092 新体制
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
今日は定例会の日。
株式会社ダンジョンドリームスのメンバーが集まって会議をするのだ。
参加メンバーは玲央先輩、勇三、茂助先輩、牟呂さん、東海林さんと俺の六人。
珍しく、フルメンバーが集まっている。
というのも、今日の議題は『組織改編』。
これまでなあなあで仕事していた部分を『肩書き』を付けてちゃんとしようということになった。
まずは玲央先輩。
社長なのは相変わらず。あと雑務も通常通り。
次は勇三と俺。
俺たちはまだ高校生なので、本格的な会社運営に携われない。というわけで……。
「孫一には、渉外部と広報宣伝部をやってもらう」
「分かりました……けど、どうして兼任なんですか?」
「必要な部署を設立して、役員を割り振ることにしたのだ。兼任なのは、純粋に人が足らないからだ」
「そうですか……」
「なに、最初は大変かもしれないが、部下を育てて任せればいい」
「そういうことなら……けど、部下か」
勇三の親父さんから、優秀な人員を多数派遣してもらっている。
社員もいるが、多くは派遣として来てもらっている。
派遣の一部は社員として引き抜いていいらしいので、そこに期待するしかないだろう。
社員が育ったら、両方とも任せることにしよう。
「広報宣伝部は外部と接触することが多い。我々の窓口となるのだ。よろしく頼むぞ」
「分かりました」
ちなみになぜ、俺が渉外部と広報宣伝部をするのか。
先輩や勇三に任せるよりマシという理由だったりする。
「次は勇三だな。不動産部と人事部を新設するから、それを担当してほしい」
「りょ!」
「頼むぞ」
「今まで通りっすよね。んで、後継を育てたらお役御免ってことで」
「……ああ。優秀な者がいたら、どんどん仕事を任せていい」
「それならオーケーっすよ」
先輩の言葉に、勇三はサムズアップを返した。
自身は好きなように動いて、部下に尻拭いさせるつもりだろう。
「茂助くんはIT部だ。主にウェブ上のものを任せたいと思う」
「任されたでござる」
茂助さんなら安心だ。それに知り合いも多いらしいので、人も集めやすいんじゃないかと思う。
「牟呂さんは、新企画事業部をやってもらう。これまで私が担当していたので、それを引き継いでほしい」
「はい。……具体的には何をするんでしょう?」
「本拠地が新しくなるから、その辺を総括してもらうことになる。政府が用意してくれる土地と建物を使いやすいようにしてもらう感じだな。大がかりなものになるだろう」
「分かりました。大役ですね」
そう、本拠地の移転ひとつとっても大変なのだ。
社員は増えつつあるが、事業規模に反して人がまったく足りていない。
「部門設立して、会社らしくなったでござるな」
「そうですね。しかし、会社が急激に大きくなると、人が足りないですよね」
「仕事量も部署ごとに差がある。人員もな。増員がほしければ、早めに言ってくれ」
「分かりました。早めに言うようにします」
いまは大学生のアルバイトで、なんとか持っている感じだ。
レベル20になったあと、複数の場所でダンジョン商売を始める。
いまのうちに人員を増やしておいた方がいいかもしれない。
会社の運営資金は潤沢で、多少社員が増えても問題なさそうだし。
ちなみに警備部、総務部、経理部はプロの人たちにお願いしてある。
他の部署は、必要に応じて作っていくことになると思う。
「最後は東海林だな。一応メディア事業部としておく。いいな?」
「はい、問題ありません」
「テレビ番組の方はどうなっている?」
「すでに四本、取り終えています。撮影は順調と聞いています」
東海林さんは九月から、タレントとしても活動をはじめる。
情報発信番組『ダンジョン情報局』が、テレビ東都でスタートするのだが、それに出演するのだ。
日曜の朝、30分番組で枠が決まっていて、夏休みに入ってから撮影もはじまった。
構成は東海林さんとタレントのからみで8分、ダンジョンに関する最新情報が8分、タレントのコーナーが8分の計24分。あとはCMなどで埋まる。
テレビ局側から「だれか一人できれば」というお願いがあり、右腕少女として顔と名前が広がった東海林さんが、名乗りを上げた。
東海林さんの知名度は抜群。
そこらの新人タレントよりもよっぽど数字が稼げると、テレビ局の人も大賛成していた。
ちなみに本人も、テレビ出演についてまんざらでもないらしい。
「これで組織改編は終了だが……そうだ孫一、葉南高校へ出向いてくれ。そろそろダンジョン探索について、詳細を詰めたい」
「あー……生徒たちのダンジョン探索ですか。学校と話し合うなら、夏休みの今が一番ですね」
そういえば、学校からのお願いもあった。
レベル20になったら、俺たちもダンジョン生成のスキルが使えるようになる。
学校側から、生徒をダンジョンへ行かせたいと何度かお願いがあった。
生徒というよりも保護者の強い要望が学校に寄せられたらしい。陽南高校は私立校だからか、保護者の意見も強いのだと思う。
学校には「準備ができたら」と話してあるが、そろそろ頃合いだろう。
「時期は……そうだな、秋頃でどうだろう。その頃までにはレベルが上がっているな」
「大丈夫ですね。早ければ九月中にはレベル20になると思います」
「本格始動の前に、多くのサンプルが欲しい。運用経験もな」
「そうですね。出張ダンジョンとして初のサンプルになりますし、成功させたいですね」
生徒たちには悪いが、何千、何万人を相手に商売をはじめて問題が出た場合、対応や修正が大変だ。
そうならないためにも、テスト運用に協力してもらおう。
「よし、会議はここまでにして、ダンジョンに入るか。夏休みも残り少ない。気合いを入れていくぞ」
「おー……おおっ?」
――ブブブブブブ!!
机の上に置いてあった勇三のスマートホンが揺れた。
「ごめん、急に電話……って親父からか、珍しいな」
画面を見て勇三が首を傾げる。
「会議は終わったから、電話に出てもいいぞ」
「ういっす」
勇三がスマートホンを抱えて、部屋の隅へいく。
俺たちはダンジョン探索の準備だ。防具を持って更衣室へ行こうとするが……。
「――ええっ!?」
大声が聞こえてきた。
「マジかよ、親父っ! 分かったって、すぐ確認してみる」
勇三が電話を切った。
「何かあったのかな?」
「ええっと、首相が襲われたみたいっす。いや、直接は襲われてないのかな」
「首相って……総理大臣だよな? どういうこと?」
「親父が言うには、ダンジョン関連で何かあったらしい。できればオレたちに首相官邸まで来てほしいって言ってるけど、どうする?」
「なぜ首相が襲われたことと、我々が駆けつけることが関係するのだ?」
「親父も詳しいことは分からないって。ただ首相が来てほしいと言ってるらしい」
「ふむ……ならば、行ってみるか?」
玲央先輩が俺たちの顔を見回した。俺は頷いた。




