32話
ある日の昼下がり、私はコッコロちゃんの祠で、訓練をしていた。
『フェリー。フェリー』
私の目の前には、大型の犬がいる。
この子は神獣、コッコロちゃん(元祖)だ。
フェンリルなのだが、見た目は完全に大型犬。
「なぁにコッコロちゃん?」
『ふぇりにさわれないよーう』
七色の光を放つ結界が、コッコロちゃんの周りを包んでいる。
これは聖結界といって、特定のものの侵入を拒絶する、高度な結界なのだそうだ。
『くぬ! くぬー! さわれない~』
「本気で破ろうとしてます?」
『してるよ! なのにびくともしないや!』
フェンリル、神獣の攻撃を受けても破れないなんて。
やはりこの結界は、本当にすごいものなのだな。
『ぜえはあ……もうだめ。ふぇり、ボク疲れたよう』
「ありがとう、お疲れ様」
私は結界解いて見せる。
もふもふのわんこが、私の隣にストン、と座る。
『ボクがんばった? ほめてほめて!』
「ええ、頑張りました。えらいえらい」
『えへー♡ ふぇりすき~♡』
コッコロちゃんが私の体にほおずりしてくる。
「前みたいにべろべろしなくなりましたね」
『2号がうるさいからさー』
なるほど、確かにアルセイフ様はコッコロちゃん元祖に厳しい。
『ふぇり、今のはなんだったの?』
「訓練です。結界の。今度遠征にいくことになりまして、その練習」
『えんせー? どっかでかけるの?』
「ええ。女神さまの結界が経年劣化してしまった村に、結界を張りに行くんです」
『へー。なんで?』
「力が本物かどうかの検証も含めてるんですって」
自分を対象に結界を張ることは出来た。
だが他人を対象に張れるかどうかわからなかったので、練習してるわけだ。
結果、ものすごく簡単にできた。
『すごいや。聖結界をこんな自在に操るなんて、まるでふぇりは女神さまみたい!』
「まあ、お上手ですね」
私はコッコロちゃんの頭をなでる。
彼は嬉しそうに目を細める。
『お世辞じゃないよ。精霊王の加護に聖結界を自在に使えるなんて、まじで女神さまかも。生まれ変わりっていうのかな』
「そういうのって本当にあるんですかね?」
『うん。仲間もなんにんか、転生者に会ったことあるって神獣がいたしね』
まあ、だからと言って私が女神さまの生まれ変わりなわけないしな。
じゃあ私がなぜこうもたくさんの力を、いともたやすく使えるのか、と聞かれると答えに困るけれど。
『遠征かー。またふぇりに会えないの辛すぎ~。ただでさえ会う機会激減してがっかりなのに』
「復学しましたからね。まあ結婚して子供産んだら、いやでもおうちにいますよ」
『結婚、出産かぁ。早くした方がいいよ』
「それはコッコロちゃんが、私と一緒にいたいから?」
『もちろんそれもあるよ。あるけど、ふぇり? 君、嵐の中心にいること、気づいてる?』
嵐? なんだそれは。
『気づいてないっぽい……ちなみに遠征は誰といくの?』
「ハイア王子とアルセイフ様」
アルセイフ様は護衛の騎士としてついてくるのはわかるんだけど、なぜ王子が付いてくるのか。これがわからない。
『あーあ、まーたバチバチはじまるぞー』