21話
それはお昼休みのこと。
「あら、セレスティア。ごきげんよう」
「……姉様」
私が友人たちとお昼を食べに、食堂へとやってきたところ、義妹セレスティアと遭遇した。
後妻の娘であり、私にアルセイフ様を押し付けてきた張本人。
わがままで、性格がきつくて、いつも人を見下してきた彼女……。
なのだけど……おや?
「どうしました? 元気なさそうですけど」
何だかぐったりしてる様子だった。
私を見ると、その瞳が不愉快そうにゆがむ。
「……どうして姉様は元気そうなのよ」
「え? まあ、周りがみなさん優しいので」
「優しい……?」
不審そうに私を見てくるセレスティア。
「あの、冷酷なる氷帝が?」
「ええ。アルセイフ様も、ご家族も、みんな温かくて優しくしてくれます」
セレスティアは「……なによ、なんなのよ」とつぶやくと、私の元から去って行く。
「ちょっとみんなに好かれてるからって、調子乗らないでよね! ふんだ! ……きゃあ!」
すてーん! とセレスティアが豪快に転ぶ、と、お尻丸出しにして倒れる。
「あーらごめんあそばーせ。風の精霊さんがちょーっといたずらしたみたいなの~」
友人アニスの肩に空色の妖精が座っている。
「この子いたずらっ子でねえ、ごっめーん★」
「この……!」
「あら、なぁに? あたし達と……やるき?」
すっ、とアニスが杖を、スヴェンがダガーを……そして、モナまで呪符を取り出して、戦闘のかまえ。
「はいはい、ケンカはおやめなさい、みなさん」
「「「はい……」」」
私は妹の元へ向かい、スカートの位置を直して、手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?」
セレスティアがギリっと歯がみすると、私の手を払って、立ち上がる。
「ほんと! すこーしばかり好かれてるからって、調子のんな! バカ姉様!」
ずんずんと肩を怒らせながら、妹が私の元から去って行った。
何を怒っていたのだろうか、あの子。
「モナ。呪いかけておしまいなさい」
「……了解です、アニス様」
「だめですよまったく」
ひょい、とモナから呪符を取り上げる。
「いいじゃねえか少しくらい呪いかけてもさ~。オレ様の女にひっでえことしたんだし、な?」
アニスとモナがうなずく。
「とーぜんよね」
「……死ねば良いのですわ」
物騒な人たちだ、やれやれ。
場所を移動して、私たちは食堂の一画へとやってきた。
「セレスティアは何であんな気が立ってるんでしょうか? 誰か、心当たりあります?」
するとカレーライスを食べていたスヴェンが「そういえば……」と言う。
「あの女、婚約者と上手くいってねえつってたな」
「婚約者……? ああ、そういえば王族と結婚するんでしたね」
「そ。王子様から随分と嫌われてるらしいぜ」
アニスが鼻を鳴らして、スヴェンに同意するように言う。
「ま、とーぜんよね。自分のわがままで婚約者を押しつけるような、くそ女なんですもの」
「アニス。言葉遣いが悪いですよ。淑女なんですから、あなたは」
「あーん♡ ごめんねフェリ~♡」
アニスが私に抱きついて、頬にちゅっちゅとキスをしてきます。
やれやれ、親愛のキスはうれしいが、人前なので勘弁してもらいたい。
「あの女の婚約者ってぇ言えば、そろそろ留学から帰ってくるかもな」
「へー、留学」
「そ。オレ様の国、フォティアトゥーヤァに交換留学生として行ってたのよ」
スヴェンと入れ違いで、婚約者の王子は帰ってくるらしい……。
「あれ? それではあなたはお国に帰るんですか?」
「冗談きついぜハニー♡」
スヴェンはご飯を食べるのを辞めて、私の手を取る。
「オレ様は君のハートを射貫くまでは、ここに残るつもりさ♡」
あきれたようにアニスが言う。
「こいつわがまま言って、留学延長してもらったのよ」
さすがわがまま王子……。
「じゃあセレスティアの婚約者だけがこの学校に帰ってくるんですね」
「近いうちにね。ま、あたしらにも、フェリにも関係ないけどねー」
すると黙っていたモナが「どうでしょうか……」と心配そうにつぶやく。
「おや、どうしましたモナ?」
「あ、えっと……その……お兄様……じゃなかった、婚約者のかたが……その、フェリ様のほうがいいと言ってきたら……」
「「「ないない」」」
私、アニス、スヴェンが首を振る。
「私にはもう夫がいるんですよ?」
「そーよ、それにそっちにはセレスティアって婚約者がいるじゃない」
「てゆーか、王族が自分で勝手に婚約者を代えるのって無理だから、ありえないっしょ」
そうかなぁ、とモナが心配そうにつぶやく。
「でも結構情熱的な人だし……」
と訳知り顔でモナがつぶやく。
ああ、そうか。
【彼】は知ってるんだった。
「ま、私には関係の無いことですよ。心配せずとも、何も起きませんって」
「だといいんですけど……」
私の言葉に、歯切れ悪そうに、モナが返すのだった。