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35話 アルセイフ視点


 フェリア達が村を訪れてから、1週間ほどが経過した。


 フェリアの夫……アルセイフは、騎士団のメンバーを連れ、村に隣接する森に入っている。


「よっと」「ほいっと」「せやっと」


 部下達が森の魔物達を一方的に倒している。

 彼らの体には、七色に輝く膜が張られていた。


「いやぁ、副団長。すごいですね、このバリア」

「ハーレイ。おまえもそう思うか?」


 ふふん、とアルセイフが胸を張る。


 ハーレイ。アルセイフの部下であり、そのほかの部下との橋渡し役的な存在。


「フェリア様の付与してくださったこの聖結界、魔物からの攻撃を完全に防ぐだけでなく、魔物に対して大ダメージを与える聖なる力を付与してくださるなんて」


 フェリアの習得した聖結界。

 これは何も、防御だけに使われるものでないことが判明した。


 体に結界をまとえば魔物の攻撃を防ぎ、武器にまとえば、魔物を一撃で倒す聖なる武具へと変貌する。


「規格外なお方ですね」

「ふふっ、だろう? 俺のフェリアは凄いんだ」


 赤の剣のメンバー達はみな、フェリアの力を認めている。


 氷帝を御するだけでなく、このような奇跡技を使う。凄いことだ。


「しっかし魔物はうじゃうじゃ沸いて出てきますね」


 一週間狩り続けているものの、魔物の数はとんとへらない。


 むしろ、増えているようにも思えた。


「フェリア様の聖結界があるおかげでなんとかなってますが、こりゃ王都に応援要請しないとまずいかもですね」


「だとしても、原因を突き止めねば抜本的な解決にはならんだろう」


「原因……なんでしょう?」


「魔物達の主、だろうな。こいつらを生み出す親玉がいるのだろう」


「なるほど……そいつをどうにかしないと状況は好転しないと」


「あの憎たらしい王子も同意見らしくてな。近く、討伐作戦が行われる」


 忌々しそうに、アルセイフが顔をゆがめる。

 赤の剣たちはいったん、村へと戻る。


「聞いてくれハーレイ」

「はいはいなんでしょう?」


 多分フェリアのことだろうが。


「フェリアのことなのだが」


 やはり……と赤の剣のメンバー達は、なかば恒例となった、悩み多き副団長の声に耳を貸す。


 彼と妻とのラブコメが、最近では一番の娯楽であるのだ。みなわくわくしながら耳を貸す。


「最近……中々フェリアと二人の時間が過ごせなくてな」


「ほぅ。拒まれてるのです?」


「違う。あいつは最近色々と忙しくしてるだろう?」


 聖結界の維持だけでなく、けが人の治療、村の修復、そして炊き出しと。


 フェリアは忙しく働いているのだ。


 夜になって、借りている小屋に戻ると、すぐに横になってしまう。


「俺はフェリアに休んで欲しい……が! あいつとももっと時間をともに過ごしたいのだ……」


 アルセイフは妻をとても大事にしているのだろう。


 けなげ……と赤の剣のメンバー達は感心する。


 アルセイフはもちろん、フェリアも自覚してないことだが。


 妻にそういう優しいムーブをすることで、アルセイフの株がぐんぐんと、赤の剣のなかで上がっているのである。


 当の本人達は自覚がないだろうが。


「そうですね。たまには休んでデートでもすればいいんじゃないですか? 大規模作戦が始まる前に」


 そうそう、と赤の剣たちがうなずく。


「しかし……貴様らが仕事している間に、デートにうつつをぬかすなど……」


 最近では部下にも気を使えるようになってきているアルセイフである。


 その成長をみなが微笑ましく思っていた。と同時に、やはりこういうふうに変えてくれたフェリアに感謝する。


 フェリアは村人達から救世主と呼ばれているようだが、赤の剣の間では、とっくに救世主なのだ。


「おれらのことは気にしないでください。1日くらい奥様とデートなさってくださいな」


 そうそう、と赤の剣の皆がうなずく。


「しかしこの状況で……」


「フェリア様の治療のおかげでけが人はいないですし、村も元通り、活気を取り戻してます。大丈夫です。デートいってください」


「森の中に綺麗な湖がありました! 見に行かれてはどうでしょう?」


 ……部下達が自分と、そしてフェリアのために動いてくれている。

 

 アルセイフは皆……ぺこり、と頭を下げた。


「ありがとう」


「「「「……!」」」」


 全員が、驚愕していた。冷酷なる氷帝と呼ばれる彼が、部下に、ここまで丁寧にお礼することは初めてだったからだ。


 やはり、フェリアのおかげで、彼は変わってきている。騎士団の雰囲気も良くなってきているのが、ハーレイには伝わってきた。


 あの人は、本当に救世主だな、とハーレイと赤の剣のメンバー達は思うのだった。

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