安心してひとりに出来はしないが、それでも無いよりはましだ」

「いえ!! 最低限どころか過剰すぎて、むしろどうにもならないのですが!!」


 こうしてメアリは、なんだか火魔法を覚える前よりも心配事が増えた気持ちで、いよいよ夜会会場に転移したのだった。




***

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな強力な魔法で護身だなんて・・・ みんな、それで納得しちゃうんだと、一人でクスクス笑ってしまいました。 溺愛されてて良いなぁ ってアブナイアブナイ
[一言] すげぇ初級魔法だな!(笑)
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