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40話 アルセイフ視点



 フェリアがアルセイフのもとへ向かう少し前までときは遡る。


 森の中にある魔物の巣。

 そこでアルセイフは毒魔竜ヒドラと邂逅。


 仲間達を逃がす時間を稼ぐためしんがりをつとめたのだった。


「はぁ……はぁ……なんてやつだ……」


 見上げるほどの毒竜。

 一方アルセイフは満身創痍だった。


「く! この……!」


 刃に氷の力を付与して相手に斬撃を与える。

 通常なら切りつけた相手を凍らせるほどの威力を持つ。


 だが凍り付いたと同時に、氷結していた部分がとけたのだ。


 ヒドラは皮膚から猛毒を分泌しつづけている。

 

 どのような攻撃を当てようと毒によってとかされてしまうのだ。


「武器の攻撃も、魔法の攻撃も効かないか……化けものめ」


 だが彼は討伐を目標としていない。


 あくまでも、フェリア達が逃げる時間を稼いでるだけに過ぎないのだ。


 たとえ自分が倒せなくても良い。


 ……たとえ、ここで自分が倒れたとしても良い。


 愛しいフェリアを守れるのなら。


「ギシャァアアアアアアアアア!」


 毒魔竜の口から毒の霧が吹き出す。


 急いで回避したアルセイフだったが……。


「げほっ! ごほっ! ごほっ!」


 霧を吸い込んでしまい、体が動かなくなる。


 だが次の瞬間……しゅおん! と体が光り輝いた。


「はぁ……はぁ……フェリア……おまえに貰ったお守り、とても役に立って居るぞ」


 元を正せば神獣コッコロがフェリアに与えたお守り。


 だが彼が危ない場所へ行くからと、フェリアが夫に渡していたのだ。


 神獣の加護を得たアルセイフは、ヒドラの猛毒を受けても平然としていられた。


 だがお守りも徐々にボロボロになっていく。

「おそらくこのお守りの効果が切れたら……俺の最後だろう……」


 脳裏にフェリアとの思い出がよみがえる。

 最初は、冷酷なる氷帝って、バカみたいとか言ってきた。


 失礼な女だと思った。

 だが自分のことを恐れず、まっすぐに見てくれたのは彼女が初めてだった。


 ……思えば、あのときから既にフェリアに惚れていたのだろう。


「フェリア……」


 やがて、お守りが完全に朽ち果てる。


 息苦しさが一気に増した。


 立っているのだってやっとの状態。


「ギシャァアアアアアアア!」


 ヒドラが歓喜の雄叫びを上げる。


 ようやく目の前の人間えさを食べられることを喜んでいるのだろう。


「はあ……はぁ……だが、俺はただでは死なんぞ」


 密かにアルセイフは準備していた。


 命と引き換えに、己の氷の魔力を暴走させる最終奥義……。


 ようするに、自爆するつもりだった。


 からん、とアルセイフは持っていた剣を手放して両手を広げる。


 すでに毒が体中を回っている。

 まもなく立っていられなくなるだろう。


 毒のせいで視界が不明瞭になっていく。


 だが……脳裏にははっきりと、愛する妻の顔が浮かんだ。


「すまない……フェリア……大好きだったぞ……」


 アルセイフに向かってヒドラが近づいてくる。


 その大きなあぎとで、彼を丸呑みにしようとした……まさにそのときだった。


 かっ……! と強烈なまばゆい光が辺りに広がる。


 その光はヒドラに苦悶の表情をさせる。


 一方でアルセイフはその光に安心感を覚えた。


 まるで……そこに愛しい女がいるような……そんな安堵を与えてくれる。


「アルセイフ様!」


 まばゆい光の中、現れたのは、大好きなフェリアの姿。


「ふぇり……?」


「良かった! まだ生きてる……! 良かったぁ……!」


 フェリアが涙を流して自分にすがり寄ってくる。


 いつもクールな彼女が、自分を抱きしめてくる。


「ああ……ここが天国か……」


 あまりに都合が良すぎる。

 彼女は少し冷たいくらいがちょうどいいのに。


 こんな、泣いてすがってくるなんて。


 アルセイフは目を閉じて安らかな表情を浮かべる。


「最後に君の顔を見れて……よかった……いたっ!」


 ぱしん! とアルセイフの頬を誰かがたたいた。


 フェリアだった。


「お、おまえ……」

「もう! もう! ばか! 心配したんですよ!」


 遅まきながら頬をぶたれたことに気づく。

 頬が痛い。痛みを感じる……つまり……。


「俺は……生きてる……?」


 瞳に涙をたたえたフェリアが、こくん、とうなずくのだった。

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