33話
聖結界の訓練をし、力のコントロールに自信がついた私は、いよいよ本番。
私は女神の結界がとけてしまっているという村に、結界をかけ直しに向かった……。
「なんか、大袈裟じゃないですか、これ?」
私が乗っている馬の前後左右には、騎士たちが護衛している。
夫であるアルセイフ様の所属する部隊、【赤の剣】のメンバー全員がそこにいた。
「みなフェリアを守りたいと言ってな」
「まあ、それはありがとうございます」
護衛の騎士さんたちが笑顔で手を振ってくる。
自ら進んで守りたいと願い出てくれたなんて。
うれしい限りだ。大事にされて悪い気はしない。
「それであの……アルセイフ様? どうして私は、アナタと同じ馬に乗ってるんです?」
彼が手綱を握る馬に、私と彼、二人で乗っている。
ちょうど彼の前に腰を下ろし、後ろから抱きしめられてるような体勢だ。
「何かあったとき、臨機応変に対応するためだ」
「二人乗りしていたほうが動きにくくないです? 私は馬は操れませんし」
「「「そのときは、自分たちにお任せください!」」」
赤の剣のメンバーさんたちが、どんっ! と自分の胸をたたく。
「命に代えてもフェリア様をお守りします!」
「フェリア様に指一本触れさせません!」
まあ、なんということでしょう。
民を守るために、コンナ固い決意を表明してくれるなんて。
「ありがとうございます、皆様」
照れくさそうに、赤の剣の皆さんが頭をかく。
「……フェリア様がいなくなったら、あの上手いメシが食えなくなるからな」
「……フェリア様がいるおかげで、アルセイフ様が真人間になったし」
「……フェリア様がいないと赤の剣って崩壊するってゆーか」
小声で何かを言っていたので、私も彼も聞こえてない様子。
「君を守るのは当然だ。君はこの国の宝だからね」
私の隣に、白い馬に乗った、赤髪の青年が近づいてくる。
「ハイア殿下……」
一番の謎は、彼だ。
騎士や夫がついてくるのは護衛の役割だと理解している。
けれど一国の王子がなぜついてくるのか。
「私は父上より、聖女の力を見極めてこいと命を帯びているのだよ」
「聖女……?」
「君のことさ」
聖女。聖女ねえ……。そんなたいそうな人物じゃないのだけれど。
私が凄いのではなく、私の持つ力が凄いだけだから。
「わかりました」
「ああ……ところでアルセイフ君? なぜきみは、そんなに私をにらんでくるのだね?」
夫が敵を見つけたときのような、鋭い瞳を、ハイア殿下に向けている。
「虫が大事な妻につかないようにしているのだ」
「ほぅ、それは仕事熱心だ。どれ、虫を潰すのに注力できるよう、リアをこちらの馬に乗せるのはどうだろう?」
「ふざけるな。誰が貴様なんぞに渡すか。フェリアは俺のだ。貴様には渡さん」
何でけんか腰なのだろうかこの人ら……?
「別の人の馬に乗せてもらうのはどうです?」
「「駄目だ」」
その後二人は終始、けんか腰だった。
まったく、殿方はいつになっても、子供っぽいのだから。
仕事中くらい仲良く、いや仲良くしなくてもいいから、共同歩調を取って欲しい。
「どうしてそんなに仲が悪いんですかね?」
「「…………」」
アルセイフ様とハイア殿下が、あきれたように。
赤の剣のメンバー達もまた、同じ風に、私を見てきたのだった。
え、なに? どういうことなのだろう?