62話
レイホワイト邸にて、サバリス教授の足を治療していた私。
彼がバランスを崩してしまい、ソファに押し倒されるような態勢を取ってしまう。
……そしてタイミングの悪いことに、そこに夫となる彼、アルセイフ様が帰ってきたのだ。
「フェリ……」
アルセイフ様は入口で立ちつくしている。
教授もまた困惑していた。
しかし……私は凪いだ気持ちでいた。
さすがに、彼もいい加減、学習していることだろうと。
出会った当初ならいざしらず、私と彼はこれまでに、いろんな経験をしてきた。
そこそこ、長い時間を共有してきた。
さすがに、もうわかってくれるだろう。
これは事故であると。
不貞を働いてるとか、襲われているとか、そういうことではないと……。
「フェリから離れろ! 下郎が!」
……しかし私の予想に反して、彼は怒気を飛ばしてきた。
……どうして?
どうしてわかってくれないんだろうか。
こんなに一緒に居たのに。
まだ……私を信用してくれないの?
「フェリぃ……!」
アルセイフ様が剣を抜いてサバリス教授に斬りかかろうとする。
私は聖なる結界を張ってそれを防いだ。
「ぐぁあ……!」
彼の体が背後に吹っ飛び、地面に転がる。
だが私は……そんな彼のもとに駆け寄ることはしなかった。
多分、結構体にダメージが入ってるだろうけど。
それでも……私は助ける気になれなかった。
「客人に、何をしてるのですか? いきなり斬りかかるなんて馬鹿なのですか?」
「ふぇ、ふぇり……」
ああ、駄目だ。
どうしてだろう。私は、今、感情をコントロールできていない。
「何考えてるんですか?」
「し、しかし……フェリが……」
「この私が浮気するとでも?」
「ち、ちが……! そういうことじゃない! おまえが……」
「うるさい! ばかっ!」
……今、誰のセリフだ?
アルセイフ様は驚いてるし、サバリス教授も目を白黒させている。
もしかして……私?
「謝りなさい! 教授に!」
「う、で、でも……」
「早く!」
アルセイフ様は困惑しながらも、教授にペコッと頭を下げる。
教授の前へと私は移動し、深く頭を下げる。
「……夫が、大変ご迷惑をおかけしました。深く、お詫び申し上げます」
「あ、ああ……いい。誤解されるようなことをしてしまったのは、こちらだから」
「寛大なお心遣いに、感謝します」
私はサバリス教授を外まで送っていくことにする。
アルセイフ様が、泣きそうな目を私に向けてきた。
……泣きたいのはこっちだ。
信じてくれているって、思っていたのに。
結局あなたは、私のこと、全然信じてくれてないのね。
「……ばか」