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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜2章 強欲の悪女〜

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12 旦那さまのお仕事

※今朝も更新しています。前話をお読みでない方は、ひとつ前のお話からご覧ください。




 その直後、飛び出してきた魔術師が叫び声を上げる。


「食らえ!」

「……」


 隆起した地面が蛇のようにうねり、エドガルドの方に襲い掛かる。そこにエドガルドが一瞥をくれると、岩塊が音を立てて破裂した。


 エドガルドが指先を動かすと、岩の破片が逆流し、魔術師の腹部にぶつかってめりこむ。


「うぐ……っ!?」


 短い悲鳴のあと、魔術師が倒れた。結界で身を守っていたようだが、エドガルドには紙も同然だったようだ。


(気絶なさっている魔術師たちは、皆さま実力者であったご様子なのに。その結界を破壊した上、落下しながら私を守り、魔術師との攻防をした上での見事な着地……)


 メアリは興味津々で、隣に立つエドガルドを見つめた。


(凄まじい攻撃魔法と、それを繊細に制御なさるお力を併せ持つ、素晴らしい技術ね)

「……視線をやめろ」

「申し訳ありません。ついつい」


 エドガルドはメアリから手を離すと、屋敷を見上げて手を翳す。短い詠唱に呼応して、彼の手のひらに光が集まった。


 放たれるのは一瞬だ。


 どんっという地響きが訪れる。

 衝撃のあと、豪奢な作りだった屋敷の一部は崩壊し、壁や屋根が抉り取られたかのように砕け散っていた。


「ひっ、ひい……!」


 崩れた部屋の一部から、震えた男が飛び出してくる。中年の男は恐怖に顔を歪め、エドガルドを見て尻餅をついた。


「なんだ貴様は……!?」

「シャンデリアに吊るした無数の宝石は、南大陸からの輸入品か?」


 エドガルドは無惨に床へと砕けたシャンデリアを見遣り、冷たい声を発した。


「この一室の調度品だけで、庶民ひとりが十年は生きられる。……この地の領民が、あれほど痩せ細っていたわけだ」

「か、金が目当てか!? そうか分かったくれてやる、好きなものを持っていけ!!」


 太った男の指が、床に散らばった宝石を掻き集める。

 引き攣った笑みを浮かべた領主は、両手を掲げるようにしてエドガルドに祈った。


「な!? ほら、嬉しいだろう! 誰に雇われた魔術師か知らないが、そ……そうだ、私の元に来ないか!?」

「……」

「お前ほどの魔術師であれば、いくらでも金を積んでやろう! だから、な!?」

「黙れ」

「ぐ……っ!?」


 エドガルドが冷淡に言い放つ。作り出された氷の刃が、領主の眼球すれすれに突き付けられた。


「……耳障りな声で、よく喋る……」

「はっ……、は」


 領主が目を見開いたまま、声が出ないくちびるを開閉させた。


「どうやら貴様は、よほど俺を不快な気分にさせたいらしい」

(エドガルドさま……)


 表情を変えないエドガルドの声が、地を這うような低さで響いた。

 空気が張り詰めて痛いほどだ。本で読んだことがあるのだが、これが殺気というものだろうか。


「跪け」

「く……っ」


 ぶるぶると身を震わせる領主が、汗を地面に滴らせながら片膝をつく。


「もしやお前は……い、いや、あなたさまは。まさか……!!」

「――……」

「ぐあ……っ!?」


 雷鳴が、領主の腹部を貫いた。


「誰が話していいと言った?」

「……エドガルド、殿下……っ」

「その不愉快な声で、勝手に俺の名を呼ぶな」


 エドガルドの淡々としたその言葉は、領主の耳に入っていないはずだ。

 どさりと地面に倒れ込んだ領主を見下ろし、エドガルドはつまらなさそうに言い放つ。


「利用価値がひとつも無ければ、この場でさっさと殺してやったものを」

「……エドガルドさま!」

「!」


 わあっと拍手をしたメアリの声に、エドガルドがぴくりと肩を跳ねさせた。


「すごいですエドガルドさま! 見事な手腕、感嘆いたしました!」

「は? ……何がだ」

「多数の私兵に守られた領主さまを、武力で制圧すると仰っていましたから。私、絶対に重傷の怪我人が出てしまうと思って、こっそり治癒の準備をしていたのです」


 ほわっと手のひらに光の球を浮かせて、メアリは「ね?」と首をかしげる。


「けれどもこれだけの結界を破った上、敵を失神させるにも最低限の攻撃だけ。このような手加減が出来るのは、エドガルドさまが本当にお強いからですね」

「……」

「こんなにすごい魔法を使うお方は、本の世界の作り話にしかいないと思っていました。殺気というものを感じたのも初めてで、どきどきしています」


 神殿の外に広がる世界は、こんなにもたくさんの出来事に溢れているのだ。メアリはエドガルドの手を取ると、きゅっと繋いで微笑んだ。


「どうか私の手を握って下さい。素晴らしい方に出会えて幸せなときは、その相手に握手をねだると本で読んだのです」

「…………」

「ふふ、大きな手。……よく見ると、懸命に書き仕事をなさるお方特有のペンだこがおありなのですね」


 魔法や武力ばかりでなく、王太子としての仕事もこなしているのだろう。昨晩一緒に食事が出来なかったのも、もしかしたらそれが理由なのかもしれない。


「決して表に出さないけれど、たくさんのことを頑張っていらっしゃる。……そんな旦那さまのことが知れて、嬉しいです」

「…………っ」


 そう告げると、エドガルドが渋面を作り、メアリの指から逃れるようにぱっと手を引いた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] これはすごいHOME…必殺の一撃にも等しいすんごいぃHOMEですね…!! これをよく耐えたな…えらい…! [一言] 始まりからターボかかっていて面白いです!流石です…続きが楽しみです。
[一言] 煽るねぇ…(笑)
[一言] 王子!あきらめて、堕ちてしまえ! と応援?しております! 根塊も次回を期待して悶絶
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