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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜3章 傲慢の悪女〜

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19 恋の在り方

「み……」


 メアリはこくりと喉を鳴らしたあと、エドガルドをおずおずと見上げて尋ねた。


「魅了魔法は、それほどまでに……?」

「!」


 すると、エドガルドははっとしたように目を見開く。


「……魅了魔法」


 小さな声で呟いた彼は、ぐっと眉根を寄せてメアリを見つめた。


「そうだ。……そのはずだ。なのに、何故俺は……」

「……?」


 何処か苦しそうな彼の様子に、メアリもなんだか胸が苦しくなる。


(こんなお顔をさせてしまうのも、やっぱり私の所為だわ。なるべくエドガルドさまに心労をお掛けしないよう、勉強しないと)


 何しろメアリは人生において、神殿から出ることもほとんど無かった。世間を知らない自覚はあるので、それを学びで補わなくてはならない。


「エドガルドさま」


 メアリはそっと手を伸ばし、エドガルドの頬をくるむように触れた。すると、エドガルドの肩が僅かに跳ねる。


「恋とは一体、どのようなお気持ちになるのですか?」

「……」


 彼の心情を理解したくて、メアリは寝台に寝転んだまま小首をかしげた。


「……お前が俺に、それを言わせるのか?」

「ご、ごめんなさい……!」


 ひとまずこれでひとつは分かった。

 誰かに恋をしている場合、その張本人に恋心について問われるのは、とても苦い心情になることのようだ。


「私、これまで生きてきた中で、どなたかに恋をしたことが一度も無いのです」

「……」


 そう告げると、エドガルドの眉間の険しさが僅かに和らぐ。


「そうか」

(なんだかちょっとだけ、エドガルドさまのご機嫌が直られたような……)


 それに気が付いて、メアリはその法則に思い当たる。


「私の過去のことを知ると、エドガルドさまは嬉しいですか?」

「俺の感情ではなく、魅了魔法の所為だ。……間違いなく」

「でしたらええと、元婚約者のクリフォード殿下との古い思い出について……」

「その話はまったく聞きたくない」

「む、難しいです……!」


 やはり恋心とは複雑だ。想像だけで判断すると、エドガルドにまた迷惑をかけてしまう。


「教えて下さい、エドガルドさま」

「――――……」


 そう懇願すると、エドガルドは言葉に詰まった様子で顔を顰める。


「恋というものは、一体どのようなお気持ちになるのでしょう……?」

「……っ、くそ……」


 エドガルドは観念したかのように、何処か自棄になった様子で口を開いた。


「――そんなものは、俺自身にも分からない」

「分からない?」


 意外な答えが返ってきて、メアリは彼の言葉を繰り返す。


「俺だって、他人に心を奪われたことなどは、一度も無かった」

「…………」


 シーツに散らばったメアリの髪を、エドガルドの綺麗な指が梳く。


「少しでも気を抜けば、お前のことしか考えられなくなるんだ。お前の笑った顔を見て、それ自体に何かままならない苛立ちを感じもすれば、同時にもっと見ていたくもなる。お前を傍に置くのは耐えられないが、離しておくのはもっと耐えられそうにない」


 エドガルドが教えてくれたのは、矛盾しているようにも感じられる感情だ。

 けれども彼のまなざしが、その焼け付くような真摯さを物語っている。


「お前の声が、俺に向けられるのが心地良い。……それなのに、いますぐにでも俺の名を呼ぶなと命じて、そのくちびるを無理矢理に塞いでやりたくもなる」

「!」


 そう告げられて、メアリの心臓がどきりと跳ねた。


「頭では馬鹿げていると思うが、理屈ではどうやってもねじ伏せられそうにないんだ」

「エドガルドさま……」


 紫色の瞳には、さまざまな強い感情が揺らいでいる。


「こんな滅茶苦茶な感情など、自分自身で理解できるはずもないだろう」


 エドガルドは、メアリが寝台の上に投げ出した無防備な手を取ると、彼の指を絡めながら言った。


「……掻き乱される、としか言いようがない」


 恨みがましそうな響きを持つのに、メアリへの憎しみなど感じられない声音だ。エドガルド自身が振り回されているその感情に、メアリも落ち着かない気持ちになってしまう。


「私に、ですか……?」

「他に、誰がいると思っている」


 エドガルドの美しい双眸は、本当にメアリのことしか見ていなかった。


「お前の所為だ」

「…………っ」


 真っ直ぐな言葉が、メアリの鼓動を大きく揺らした。

 心臓の辺りが苦しくて、きゅうきゅうと締め付けられるようだ。


(これは、魅了魔法の力)


 メアリが使ってしまった魅了魔法が、エドガルドに迷惑を掛けている。すべてがエドガルドの本意の感情でなく、メアリによってもたらされた偽物のはずだ。


(分かっているわ。……けれど、それでも)


 こんなに強い感情を、誰にも向けられたことは無かった。


 聖女としてのメアリにではなく、メアリ自身に向けられた、生まれて初めての鮮烈な想いだ。

 それを真っ向から受け止めて、少しだけ泣きそうになってしまった。


 魔法の効力が切れたとき、終わってしまうものだとしても。


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