エピローグ
これにて完結です!
その日私は夢を見た。
白髪の、長身の女性のかたが私の前に立っている。
『ありがとう』
彼女は一言だけ言った。
『久しぶりの下界を楽しませてもらったわ』
……久しぶり?
『あなたは誰ですか?』
『精霊王』
『……! 精霊王……』
『あなたの体を借りて、下界の様子を見に来たの』
……なるほど。
『じゃあ私は転生者ってことですか?』
『んー……ま、そんなとこ。精霊王の生まれ変わり。器? みたいな』
精霊王軽いな……。
もう少し威厳のある方だと思っていたのだが。
『下界はやっぱ愛にあふれてて最高ね』
『それは同意します』
ふふ、と精霊王は微笑むと、私に手を振る。
『ぼくは十分楽しんだ。あとは君の好きにするが良いよ』
そう言って精霊王は去って行った。
★
アルセイフ様が出て行ってから、数日後。
私は屋敷の玄関口で、コッコロちゃんと彼の帰りを待っていた。
『へー、あったんだ、精霊王に』
「ええ。なんだか気さくなかたでした」
コッコロちゃんを後ろから抱っこしている態勢のまま話す。
「どうやら精霊王様の、器だったみたいです、私」
『あー……なるほどねえ。だから落ちこぼれだったのかも』
「というと?」
コッコロちゃん曰く……。
精霊王の力が強すぎて、ほかの微少な精霊たちが、萎縮してしまったのだそうだ。
『スキルは、精霊によってもたらされるもの。でも君の場合は、そのうちに特大の精霊を宿居ていた。結果、スキルは宿らなかったってこと』
「なるほど……精霊王のスキルが今更発現したのは?」
『そんなの……言うまでもないでしょ』
愛の力……か。
私が愛を知ったことで、力が発現したらしい。
……因果関係はさておき。
「精霊王様はもういいよっておっしゃってました」
『じゃあ器としての役割は終わったわけだ。それで、これからどうするの?』
どうするの、だって。
そんなの、決まっている。
「私は冷酷なる氷帝の妻ですよ? 今も、これからも、その先もずっと」
そのとき、ドアが開く。
彼が笑顔で、帰ってきた。
私は立ち上がり、駆けだして、彼の胸に飛び込む。
……ここへ嫁ぐ前。
私は酷く冷めた女だったと思う。
でもここへ来て、生きる喜びを知った。
ここに来て、全てが始まったと行っても過言でもない。
私はアルセイフ様にキスをする。
彼との幸せなキスだ。
甘く、切ない、この胸のうずき。
彼を愛おしいと思うこの感情……。
それらは、ここへ来たことで手に入った。
私は言える。胸を張って。
ここに来て……彼の妻になって、良かったと。
「ただいま、フェリ」
私は久方ぶりに見る、旦那様の顔を見て、最高の笑顔で応える。
「おかえりなさい、アル!」
《おわり》