44話 アルセイフ視点
フェリアとともに、ヒドラを討伐して、レイホワイト家に帰ってきた、その日の夜。
「…………」
目を覚ましたアルセイフは、隣に眠る、美しき妻を見やる。
「すぅ……んんぅ……」
フェリア。愛する嫁。なんと美しく……そして、気高い魂を持つ女だろうか。
「…………」
アルセイフは、先日のヒドラ戦のことを思い返す。
恐ろしい毒魔竜は、自分の剣技も、氷の異能も通じなかった。
彼は死を覚悟した。それでいいと思った。愛する女を守って死ねるなら、本望だと。
そこへ彼女が現れた。……崩れ落ちそうなくらいの安堵を覚えた。
「フェリ……」
彼女は、自分を守るためにやってきてくれた。あんな見上げるほどの毒の竜を前にして、震えないものはいないだろう。
だがフェリアはおびえた様子もなく、自分を助けてくれた。
本当に……うれしかった。自分を守ろうと、思ってくれることが、大切に思ってくれていることが。
「…………」
だが、喜んでるばかりでは、駄目だ。
アルセイフは立ち上がってベッドルームを後にする。
向かったのは庭にあるほこら。
そこの中には、フェンリルのコッコロが座っていた。
『なに?』
「礼を言いに来た」
『礼?』
「おまえからもらったお守りが、役に立った」
フェリア経由で、お守りを貰っていたのだ。ヒドラからの攻撃に耐えられたのは、このフェンリルのおかげである。
『別に、君のためにやったんじゃないんだから。フェリを守るためなんだからね。勘違いしないでよね』
ふんだ、そっぽを向くコッコロ。
「素直じゃないやつだな、貴様」
『君に言われたくないんですが?』
「……そうだな」
『な、なんだよ……素直に認めるのかよ……調子狂うな……』
ふぅ、とアルセイフは深く息をつく。
『なんかあったの?』
「ああ。ヒドラに、俺は負けてしまった。フェリに、守るべき女に、守られてしまった……騎士として、失格だ」
アルセイフは力不足を感じていたのだ。
愛する女に守られるなんて。本来ならあってはならない。
悔しかった。フェリアを、不安にさせてしまったことが。
「俺は……フェリを守る力が欲しい。頼む……力を、貸してくれ」
アルセイフは素直に頭を下げる。
今まで彼は、コッコロに対して嫌悪感を覚えていた。
嫉妬だったのかもしれない。
フェリと気安い関係が、羨ましかったのだ。
だから、この家の守護獣であるコッコロに敬意を払うことはなく、受け容れることもなかった。
けれど今、彼は頭を下げて、助力を願い出たのだ。
愛する女を、守る力を得るために。
『……ふん。ま、別にいいよ』
「……いいのか?」
コッコロは溜息交じりにうなずく。
『君が私利私欲で、ボクの力を得ようとしてるんだったら、絶対貸さなかった。でも君はフェリのために……誰かのために強くなりたいって、そういった。……成長したね、君』
……そういえばこのフェンリルは、幼い頃からアルセイフのことを知っているのだ。
長くそばにいたからこそ、変化に気づけたのだ。
「俺が変われたのだとしたら、フェリのおかげだ」
『そうだよ。フェリが居たから君が変われたんだ。それを努々忘れないように』
そう言ってコッコロは近づいてきて、アルセイフに鼻先を向けてくる。
コッコロの鼻先に手を触れると、青い光が、アルセイフの中に入ってきた。
力が……沸いてくる。
これがフェンリルの力……レイホワイトの、力。
「フェリに感謝だな」
『そのとおり』
2人は目を見合わせて、晴れやかに笑う。
ようやく2人は、和解できたのだった。
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