56話
最近太り気味なコッコロちゃんのために、私は散歩へ出かけた。
『はふんはふん! フェリフェリはふんっ♪』
「ちょっと、歩きにくいです。あまりくっつかないでくださいよ」
『フェリとお散歩~!』
だめだ、聞いちゃいない。
私はコッコロちゃんのリードを持って、王都の中を歩いてる。
犬を飼う人も最近は増えているのよね。
貴族のドレスだとお散歩に不向きだから、シャツにパンツ姿をしてる私。
こうして歩いてても……。
「あら、レイホワイト様。ごきげんよう!」
「ええ、ごきげんよう」
道行く人たちに挨拶を駆けられる。
どうしてかしら、ドレスも着てないのに。
『フェリは氷帝の妻だからね』
「ああ、そういえばアルセイフ様は、有名人なんでしたね」
しかも、悪い方でだ。
昔の彼はかなり気性が荒く、冷酷なる氷帝なんて呼ばれていた。
今では優しいけれども。
一度付いた悪い噂は、なかなか消えない物なのよね。
『フェリ?』
「ああ、ごめんなさいコッコロちゃん。ぼうっとしてました」
『アルのことを考えて?』
「そうですね」
『ぬー……複雑~』
一時期よりも、コッコロちゃんと彼の仲は良くなっている。
私のいないところで、話し合いが行われ、その結果仲良しになったらしいのだ。
いいことだけど、ちょっとさみしい気持ちになる。
犬同士がケンカしてる姿は、微笑ましくて好きだったのだけども。
『ぼくはフェリとアルの仲が深まってほしいっておもうけど、ぼくがないがしろにされるんじゃあ無いかって複雑~』
「まあ」
そんな、ないがしろにするですって?
何を言ってるのかしらこの子ったら。
「するわけないでしょう? あなたは大事な、家族の一員なのですから」
『ほんと! わーい! うれしすぎる! お外走ってくリュー!』
コッコロちゃんが興奮して、飛び出してしまう。
リードが手から離れてしまった。
「あぶない……!!!」
最近普及しだした、魔法車がコッコロちゃんを引きそうになる。
そんな……! だめ……! たすけないと!
慌てて飛び出そうとした私よりも、誰かが素早くコッコロちゃんを回収した。
「大丈夫かい、ワンコくん」
『はっ! こ、こいつは……!』
良かった……コッコロちゃんが無事で……。
私は【彼】に近づいて、頭を下げる。
「ありがとうございます、サバリス教授」
私が魔法大学でお世話になっている、学校の先生……サバリス教授が、コッコロちゃんを助けてくれたのだった。
ばっ、と誰かが