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64話



 サバリス教授を見送ったあと、私はひとり、部屋の中に居た。


「はぁ……」


 大人げないことをしてしまった。

 アルセイフ様にあんな酷いことを……。

 いや、でも。

 なんで彼は、私を信じてくれないのだろうか。


 不貞行為なんて働くわけが無いだろう。

 どうしてわかってくれないのだ……まったく……。


 そのときだった。

 コンコン……。


『ふぇりちゃーん』

「! お義母様?」


 扉を開けると、そこにはアルセイフ様の母上、ニーナ=フォン=レイホワイト様が立っていた。

 小柄で、茶髪。


 肌には張りがあり、背も低いことから、存外年若く見える。

 しかしこれでもアルセイフ様を産んでいるので、そこそこ歳はいってるのだから驚きだ。


「やっほーフェリちゃん♡」

「お義母かあ様、どうしたのですか?」

「コッコロちゃんからねー、フェリちゃんが落ち込んでるって聞いてねー」


 お義母かあ様の足下には、ふくふくとした見た目の白い犬、コッコロちゃんがいた。

 いつも笑っているような顔をしてるのは相変わらず。


 ……しかしなぜコッコロちゃんが、さっきのことを知ってるのだろうか?

 どこかで盗み見ていたとか?


 まさか、アルセイフ様から相談を受けた、なんてことはあるまい。

 あの二人は犬猿の仲だったはず。


「さぁさ、フェリちゃん。ガールズトークしようぜ!」

「はぁ……」


 ガールじゃ無いのがそこに1匹いるんですが。


『ぼくはワンちゃんだわんっ』


 とのことで。

 まあ……良いか。気晴らしにでもなれば。


 お義母かあ様を部屋の中に招き入れる。

 ソファに座る私、その隣にはニーナ様。コッコロちゃんは私の足下で伏せのポーズを取っている。


 ……あなた神獣なのよね? というツッコミはしない。

 さて、とニーナ様が切り出す。


「アルちゃんと、夫婦げんかしたんですって?」

「……あれを夫婦げんかというのでしょうか」


 アルセイフ様が、また感情的になって、それをたしなめる。

 ここへ来た当初と同じやりとりだ。


 ……そう。

 

「あの人ってば……私とこんなに長く一緒にいるのに、全然わかってくれないんです」

「まあ……」

「私が間男でも連れ込んだって思ってるんですかね。ほんと馬鹿ですよ。そんなことするわけないじゃないですか。どうしてわかってくれないんですかね。ああもう……」


 ……そんな私の様子を、ニーナ様はニコニコしながら見ていた。

 笑う要素があるだろうか? とちょっと腹が立つも、相手が夫の母親ということで感情をセーブする。


「うふふ♡ やっと芽生えたのね~」

「芽生え……? なにがですか」

「ん~? 嫁心♡」


 ……ヨメゴコロ?

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