69話 アルセイフ視点
……フェリが異常行動を見せた、翌日。
アルセイフは騎士団の詰め所に居た。
「はぁ……」
自分のデスクにて、書類仕事をしている。
だがどうにも身にならない。
「はぁ……」
「副団長、どうしたんですか?」
「ハーレイ……」
アルセイフの部下、ハーレイ。
イケメンで、経験豊富な部下に、話を聞いてみるのも良いかもしれないと考えた。
「今少し良いか?」
「ええ、もちろん」
ハーレイ以下、部下達は凄いやきもきしていたのだ。
アルセイフの様子が今日ずっとおかしい。
何かあったに違いない、なにが……と。部下達はみな気になっていたのである。
……一時期は、冷酷なる氷帝という悪評のせいで、部下達から怖がられていたアルセイフ。
しかし今は、一番年下ということと、そして何よりフェリの存在。
フェリとのラブコメが、騎士団員たちにとって、最高の娯楽になっていたのだ。
さて。
アルセイフ達は場所を移動し、カフェテラスへとやってきた。
「フェリとケンカしてしまってな」
「ほぅ……?」
ハーレイは首をかしげる。
彼は、フェリアがどういう性格なのか知っている。
感情的になる人では決して無い。
アルセイフがキレても、冷静に諭す、それがフェリアという女だ。
……しかし。
「ケンカというのは?」
「避けられている」
「ほぅ……ほぅほぅ」
アルセイフの話をまとめると……。
強姦と間違って、相手を斬ろうとした。
そのときにフェリアに怒られた。
その後、彼女と顔会わせると、そのたびに逃げられた……。
「逃げられた……ね」
「ああ。こんなことは一度も無かった。謝りたくても、直ぐに逃げるし……俺が何かしてしまったのだろうか……!」
自分を責めるアルセイフ。
しかしハーレイは、一つの仮説を立てていた。
すなわち。
「奥様、照れていたのでは?」
そう……。
フェリアは照れていたのだ。ハーレイはそれを見抜いていた。
しかし。
「照れる? フェリが?」
「ええ」
「ばかな。ありえん。あの強く美しい女がだぞ? 俺ごときに照れるとでも?」
これは自覚が無いようだ。
ハーレイは嘆息尽きつつも、思ったより深刻な話では無くてほっとする。
「アルセイフ様。ご自分にファンクラブがあることは、ご存じですか?」
「は……? ふぁん……?」
この様子では聞いたことないようだ。
ハーレイはため息をついていう。
「アルセイフ様は、顔がいいじゃないですか」
「そうなのか?」
「そうなんです。でも中身が氷帝ってことでみんなに避けられてました。しかし、フェリ様のおかげで、中身が改善された結果……」
一息ついて、ハーレイが言う。
「たくさんの女性を、虜にしているのですよ」
唖然とした表情のアルセイフ。
まったく信じていないようだった。
まあそこはどうでもいいのだ。
「あなた様は顔はいいんです。しかも若くして副騎士団長。もてて当然」
「そ、そう……なのか」
「ええ。それだけ魅力的な見た目をしているのです。フェリ様も年頃の女子、照れてしまうのは当然ですよ」
ううん……とアルセイフがうなる。
まあ理屈はわからなくは、ない。しかしおかしな点がある。
「フェリは今までずっと、俺と一緒だったんだぞ? その間、照れるとか、こびを売るようなことはなったぞ?」
「まーそれは、あれですよ。別にあなたのこと好きじゃ無かったんですよ」
しゅん……とアルセイフが肩をすぼめる。
フェリアに対する執着心は、そうとうなものだなぁ……と苦笑しながら言う。
「でも一緒に過ごすうち、愛情が芽生えてきたのでしょう。そして気づいたのです。旦那って、結構いけてるんじゃないかって」
「いけ……てる?」
「ええ、イケてる」
……なんだかごちゃごちゃ言われたが。
「とりあえず……フェリは俺のこと、嫌いで無いのだな?」
そこが、そこだけが重要なのだ。
他なんてどうでも良いのだ。
あからさまに嬉しそうにするアルセイフに、ハーレイもまた嬉しくなる。
氷の心の持ち主だと、周りから恐れられていた、アルセイフ。
そんな彼が、好きな女のことで右往左往する。
人間らしい姿が、団員達との間にあった氷の壁を溶かしてくれた。
これも全て、フェリアのおかげである。冷酷なる氷帝の妻に、感謝しながら、ハーレイは自信を持って言う。
「はい。フェリア様は、アルセイフ様のこと、嫌いじゃ無いですよ」