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スキャンダラスな彼女

わたしが学院を卒業したら、わたしとジェイダン様は結婚します。ジャネットも卒業したら公爵夫人となります。卒業まであと半年。本当に夢を見ているようですわ。


ですけど、わたしの心を悩ます日々はジェイダン様と婚約した時から続いていますの。勿論、ジェイダン様の周りには常に女性がいることです。あ、ちょっと嫌な言い方をしてしまいましたね。わたしと婚約する前から常に女性に囲まれていたジェイダン様は、婚約後は一切女性と関りを持たなくなりましたが、めげない女性もいらっしゃいます。それは卒業して騎士になってからも変わることはありません。


ジェイダン様は卒業され騎士団に入ると、会えない時間が続きました。宿舎生活はそれほど自由ではなく、特に新人騎士は毎日大変そうです。将来を嘱望されているジェイダン様ですが、特別優遇されることはありません。最初の一年は皆様と同じように鍛錬と、雑用に追われお会いすることも出来ず……。と言うより一年目は外泊は一切禁止されている為、会いに行かなくてはお顔を見ることは出来ません。


二年目になると、漸く騎士として本格的にお仕事に就かれるようになります。一年目は宿舎と訓練場と駐屯地の中での活動が殆どでしたが、二年目以降は王都内や王都の外に出ることもあり、忙しさはさほど変わりません。二年目以降は、申請すればご実家に帰ることも外泊することも出来ます。ジェイダン様は一度もご実家に帰られたことはありませんし、わたしに会いに来てくださったこともありません。


そして騎士は大変モテます。鍛え上げられた体躯に制服を纏われた誇り高き騎士は、見目だけでも十分恰好良いですし。そして、ジェイダン様はその中でも特におモテになるそうで、わたしという婚約者がいるにも関わらず、ファンクラブが出来、宿舎前にご令嬢が押し寄せているそうです。





「大丈夫よ、アンナ。兄様はアンナ一筋なんだから」

「でも、メリンダ様はとても美しく男性が放っておかない方だそうよ」


学院の食堂でランチを食べ終えた、わたしとジャネットとキャシーとクララは、食後の紅茶を飲みながら色々とお話をし、今はジェイダン様の話です。


最近ジェイダン様との噂が絶えないメリンダ様。メリンダ様は毎日のように宿舎に通われ、ジェイダン様とも親しく実はお二人は秘密のいい仲だ、なんて噂を聞いたこともあります。


「兄様に限っては絶対ないわね。第一、宿舎の門限は十二時よ?どうやって、一晩を共に過ごすのよ。全部でたらめよ。それに、殆ど毎日のように手紙を送って来る兄様が、浮気なんてしていると思う?」


確かに毎日のように届く手紙には、愛している、寂しい、早く結婚したいなんて、読むたびに赤くなってしまうような甘い言葉がたっぷりと綴られています。でも会うことは出来ません。


―アンナが他の騎士の目に触れることは僕にとって耐え難い苦痛だから、宿舎には来ないで欲しい。―


手紙の最後にはいつも、そう書かれているのです。


「でも、一晩を共にしなくても十二時までは自由ですわ」


卑屈なわたしは想像したくもない言葉をつい言ってしまいます。あー、なんて醜いんでしょう。


「ふふふ、恋をするとどうしてもそんな心が生まれるものよ」

「そうなのね」


わたしは初めて相手を疑う気持ちや強い嫉妬、劣等感を知りました。ケビン様と婚約をしていた時は最初から仕方がない、わたしが悪いと諦めていたので、こんな醜い感情がわたしを支配することもありませんでした。


なのに今は、自分の薄黒い感情がどんどん悪い方へとわたしを落ち込ませています。それなのに親切なお友達は、毎日のようにメリンダ様のお話を聞かせてくれるのですから。


「本当にあの方は何を考えていらっしゃるのかしらね?ジェイダン様にはアンナと言う婚約者がいると言うのに」


そう言ってぷりぷりしているキャシーは、毎日宿舎に通っている女友達から聞いた話を、わたしに教えてくれるのです。


「でも、兄様とメリンダ様が一緒にいる所を見ていないんでしょ?」

「そうよ。でもメリンダ様は騎士団長のご息女だから、宿舎にも勝手に出入りしているのよ」

「まぁ、そんなことをして怒られないのかしら?」


呑気なクララは驚いた顔をしていますが、そもそも男性宿舎はメイド以外の女人禁制。例外は無いはずです。それでも、入って行ってしまうと言うことは皆様が目を瞑っていると言うことでしょう。


「しかも、メリンダ様はジェイダン様に名前を呼ぶことを許されたらしいわ」

「な……」


何故?


「キャシー!」


ジャネットがお喋りキャシーをキッと睨みました。


「余計なことばかり言うものじゃないわ」

「ご、ごめんなさい」


決して悪気があって言っているわけではないのですが、噂好きのキャシーは時々暴走してしまって、言わなくてもいいことを言ってしまいます。


「大丈夫よ、アンナ。兄様がそんなことを許すはずがないわ」


ジャネットはわたしの頭を撫でながら、その行為と裏腹なことを呟きました。


「あの淫女が……」


え?い、淫女?


わたしはギョッとしてジャネットを見てしまいましたわ。するとジャネットは大きく溜息を吐いて首を振りました。


「これは全部兄様が悪いわ」

「メリンダ様だって質が悪いわよ」


キャシーがすかさず付け足しました。


「メリンダ様は、恋愛に奔放な方らしいし、いろいろと噂の華やかな方よ。ジェイダン様にもその魔手を伸ばしたんだわ」

「でも、キャシー。ジェイダン様がメリンダ様に靡くなんてこと、無いと思うわ」


のんびりしたクララがはっきりとした口調でそれを否定しました。


「クララの言う通りよ。でも、実際に見てみないと、アンナは不安を解消出来ないわね」


ジャネットの言葉にわたしはコクンと頷きました。


「よし、突撃しましょう」


ジャネットがわたしを見てニコッとしました。


「え?」

「宿舎に行くのよ」

「ダ、ダメよ。そんなこといけないわ」

「何故よ?」

「だってジェイダン様に来てはいけないって言われているもの」


わたしがそう言うと益々ジャネットは大きな溜息を吐きました。


「いい?兄様がそう言ったからってなんでも言うことを聞いていてはダメよ。一度は我儘令嬢を目指したアンナなら分かるでしょ?」


分からないわ……。


「我儘令嬢は男性を振り回してこそ、我儘令嬢よ!」


ジャネットの言っていることは分かりませんけど、こんなふうにモヤモヤしたままでは、きっとジェイダン様といい関係を築くことは出来ませんわ。


「分かったわ。わたしは我儘令嬢ですもの。突撃しますわ!」

「よく言ったわ、アンナ!」


ジャネットも満足気ですわ。


「アンナ。メリンダ様に負けちゃだめよ!」


キャシーもクララも応援してくれています。わたしは力強く頷いたのです。



読んで下さりありがとうございます

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