63話 アルセイフ視点
アルセイフは、フェリアともめたあと、神獣コッコロの元へむかった。
『うぉ! どうしたの君……なんか死にそうな顔してるけど』
「ああ……フェリと、ケンカをしてしまってな」
『ケンカ……』
コッコロはアルセイフの隣にすわり、話を聞く。
「仕事から帰ってきたら、フェリが男に襲われていたのだ」
『盗賊?』
「かと、最初は思った。だがフェリの通う大学の教授だった」
『あー……事故的な?』
「そうだ……だが、俺は早とちりしてしまった。フェリが……強姦されてるのだと」
怒りで頭が真っ白になったアルセイフは、斬りかかろうとした。
本気で殺そうとしてしまった。
……だが結局はそれは勘違いだった。
そのうえで、フェリアに泣かれてしまった。
「俺は……本当に阿呆だ。いつも視野が狭い……」
『うん。それはそうだね。でも……今回に限っては君ひとりが悪いとは限らないんじゃない?』
アルセイフは、ぽかんとした。
今、コッコロが自分をかばうようなことを、そして、フェリアを非難するような言い方をしてきたのだ。
今まで……コッコロは完全にフェリアの味方であった。
そんなコッコロが、アルセイフを擁護する発言をしたのだ。
これで驚かないはずが無かった。
『フェリもちょっと、子供っぽかったね今回は』
「いや……俺が悪いだろ。斬りかかったのだし」
『それは否めないね。でも相手が、君が言うとおり盗賊だったら? 毒使いだったら? 死んでいたのはフェリだ』
たしかに、今回はたまたま知り合いが相手だったが、本当に悪党だった場合、躊躇してる間に殺されていたかも知れない。
『それにね、フェリは、こう思ってるんだ。君が、他の男と浮気してて、だから怒って斬りかかったってね』
「あ、ああ……」
実際にそう口にしていた。
しかし事実は異なる。
あくまでアルセイフがぶち切れていたのは、フェリを襲う盗賊に対してであって、別に浮気相手云々は関係ない。
『普段のフェリだったら、君の思考をトレースできてたろうさ。けど今回に限っては、冷静さを欠いていた』
「……フェリが、悪いというのか?」
『ううん。フェリ【も】悪い。君を100%かばってるわけじゃ無いよ。勘違いしないでね』
……だとしても。
いままでコッコロがアルセイフをかばうことはしてこなかったのだ。
コッコロもまた、成長してるのである。
『仕方ない。ここはぼくの出番かな』
よいしょ、とコッコロが立ち上がる。
たっぷたっぷ、とたっぷりついた贅肉を揺らしながら、ほこらを出て行く。
『君は普段通りしてなよ』
「あ、ああ……その、コッコロちゃん」
『厳つい見た目の君が、ちゃんづけするの、すっごいキモいけど……なに?』
アルセイフは、真面目な顔で頭を下げる。
「すまない、世話をかける」
コッコロはニコッと笑って、ほこらを出て行くのだった。