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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜3章 傲慢の悪女〜

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16 使い魔たちの名前

「ほんとうか!?」

「ええ、本当」


 赤い少年がぱああっと口を開けると、牙のように尖った歯がちょんと覗いた。

 メアリが悩んだのはほんの数秒ほどで、彼に付けたい名前が決まる。


「ではフラム。異国の言葉で、炎を意味する名前よ」

「フラム……」

「赤い髪と赤い瞳。何より元気で明るいところが、燃え盛る炎にぴったり合うもの」

「……!」


 そう告げると、嬉しそうに頬を染めた赤い使い魔の少年は、むにむにと口をつぐんでから俯いた。


「フラム。……俺の、俺だけの名前……」


 噛み締めるように呟いてから、彼は元気いっぱいにぴょんと跳ねる。


「へへ。……へへへ、へへ!」

「これからよろしくね、フラム」

「おう!! 俺もお前を名前で呼ぶ!! メアリ、ありがとう、メアリ!」


 メアリの周りを駆け回るフラムに、シュニが呆れ顔で苦言を呈した。


「赤の使い魔。メアリさまに名前をもらったからって、調子に乗ってはいけませんよ」

「おいおい白の使い魔、俺のことはフラムって呼べよ! 俺もお前のこと、今日からシュニって呼んでやるからさ! 呼ぶ奴が増えると嬉しいだろ!?」

「う、それは……。し、仕方ありませんね……」


 メアリはふたりのやりとりを眺めながら、くすくすと笑う。


「使い魔さんたちは、名前を付けられるのが嬉しいの?」

「うれしい! だって俺たち人が好きだし」

「ご主人さまに契約していただくまでは、人に姿を見てもらうことさえ出来ませんでした。僕たちは少々厄介もので、ご主人さま以外の人にはとても仕えることが出来ませんから」

「人と喋れるだけじゃなくて、名前まで貰えるなんてなあ! なあシュニ、みんなに自慢しに行こうぜ!」

「あ、待ちなさい赤……っ、ではなく、フラム!」


 駆け出したフラムの後ろ姿を、シュニが慌てて追い掛ける。メアリはそれをにこにこ見送ったあと、改めてこの清廉な森を見渡した。


(本当に、佇んでいるだけで力が満ちていくような森ね)


 苔むした木の幹に寄り添って、静かに目を瞑る。


(『怠惰』は悪女の条件だけれど、誰も見ていないところで休んでも意味がないわ。やるべきことを果たすべく、悪女の作戦……。悪女の作戦……)


 そしてしばらく考えたのち、メアリははっと目を見開いた。


「そうだわ! この方法なら悪女らしい上、必然的に多くの人目に触れるはず。エドガルドさまもきっとご満足……きゃあ!」


 思わず悲鳴を上げてしまったのは、小さな子供が抱き着いてきたからだ。


「この人が、あるじさまのお妃さまー?」


 金色の髪をした少年が、きらきらした目でこちらを見ている。

 その少年ひとりだけでなく、メアリの周囲には子供たちがたくさん集まってきていて、わあわあとはしゃぎながら口々に話した。


「これがお妃さま……。不思議。面白い」

「きらきらしていて可愛い、素敵ー! お姉さんがご主人さまと結婚するの?」

「あなたたちは……」


 彼らはみんな人間ではなく、恐らく使い魔たちなのだろう。ひとりが抱っこをせがむように手を伸ばし、メアリにねだってくる。


「赤と白に聞いたのー! 私にも名前付けて、付けてー!」


 少し離れた場所では、先ほど駆けていったシュニとフラムが、反省した顔で立っていた。


「申し訳ありませんメアリさま。フラムが他の使い魔たちに、不用意に自慢して回った所為で……」

「そんなこと言って、シュニのやつも自分から話してたんだからな! 俺だけの所為じゃないぞ、でもごめん!」

「名前ー! 名前欲しい名前欲しい名前、ねえー!!」

「僕も……僕も欲しい。僕の名前」

「俺にもちょうだい。ねえいいだろ?」

「……」


 たくさんの使い魔たちにねだられて、メアリはふんすと気合を入れた。


「……分かったわ! 順番に付けるからこっちに並んでちょうだい、整列!」

「はあい!」


 こうしてメアリはティストの森で、魔力が十分に回復するまでの時間を、たくさんの使い魔たちと過ごしたのだった。




***




「ただいま帰りましたエドガルドさま。私、この国の夜会に出てみたいです!」

「…………」


 メアリが帰宅早々そう告げると、長椅子に寝転んで書類を読んでいたエドガルドは、肘掛けに足を置いたままで嫌そうな顔をした。


「……どういう意図によるものだ」

「はい、それはですね……」

「第一に魔力は回復したのか? 外出先で怪我などしていないだろうな。お前をひとりで行かせた結果、気掛かりでまったく公務に集中出来なかった。俺も同行するべきだったと何度後悔したか分からない、俺はお前のことが…………」

「……」

「………………」


 エドガルドがぴたりと口を閉ざしたので、彼がいまどういう状況なのかを察する。


「……エドガルドさま……」

「――うるさい。俺だって、好きでお前にこんなにも惚れている訳じゃない……」




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