42話
毒魔竜ヒドラを討伐したアルセイフ様とともに、私は村へと帰ってきた。
アルセイフ様が率いる騎士団、赤の剣のみなさんは、私たちの無事を泣いて喜んでくれた。
「副団長! 生きててよかったです!」「もう死んじゃったかと思いましたよ……うう……」
団員のみなさんをヒドラから逃がすため、彼はひとりしんがりをつとめたのだ。
大泣きするみなさんを見てアルセイフ様が困惑なさっていた。
たぶん、彼の中では、騎士として当然の行いをしたのだろう。
弱き人たちの前に立ち、彼らの代わりに自らを犠牲にする。それは彼のなかでは特別ではないと思っていたし、騎士団のみなさんも同じ意見を持っているのだと思ってたのだろう。
「みんな、あなたが好きなんですよ」
一瞬、彼が驚いた顔になったけれど、すぐに彼らの顔を見て、自らの過ちに気付いたのだろう。
「すまなかったな、おまえたち」
すっ、と素直に頭を下げるアルセイフ様。うんうん、それでいいのです。
「「「副団長が、おれたちに頭を下げたー!?」」」
けれどみなさんとても驚いてらした。そんなに驚くことなのだろうか。
結構この人、素直な人ですよ?
「すげえ」「あの氷帝さまが自分の間違いに気づいて謝るなんて!」「やはりフェリアさまの人徳があってこそか!」
「私は別に何もしてないのですが……」
いやいや、とみなさんが首を振る。
「やっぱり副団長にはフェリア様がいないとダメですね」「というかフェリア様がいなかったら死んでましたよね」「良かったですね副団長、フェリア様と結婚できて!」
みなさんなんだか私のおかげにしてるような……。
あとみなさん私ばかり褒めてくるので、申し訳がない。
「あ、あの、ヒドラを倒したのはアルセイフ様ですよ?」
けれどみなさん首を振る。
「いやフェリア様がいたからヒドラを倒せたんです」「フェリア様パワーがなきゃいまごろ副団長は毒で死んでました!」「やはりフェリア様が神!」
絶賛される私だが、やはり私ばかり評価されるのはちょっと、いや、だいぶ嫌だ。
ちゃんと夫も褒めてほしい。
「あなたもぼーっとしてないで、もっと自分の功績を誇ってくださいまし」
「む? いや、俺が言うまでもないだろ。こいつらが言った通り、すべてはフェリ、おまえのおかげだ」
うんうん、と部下と一緒にうなずくアルセイフ様。
「……もしかして、からかってます?」
「ふふ、ばれてしまったか」
「まったくもう!」
なんて夫でしょうか。まったく。妻をからかうだなんてっ。
「もう一緒に寝てあげません」
「んな!? そ、それは俺に死ねということか!?」
さっきの余裕の表情からいってん、大いにあせるアルセイフ様。
ふふ、焦るがいいです。
「あんな危険なとこに一人で残って、嫁を不安にさせた罰です。しばらく反省です」
「くぅ……!」
そんな私たちのやりとりがおかしかったのか、騎士団のみなさんは、全員で笑い出した。
私とアルセイフ様も顔を見合わせ、笑ったのだった。