70話
アルセイフ様と、まともに顔を合わせられない状態が、続いた。
一週間くらいだ。
彼のことが好きだと自覚した途端、彼を直視できないで居た。
恥ずかしい。
彼を見ているだけで顔が赤くなって、頭が真っ白になってしまう。
もうなんだか、自分が自分でないみたいだわ。
「やだわ……もう……」
『一週間は長過ぎだよフェリ~』
私はコッコロちゃんのほこらに居た。
お腹を見せてくる、白くて大きな犬。
いつも笑っているような顔のこの子が、神獣だとは誰も思うまい。
『もうさー、そろそろ慣れなよ』
「慣れる……無理です」
『ほわい?』
「だって……私、気づいてしまったんです」
『ほぅ? なんに?』
私は……つい最近気づいた事実を、コッコロちゃんに告げる。
「アルセイフ様って……実は、とてもカッコいい人では……?」
コッコロちゃんが、いつも笑っているような顔のコッコロちゃんが。
真顔になって、私を見る。
『え? 今更?』
「え? 今更って……?」
『いや……アルセイフって、超絶美形だよ? そんなの最初からわかってたっしょ?』
そ、そんな……
最初から……?
「いえ、最初はなんとも思ってませんでした。急に彼がかっこよく見えるようになって……」
『惚れたからでしょ』
「ほ、惚れたらかっこよく見えるようになるのですか? 魔法ですか、それ?」
『フェリって恋するとポンコツ化するんだね……』
なんと失礼な犬だ。
私はおなかをわしゃわしゃとする。
「フェリ」
「ひぇ!」
「ひえ?」
私はコッコロちゃんを盾にして隠れる。
あ、アルセイフ様を今直視することはできない……。
「まあいい。フェリ。俺は出張することになった」
「しゅ、出張……ですか?」
「ああ。妖精郷を知ってるか?」
「妖精郷……たしか、帝国内にある、危険地帯では?」
そうだ、とアルセイフ様がうなずいてる。
「しばらく調査で帰ってこれない。一人にしてすまないな」
「…………」
胸が、苦しい。
どうしてだろう。
わからない。いつもなら、そうですか、行ってらっしゃいませって言うだろうに。
今の私は……素直に見送ることができないでいた。
でもそれは、この家の女としてふさわしくない振る舞い。どうすれば……。
「要件は以上だ」
「あ!」
私は……気づけばアルセイフ様を、後ろから抱きしめていた。
『わーお。だいたーん』