17話
【★お知らせ】
皆様からの温かいコメントがとても嬉しくて、連載再開することにしました。
またお付き合いいただけますと嬉しいです。
私の名前はフェリア=フォン=カーライル。
カーライル公爵の長女だ。
国立魔法学校に奨学生として通っていたのだが、突然親から実家に戻るよう言われた。
わがままな義妹セレスティアが、婚約を拒んだのである。
相手は、アルセイフ=フォン=レイホワイト騎士爵。
騎士爵は世襲ではないのだが、彼の家は代々王家に多大なる貢献をしてきた。
ゆえに特別に、代々その家を受け継いできた、という特別な貴族の令息。
しかしその恐ろしい見た目と態度、敵に対する容赦のない戦いっぷりから、人々は彼を【冷酷なる氷帝】と呼んだ。
私は氷帝アルセイフ様の妻になるべく、彼の家に嫁いだ。
そこで色々あって、私はアルセイフ様と仲良くなるに至った。
話は、私に精霊王の加護が備わっていると判明してから、2週間ばかりが経過したところから始まる。
★
眠りから覚めて、ゆっくりと意識が覚醒する。
すぐに感じたのは、耳にかかる鼻息だ。
ふすふす、とまるで犬のように、私の匂いをかいでいる。
ぱち、と目を覚ますと、そこには銀髪の青年がいた。
「おはようございます、アル」
彼が、冷酷なる氷帝アルセイフ=フォン=カーライル。
私の夫となる男性だ。
「ああ、フェリア……おはよう」
彼は私に添い寝するように横になっている。
私の髪の毛を1房手に取って、鼻におしつけていた。
「また髪の毛ですか。あなたも好きですね」
「ああ。俺はお前の髪の毛の香りも好きだ」
彼はすんすん、とまた髪の毛に鼻を当ててにおいをかいでいる。
その姿は私のかつての愛犬コッコロちゃんをほうふつとさせる。
「あのですね、アル。念のためですが、寝ている婦女子の部屋に勝手に入り込んで、相手の許可なく髪の毛の匂いを嗅ぐのはマナー違反ですよ」
こないだも注意したはずなのだが、もう忘れてしまったのだろうか。
するとアルセイフ様は「すまない……」といって、体を起こし、ぺこりと頭を下げる。
「次からは気を付ける」
「あなた昨日も言ってませんでした?」
「忘れた」
「犬より学習能力ないですね、あなた」
暴言ともとらえかねない発言。
以前の彼ならキレて、氷の力で襲い掛かってきた。
しかし……。
「すまないフェリア」
と、あっさり彼が謝る。
以前の彼を知っているものからすれば、驚きの素直さだ。
「注意されたのは、覚えている。だが、すまない。耐えきれないんだ。おまえが素敵すぎて。おまえの全部が魅力的で……」
こんな歯の浮くようなセリフを吐く人だったろうか。
前ならありえなかった、けど半月前、つまり私と初めてキスをした時から、態度がガラッと変わったのである。
どうやら部下のハーレイさんから色々教わっているらしい。
「まあいいです。明日は気を付けてくださいね」
彼は顔を上げると、明るい笑顔を浮かべる。
「ありがとう、フェリア。愛してる」
この半月ほどでいろんな変化があった。
たとえば愛してる、なんてさらっと彼が言うようになったこともそうだ。
他にも、まあ色々と変わってきている。
あのときと、今では、状況が違うのだ。
「さ、そろそろ起きましょうか。あなたの朝ごはんを作らないとですし」
けれど彼は私がベッドから降りようとすると、ぎゅっ、と抱きしめて離さない。
「フェリア……もう少しこのままがいい」
「あのですねぇ……今日は色々忙しいです。あなたも知ってるでしょう?」
「ああ、【今日から】だったな」
アルセイフ様が私を抱きしめながら、実に嫌そうな顔をする。
「たしか、今日から復学するんだったな」
「ええ。国立魔法学校に」
なぜ学校に行くことになったのかは、おいおい説明するとしよう。
「今日は初日です。遅刻するわけにはいかないのです」
「そうか」
ぎゅ~。
「……だからあのね、離してくださいよ」
「努力しよう」
ぎゅう~~~~。
……やれやれ、コッコロちゃん2号め。
私を離さないつもりだな。
「フェリア。どこにも行くな。ずっと俺のそばにいてくれ」
前もそんなことを言っていた。
「無理です。あなた仕事はどうするんですか?」
「辞める」
「騎士のほこりは?」
「そんな形のないものより、お前が世界で一番大事だ」
強く、強く、アルセイフ様が私を抱きしめる。
これがこの半月、毎朝なのだ。
彼はなかなかに重い愛をお持ちのようだ。
まあ、そんなふうに求められると、なんだか可愛いと思ってしまう私である。
とはいえ早く朝の準備をしないと、私も彼も遅刻してしまう。
妻として、騎士様が仕事に遅れることを、許容するわけにはいかない。
「わかりました。では、こうしましょう。もしもすぐに離してくれたいい子には、御褒美にキスを……」
秒で私からアルセイフ様が離れる。
なんという速さ。
「さぁ離れたぞ。さぁフェリア」
ふがふが、と鼻息荒く、彼が言う。
顔を真っ赤にして、目をキラキラと輝かせる姿は、まさにわんちゃん。
「まったく、そんなにキスしたいんですか」
「ああ、お前がほしくてたまらない」
アルセイフ様はこんな怖い見た目をしているのに、結構ヘタレだ。
自分から無理やりキスしようとしない、私をベッドに押し倒すこともしない。
背が高く大人びてはいるけど、彼はまだ16。
年齢的には大人としてカウントされるけれど、まだ精神的には、子供と大人のはざまを行き来しているのである。
「フェリア……」
私がぼんやり考え事してたからか、お預けを食らった子犬のように、アルセイフ様が悲しそうな瞳で見てくる。
「お待たせしました。はい、いいですよ。おいでませ」
彼は嬉しそうに表情を輝かせると、正面から抱きしめてくる。
朝の鍛錬のあとだからか、汗のかおりが鼻をくすぐる。
彼が私を見下ろしながら、口づけを交わす。
一度軽く唇を合わせ、顔を離そうとする。
彼が一瞬、ぴくんと体をこわばらせた。
たぶんもっと、とおねだりしているのだろう。
もう一度キスをすると、彼は止まらなくなって、何度もついばむようなキスをする。
ほどなくして、彼が顔を離す。
「朝からお元気ですね」
「うう……すまん」
「いえいえ。謝らないで下さいよ」
別にいやとは思わない。
こうやって熱心に求められるのはうれしい限りだ。
「さ、今日も一日お仕事頑張ってください」
「鬱だ……」
私が立ち上がると、彼もまた体を起こす。
しょんぼりと首を垂らすその様は、まさに犬。
「おまえが、もし学園の男たちから迫られたらと思うと、気が気でならん」
「私が? どうして?」
「おまえは世界一美しい女神のような存在なのだ。他の男どもがほっとくわけがなかろうが」
視野狭窄もいいところだ。
こんな私がモテるとでも、本気で思ってるのだろうか。
でもまあ、なんだか可愛い。嫉妬してくれてるらしい。
「まあ、学校には男の子も多いですね」
「そうだろう!?」
「素敵な男性教諭もいますし」
「ぐぅう……!」
私は微笑んで、彼の頭をなでる。
「でも私にとってあなたが一番ですよ」
彼が一瞬で顔を真っ赤にする。
首まで赤くなって、恥ずかしがっていた。
「そ、そうか……うむ。ま、まあ……おまえは学校でも研究一筋だと言っていたな。そんな女を愛する、変わり者の男など、絶対一人もいないだろう。うむ」
「それ、けなしてます?」
「ち、ちがう! 誤解だ! フェリア、勘違いしないでくれ!」
「わかってますって」
焦ってる彼がかわいくて、つい意地悪してしまっただけだ。
とまあ、色々あったけど、なんだかんだ私たち、仲良くやってます。
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