57話
コッコロちゃん散歩中に、私はサバリス教授と偶然であった。
「たすけてくださり、ありがとうございます」
「いや、君が無事で何よりだ、レイホワイトくん」
にこやかに笑いかける教授。
けれどどこか、無理をしてるような気がした。
『フェリ~! ごめんよぉう!』
コッコロちゃんが飛びついてきて、べろべろと頬を舐めてきた。
『ぼくのせいで君が危ない目にぃい! うぉおおん!』
「私は大丈夫ですから。それより……教授?」
私は教授の左足をさす。
「足……怪我してます……よね?」
多分彼が助けるときに、ひねってしまったのだろう。
彼は笑顔を崩さずに言う。
「何を言ってるのだい、レイホワイトくん。私は別に怪我などしていないよ」
……多分、私が気にしないように、無理をしているのだろう。
大人だ。
アルセイフ様に、彼の爪の垢を煎じて飲んでほしい。
が、今はどうでもよくて。
「いけません。けが人をほっとけないです。治療を……」
私には精霊王の力がある。
それを使えば、怪我くらいあっという間に治せる。
しかし教授は声を潜める。
「……ありがたいが、人目の付くところで、奇跡の力を使ってはいけないよ」
たしかにそうだ。
私は……どうやら動揺してるようだった。
そんなちょっと考えればわかることに、気づかないなんて。
「君は優しいね。自分のせいで、他者を傷つけてしまったと思って、心を痛めてる。本当に優しくて素敵なレディだ」
歯の浮くようなセリフを、さらっという。
こんな人だったかしら……?
「じゃあ、屋敷に来てください。そこで治療します。どうでしょう?」
「そう……だね」
教授はじっと何かを考えるそぶりを見せた後。
「では、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
わたしは彼に肩を貸して、コッコロちゃんとともに、屋敷へと戻るのだった。
『…………』
「コッコロちゃん?」
『……発情期の雄の匂いがする……』
どういうことかしらそれ……?