66話
「あ、愛……?」
アルセイフ様の母上、ニーナ様から突きつけられた真実……。
私がアルセイフ様のことを、愛してる……と。
「…………」
いや。
まあ。
妻として嫁いできたのだから、夫を愛するのは、妻の義務。
愛してるのだと今更言われても……。
「フェリちゃん! あなたが真面目な子なのはわかってるわっ。妻として嫁いできたのだから、夫を愛するのは当然……とか思ってるでしょう!」
……すごい。
この人、読心術でもたしなんでいるのだろうか。
「そういうことじゃあないのよ! フェリちゃんは、義務とか、そういう理屈とか抜きに! アルちゃんのことを……心から、愛してるのよ!」
決まった……! とばかりに、自信たっぷりにニーナ様が言う。
理屈抜きに……愛してる……?
どうだろう。
そう言われても全然わからない……。
『フェリ。二号がさ』
足下のコッコロちゃん(いつも笑ってるような顔してる犬)が、私を見上げながら言う。
『前にヒドラに、殺されそうになったとき、あるでしょ?』
「ああ、ありましたね」
前に彼が遠征に出かけたとき、ヒドラという化け物と遭遇したことがあった。
私は彼が死ぬかもって知って、そのときは……とても焦った。
……あのとき。
私は精霊王の力を、自覚的に使えた。
「それが?」
『精霊王の力は、愛の力なんでしょ?』
「まあ……そうらしいですけど」
『あのときちからが使えたってことは、君の中で、彼への愛が芽生えたからなんじゃないの?』
……。
…………。
……………………そう、なのだろうか。
確かにあの力は、アルセイフ様を思いながら使うと、行使することができる。
精霊王の力は愛の力で。
アルセイフ様を思うと力が使える……。
え?
「フェリちゃん、難しい理屈こねこねしてないで! もうハッキリ言っちゃいなさいな!」
びしっ、とニーナ様が私に指を突きつける。
「アルちゃんのことが、大好きなんですって! 好きで好きでたまらない、寝ても覚めても彼のことばっかり考えて……もうどうしようもないって!」