表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/62

1 魔法で落ちた恋なのに

「っ、エドガルドさま……!」


 抱き締めてくる男を窘めるために、メアリは彼の名を呼んだ。


 メアリを捕らえて離さない黒髪の男性は、夜会に出ればすべての女性の視線を集めるような美丈夫だ。そんな彼から縋り付かれても、メアリは甘んじる訳にいかなかった。


 体格の良い男の背中に腕を回し、上等な仕立ての上着を握り締める。心臓がばくばくと早鐘を刻むが、絶対にそれを気付かれてはならない。


「し……しっかりなさって! あなたが抱き締めていらっしゃるのは、聖女のくせに神殿を追放された、メアリ・ミルドレッド・メルヴィルですよ?」

「……」

「ほら、ね? いい子ですから、どうか離れて……」


 メアリは言い、彼の毛先が跳ねた黒髪を撫でる。

 すると、メアリを腕の中に閉じ込めた王子エドガルドは、拗ねた子供のように口にした。


「――嫌だ」

「嫌だ、って……」


 少しだけ身を離したエドガルドが、メアリの顔を間近に覗き込む。

 強い魔力を帯びた紫の瞳には、淡い紫の髪を持つメアリの姿が映り込んでいた。


「お前は、国をも滅ぼしかねない悪女なんだろう?」

「……っ」


 エドガルドの何処か甘い声に、どうしても困ってしまう。


「それならば、俺をこのまま籠絡してしまえ」

「ご、ご存知でしょう……? 私が悪女をやっているのは、あなたに雇われたからです……!」

「そうだな。だが、俺がこうまでお前に焦がれる羽目になったのは、一体誰の所為だと思っている」

「そ、れは」


 メアリはぎゅっと眉根を寄せ、エドガルドに答えた。


「私の、所為です」


 もちろんそれについて自覚はある。メアリの所為で、エドガルドがどれほどの被害を受けているかもだ。


「……私の魅了魔法によって、エドガルドさまが一時的かつ強制的に、私のことを好きになってしまったから……」

「――――……」

「わ……!!」


 エドガルドは先ほどよりも更に強く、メアリのことを抱き締め直した。


「……お前が悪い」

「……っ!」


 耳元で囁く声は意地が悪いのに、何処となく不満げでさびしそうにも聞こえる。


「だから、さっさと諦めろ」


 鼓膜を直接揺るがすような声に、メアリはぎゅうっと肩を竦めた。


「どんな魔法が使われていようと、傾国の悪女だろうとなんだろうと、手離せないのだからどうしようもないだろう」

「ほ、本当にお可哀想なエドガルドさま……!!」


 心の底からそう思う。


 なにしろこんな悪女と出会ってしまったばっかりに、うっかり魅了魔法なんかを掛けられて、不本意な溺愛をする羽目になっているのだ。


『雇った悪女』を活用し、彼の目的を果たそうとしているはずなのに、その悪女に籠絡されていてはいけないに決まっている。


 不本意な魔法での恋なんか捨てて、さっさと別の悪女を見付けてくればいい。


(なのに、そんな正論を口に出来ないのは――……)



 メアリは途方に暮れながらも、目を閉じた。




***

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あらすじ がすでに面白いです。 これからどうなるのがすごく楽しみです。 [一言] 続き楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ