47話
サバリス教授のもとを出て、私は家に帰ってきた。
夕飯時、私はアルセイフ様と一緒にご飯を食べている。
昔は長い机を使っていたのだけど、最近は長さの短いものを使っていた。
私と近くでご飯を食べたい、という彼の要望を汲んだのである。
昔はアルセイフ様の変化に戸惑っていた私も、今は慣れた。それに今は彼と同じで、少しでも近くで彼を感じたいと思っている。
「慰問活動、だと?」
「ええ、駄目ですか?」
貴族の子女がよくやる活動のことだ。孤児院などを訪ね、そこのお手伝いをする。そうすることで貴族としての名前を売る、というもの。
「レイホワイトの家の評判もあがりますし、なにより、この力の訓練になります」
「力の、訓練か」
「ええ。自分の意思で力をコントロールできるようにならないと、いざというときのために」
ヒドラのとき以来、私はあの聖なる力を使えないでいる。
サバリス教授は、愛の力がトリガーになっている、とか、抽象的なことを言っていたが、じゃあ具体的にどうすればいいのかは未知。
結局、数をこなして、使えるよう、こつをつかむかしかない。
そのために慰問活動は最適だ。
聖なる癒やしの力を、使ういい訓練になる。
「そんなことをすれば、目立ってしまうのではないか?」
「まあ。ただもう隠しきれないでしょう? ヒドラを倒してしまったことは、広く知られてしまったのですし」
「それは……まあそうなのだが」
彼はうつむいて、暗い表情を浮かべる。どうにも難色を示しているようだ。
「女が外に出て働くことに、抵抗がおありで?」
「そういうことじゃない。俺は……心配なんだ」
「心配?」
「ああ……」
彼は私のそばまでやってきて、手を握ってくる。
すぐ近くにある整った彼の顔。その瞳は、憂いを帯びている。
「おまえは美しい。美しいおまえが外に出て慰問活動すれば、よく思わないものたちが、おまえを狙ってくるかもしれない」
そ、そんな真顔できれいだなんて言われると、どうにも面はゆい。
ただ彼の心配は、確かに考えておくべきことだ。
私の聖なる力は、傷や病を癒やす。それはとても目立つことになる。
となると、私を悪用しようと、よこしまな考えを持つ輩が出てもおかしくない。
そこを危惧しているのだろう。
「ありがとう。でも、私はやりたいです。この力で、たくさんの人を助けてあげたい。アルセイフ様や、ほかの人たちも」
うぐ、と彼が口ごもる。
「……ずるいぞ、フェリ。そんなふうに言われては、断れないじゃないか」
「じゃあ」
「ああ、いいと思う……だが! 俺はおまえを一人で活動させないぞ」
「え? いや、王様に言って誰か護衛をつけてもらおうと思ってましたけど……」
すると彼はいたって真面目な顔で言う。
「俺がやる。おまえのナイトになる」
「まあ……」
慰問活動する私の、護衛をしてくれるというのか。
「それはうれしいですけど、王国騎士団としての仕事はどうするんですか?」
「上に話をもちかけてみる。フェリ、おまえは今や、この国の宝だ。きっと国王も協力してくれるだろう」
聖なる力はとても珍しいものだ。
その力を持った女は聖女と呼ばれ、どの国でも重宝されている。この国も例外ではない。
「それにおまえを、どこの誰とも知らんやつに守らせたくない」
「あらまあ、いいんですか? そんな私情を挟んで」
とはいっても、私の口の端は緩んでしまう。
愛する夫が、私のことを独占してくれる。それは、なんともうれしいことだから。
「私情ではない、これは愛だ」
「愛……ですか。ふふ……いい言葉ですね」
独占欲も愛と言い換えれば、なんとも素敵に聞こえるからふしぎである。
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