表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/76

28話 ハイア王子視点


 ハイア=フォン=ゲータ=ニィガ。

 フェリアの義妹、セレスティアと婚約することになった王子。


 彼の目下の頭痛の種は、婚約者……セレスティアにある。


「はぁ……」


 ハイアは馬車に乗り、貴族主催の夜会へと向かっていた。


「どうなさりましたのぉ~ん、ハイアさまぁ~?」


 自分の隣に座り、べったりとくっついてくる少女……セレスティア。


 甘ったるい声で、こびを売ってくるその姿に、ハイアは辟易していた。


「セレスティア……ちょっと離れてくれないか。私は疲れているんだ」


「あら! それは大変ですわぁん! なんだったら膝枕でもしましょうか? 子守歌を歌って差し上げます? わたくしなんでもいたしますわぁ! なんだって、あなたの女ですものぉ!」


 ……辞めて欲しかった。

 

 セレスティア=フォン=カーライル。

 カーライル公爵家の次女。


 賢いフェリアと違い、セレスティアを一言で言うなら、愚かな女であった。


 彼女はとてもわがままだ。

 侍女や城のものたちに、わがままを言っては困らせていると聞いている。


 さらに、彼女は自分が一番でないと気が済まないらしい。


 セレスティアはハイアにとっての一番になろうと、二人きりの時は、こびを売りまくってくる。


 正直、鬱陶しい。

 こちらの心労など気にせず、ベタベタとくっついてくる……。


(こんなとき、リアだったら……)


 フェリア。幼馴染みの少女。


 彼女は実に聡明だ。

 自分の振るまいが、自分だけでなく、他者の評価を下げる可能性があることを知っている。


 公爵令嬢として、ふさわしい振る舞いをするだけでなく、他者をいたわる心まで持っている。


 ……正直、性格面において、妹とは雲泥の差と言わざるをえない。


 フェリアなら、こちらが疲れている、といわずとも、いたわってくれる。


 そっとしてくれと言ったらそうしてくれる。

 過剰にこびを売ることもなく、ただ静かに、そばにいてくれる。


 それだけでいいのだ。なのに、このセレスティアという女は、なぜそれができないのだ?


(駄目だ……婚約した彼女と、再びあってから、リアのことばかり考えてる)


 今、彼女はレイホワイト騎士爵の家に嫁いだ。


 もう、幼い頃のように、過剰に仲良くできない。してはいけない。


 フェリアもそれを承知しているからか、学園でも、わきまえた振る舞いをしてくる。


 ……それが、とてもさみしかった。


「……いいか、セレスティア。先に言っておくことがある」


「なんですのぉん?」


 ……その甘ったるい、鼻につくようなしゃべり方を辞めろ。


 そう言っても聞いてくれないのだろうな、と諦めつつ、ハイアはセレスティアに忠告する。


「これから行く夜会では、他国からも大勢参加する。君の振る舞いは、彼らに見られている。それを意識してくれ」


「はぁい! わっかりましたぁん!」


 ……全く分かってるようには思えなかったので、更に釘を刺しておく。


「パーティでは騒ぎを起こすな。いいか、絶対に起こすんじゃないぞ」


「わかってますってぇん♡」


 ぎゅっ、セレスティアが腕にしがみついてくる。


 やめてほしいかった。この女は、かげんをしらない。ぎゅーっと、力一杯抱きしめてくるのだ。


 ……フェリアなら。

 控えめに、そっと手を重ねてくるくらいだろうか。


 その方がいい。そもそも人に触られるのが好きじゃないのだが。


 ……それを何度言ってもセレスティアは聞き入れてくれない。照れ隠しだと思っているらしい。


 フェリアは、言わずとも、態度で察してくれるのに。


    ★


 ハイアたちを乗せた馬車は夜会の会場へと到着した。

 隣国である、マデューカス帝国との国境付近にある古城でのパーティ。


 帝国貴族も参加するパーティだ。

 普段以上に振る舞いを気をつけねば、王国の品位を下げることになりかねない……。


 だと、と言うのに……。


「ちょっとなに! この料理作ったのはだれ!? あたし辛いの苦手なんですけど!」


 ……セレスティアは、あれだけ注意したというのに、態度を改めなかった。


 パーティ会場の護衛に来ていた騎士達にあたり散らし、料理に文句を言う。


 自分より下の貴族の令嬢達には「わたくし、王子の妻ですのよ? 何その態度、もっと敬いなさいよ」と平然と他者を見下す発言をする。


「……何あの女」「……ハイア王子の婚約者らしいですよ」「……うわぁ」


 当然、セレスティアの行動によって、ハイア、そして王国の評判が落ちていく。


 もう何度も注意したのに、セレスティアは目を離した瞬間に、息をするように他者を見下す。自慢をする。


(……勘弁してくれ)


 心が折れそうになっている、そのときだ。


「殿下?」


 耳に心地よい声。

 振り返るとそこには、パーティドレスに身を包んだ、美しい少女がいた。


「リア……!」


 思わず、声が弾んでしまった。

 おめかしして、ドレスに身を包んだ彼女は、女神と見間違うほど、美しかった。


「殿下。また呼び方が戻っておられますよ?」


 フェリアは声を潜めて、注意をしてくる。


 帝国貴族の目があるから、彼女は指摘してきたのだ。


 ああ、これだ。この気遣い。

 自分が、妻に求めていたモノだった。


「レイホワイト君。君も参加していたのだね」


「はい。夫の付き添いで」


 ……フェリアをレイホワイトと呼んだこと、フェリアが、夫という単語を使ったことが、ハイアにとっては地味にショックだった。


 諦めたはずだったのに、フェリアへの思慕の情が、再燃しそうになる。


 だが王族である自分が、他の家の夫人と浮気などできるわけがない。


「アルセイフ殿にご挨拶をと思っていたのだが、彼はどこにいるんだい?」


「さっきそこでもめ事があったとかで、かり出されてます」


 もめ事……。

 セレスティアでないことを祈るばかりだ。


「殿下。はい、どうぞ」

「え?」


 フェリアがお皿に盛ったラズベリーソースのかかったチーズケーキを、笑顔で差し出してくる。


「これは……?」

「お疲れのご様子でしたので、あまいものでもどうかと」


 ……このケーキは、ハイアの好物だ。


「おぼえていたのか……?」

「ええ、もちろん」


 ……なんと、できた女だろうか。


 彼女からケーキを受け取り、彼女の暖かさが伝わってくる一方で……。


 胸がズキリと痛んだ。

 ああどうして、彼女が自分の婚約者ではないのかと。


 アルセイフが羨ましくてしょうがない。

 こんな素敵な女性が自分を支えてくれているなんて。


 どうして、彼女はレイホワイトへ嫁いだのだ。


 なぜ自分の元に彼女がいない。

 なぜ……どうして……。


「殿下、これで失礼しますわ」

「あ……ああ」


 必要以上に会話をせず、フェリアが去って行った。


 彼女は自分の立場をわかっている。

 周りには帝国貴族の目があることを、わきまえている。


 自分の番となるべきは、絶対にフェリアなのだ。


 自分を理解して、己の立場を理解し、振る舞うことのできる……才女。


(リア……君が欲しいよ……リア……)


 しかしそれは叶わぬ恋。

 自分は、あのセレスティアを上手く手綱を握っていくしかないのだ……。


 と、そのときだった。


「大変ですハイア殿下!」


 古城の衛兵が、駆けつけてくる。


「セレスティア様が、階段から、レイホワイト夫人を突き飛ばしたそうです!」


 フェリアが突き飛ばされたと聞いて、一瞬、ハイアの頭が怒りで真っ白になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★書籍版3/3発売★



https://26847.mitemin.net/i714745/
― 新着の感想 ―
[良い点] これ幸いと婚約破棄にしてしまえ、姉に対する態度として許されざるとかなんとか、それなりの理由つけて
[気になる点] >「セレスティア様が、階段から、レイホワイト夫人を突き飛ばしたそうです!」 この先、どうなる!? 高貴なお方の婚約者でありながら・・・この先の事を考えると外交問題を起こしたりしそう…
[一言] うわぁ義妹とうとうやらかしたか!これは婚約破棄まっしぐらじゃね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ