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パンケーキにはドキドキがいっぱい

ジャネットとジェイダン様とカフェに行く約束の日。わたしとジャネットはウキウキしながら校門に向かいましたわ。


今話題の、ふわっふわのクリームにフルーツがたっぷり載ったパンケーキが美味しいと評判のカフェ。既にクラスの女子の殆どが口にしたと言う、一度食べたら他のパンケーキは食べられない、と噂のパンケーキがわたしたちを待っていますわ!


喜び勇んで校門に向かうとそこには女子生徒の人だかりが。その中心にジェイダン様。


「もう、兄様は!面倒な人ね」


ジャネットは軽く舌打ちをしましたわ。


ダメよ、ジャネット舌打ちは。


ジェイダン様は女子生徒たちに囲まれていましたが、ジャネットはお構いなしに女子生徒の中に突っ込んでいって、ジェイダン様の前まで行ってしまいましたわ。わたしには無理です。


「お待たせ、兄様」

「やぁ、ジャネット」


ジェイダン様は女子生徒に囲まれても全然平気なようで、楽しそうにお話をされていました。周りを囲む女子生徒たちも、頬を染め夢見心地の甘い表情で楽しそうです。


ジェイダン様は、と言うより、ジャネットの家族であるモーリガン侯爵家は、美麗集団であることは社交界では有名な話。


美しい紫がかった銀の髪。その瞳に見つめられれば、皆恋をしてしまうと言われる藍色の美しい瞳。スッと通った鼻筋に形の良い唇。女性にしては背の高いジャネットとそれよりずっと高いジェイダン様。


もし二人が兄妹ではなくて恋人同士なんてことになったら、間違いなく美男美女の最高のカップル。何度そんな不埒な想像をしたことか。本当、最高の二人なんですの。


そしてそんな最高のカップルを目の前に、女子生徒が怯まないはずがありません。


「ま、まぁ、ジェイダン様はジャネット様とご予定がありましたのね」

「ああ、そうなんだ」

「それは、大変失礼をいたしました」

「いいえ、楽しい時間をありがとう。またね」

「ま、まぁぁぁ」


女子生徒たちが頬を赤らめて気絶寸前の悲鳴を上げられています。罪なお方。でも分かりますわ、ジェイダン様は素敵ですもの。そして、軽快な会話はどんなに軽くても相手に不快な思いをさせません。素晴らしい会話術ですわ。


でも、いけませんわ!女子生徒の髪を耳にかけてあげてから去るなんて。は、破廉恥ですわ!


「兄様!ご令嬢の心臓が止まったらどうするのですか!」

「ごめん、ごめん」


ジャネットが物騒です。


「アンナ、行きましょう」


ジャネットに呼ばれて、腕を引っ張られているジェイダン様とは反対側のジャネットの横を歩き出しました。


「わたし、今スンゴイ視線を感じていますわ」

「ふふふ、そうでしょうね」


わたしたち、と言うよりジェイダン様を見送る女子生徒の嫉妬の視線を、全部わたしが受け止めています。あぁ、私は無実ですわぁ。


「アンナ、悪い女は多くの女性から嫉妬されるものなのよ」

「ハッ!」


何てことでしょう!そうですわ。わたしったら、なんて好機を逃してしまったのかしら!女子生徒の前で、ジェイダン様の腕を取って高笑いで去れば、最高に悪いじゃないですか!


あ、でも、ジェイダン様にご迷惑を掛けてはいけないわ。それに、わたしがジェイダン様の腕を取ったら、女子生徒の皆様にも悲しい思いをさせてしまうわね。危なかったわ。


そうよ、周りの方々に迷惑を掛けてはいけないわ。迷惑をかけずに悪くならなくては!


わたしが悶々と考えている間、ジャネットとジェイダン様がニコニコしながらわたしの顔を見ていましたが、全然気が付きませんでした。


それに、カフェに着くころにはそんなことはすっかり忘れて、ウキウキしていましたの。


カフェは平日にも関わらずとても賑わっていました。席もあまり空いていませんでしたが、運よく店の奥の席に案内されました。


「はぁー、楽しみですわ」


もう、わたしの胸は高鳴って仕方がありません。既にこのお店のパンケーキを食べたことのあるキャシーがいろんなことを教えてくださいましたの。シンプルにクリームとフルーツで楽しむのもいいけど、蜂蜜とバタークリームに砕いたナッツをトッピングして食べるのも最高だとか。


「ハムちゃんは本当に楽しみにしていてくれたんだね」

「はい!今日は楽しみ過ぎていつもより一時間も早く起きてしましたの」

「ふふふ、小さい子供みたいね」


ジャネットが笑っています。仕方がありませんわ。とっても楽しみだったんですから。


「だって、皆が美味しいって言っているし、ジャネットとジェイダン様と三人でお出掛けするのは初めてですもの」

「ハムちゃんは僕と出掛けることも喜んでくれるんだね」


ジェイダン様は笑っていらっしゃいますがその笑顔、眩し過ぎて目と心臓に悪いです。


「そ、それはそうですわ。わたしの推しカップルなんですから……」


最後の方は声が小さくなってしまいましたが、ジャネットには聞こえていたようで、ちょっと鋭く睨まれてしまいましたわ。


ジャネットは、わたしの不埒な妄想を全力で嫌がりますの。勿論、ジェイダン様とジャネットのカップルを推してはいますがあくまでも美しさの共演です。本当に兄妹で禁断の恋人同士になって欲しいわけではありませんわ。


だって、ジャネットには素敵な婚約者様が居るんですもの。


アレクサンドレア様。メガロン公爵家の嫡男で次期当主の二十歳。こちらは正真正銘本物の美男美女カップルで、政略結婚とは思えないほど相思相愛、誰もが納得のお二人です。


それに、美しく優秀なジャネットが公爵夫人として社交界の華になるのは間違いないですわ。


さて、目の前に運ばれてきた紅茶とパンケーキ。素晴らしくてどこから手を付けていいのか分かりませんわ。高さ15センチはあると思われるグルグルとたっぷり載ったクリームと、赤、黄色、紫、黄緑の色とりどりに散りばめられたフルーツ。見ただけで美味しいと分かります。



まずは紅茶を頂いて香りを楽しみました。それから。フォークとナイフで綺麗に切り分けたパンケーキにフルーツを載せてパクッと頂くと、ふわっふわのパンケーキに更にふわっふわのクリームと、フルーツの甘酸っぱい果汁が混ざって、もう噛みしめる前になくなってしまいましたわ。


「ジャネットぉ」

「うんうん、言いたいことは分かるよぉ」

「最高だわ」

「最高よ」


二人してうっとりとしながら、パンケーキを口に運んではじっくりと堪能します。そして、次にバタークリームと蜂蜜にナッツを掛けて。これも、最高ですわ。


「美味しいの?」

「言葉にならないほどですわ」


自分の語彙力の無さが情けない。


普段、お屋敷ではこんなにたっぷりのクリームも蜂蜜も使いません。身体に悪いし太るので。なのでこんなにふんだんに使われたクリームにも、たっぷり掛けた蜂蜜にも罪悪感があるのですが、それがまた美味しさを倍増させるのです。


「フーン」


ジェイダン様は甘いものがあまりお好きではないので、珈琲と言う最近男性の間で好まれる苦い飲み物を飲まれています。茶葉ではなく豆から淹れるのですが、わたしは一口頂いてそれ以降飲んでいませんわ。あれは、……うん、あまり得意ではありませんの。


「ハムちゃん、一口ちょうだい」

「え?」

「味見」


ジェイダン様ったら、な、なんてことを。あーん、と口を開けて待っていらっしゃいますわ。


「そ、そんな」

「早く」

「え?ジャネット?」

「ん?私のはダメよ」


ジャネットったら、ジェイダン様からお皿を遠ざけているわ。


「わ、わたし?」

「ハムちゃん、早く。口が疲れるよ」

「え?」


あーん、なんて。あーん、なんて、したことありませんわー!


「ハムちゃん?」


わたしは突然のことに吃驚してしまって顔が真っ赤になってしまいましたわ。でも、これはわたしがあーん、してあげないとダメですよね。ジャネットは全然あげる気がなさそうですもの。


わたしは、心臓をドキドキさせながら、急いでパンケーキを切ってバタークリームを載せてナッツを掛けましたわ。ジェイダン様は甘いのが苦手ですから、蜂蜜は無しです。でも、こんな恥ずかしくてお行儀の悪いこと、いいのかしら?


「アンナ、悪い女はお行儀が悪いのよ」


ジャネットが呟きましたわ。そうなのね!お行儀が悪いのね!ん?そうだったかしら?でも、悪い女はこんなことでときめいたりしないのよー!未熟な私はまだまだ悪い女とは言えないわ。


わたしはドキドキしながら、意を決してジェイダン様の口にパンケーキを運びました。その綺麗な唇を見つめながら。


わたしったら、はしたないですわ!


パンケーキをもぐもぐと咀嚼するジェイダン様。


口の端にクリームが付いていることをジャネットに指摘されて、ペロッと舌で舐めたその仕草の可愛らしいこと。わたしとしたことが悶えてしまいましたわ。だって、ペロッですもの。


「うん、おいしいね。ハムちゃんがバタークリームを付けてくれたから、甘くなくて食べやすいよ」


ありがとう、と言って微笑むジェイダン様は、笑みだけで私の息の根を止められそうです。


「い、いえ。美味しく召し上がっていただけたのでしたら嬉しいですわ」


もう、わたしの心臓はドキドキしっ放し。恐ろしいわ、ジェイダン様。わたし、これでも婚約者がいますのよ。……、止めましょ。ケビン様のことは今は考えない。折角の贅沢なこの時間を楽しまないと。


「ハムちゃん?」

「え?」

「どうしたの?」

「いえ。ジェイダン様の輝きに心臓が止まるかと思っただけですわ」

「はははは、それは申し訳なかったね」


絶対悪いと思っていませんわ。でもいいんですの。そんなジェイダン様だから、わたしは安心できるんです。優しくて、いつも頭を撫でてくれるジェイダン様はわたしにとっても兄のような存在です。


もう、お腹いっぱいにパンケーキを堪能したわたしたちは、お口直しに紅茶を、ジェイダン様は珈琲をお替りしてゆっくりとお話をしていました。とっても楽しい時間、寄り道をして、素敵な二人とお話をして、幸せな気持ちで帰る、はずだったのに……。





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