087 五人で探索
高2の夏休みが半分過ぎた。光陰矢のごとしだ。
鬼参玲央先輩が卒業してから、五ヶ月が過ぎたことになる。
最近はダンジョンを一部公開したことで、忙しさに拍車がかかっている。
時間はいくらあっても足らない。このまま学校が始まったらどうなるのか。想像するのも恐ろしい。
「勇三、少し出過ぎだ!」
「オッケー、いま下がる」
俺たちはいま、五人で『虫系B4ダンジョン』に入っている。
虫系ダンジョンは、数あるダンジョンの中でもっとも難易度が低い。
獣系ダンジョンは気配を消した魔物の不意打ちが怖いし、アンデッド系ダンジョンは生理的な嫌悪感がある。
CやDになると、魔法生物系ダンジョンや巨獣系ダンジョンが現れ、かなり危険度が増す。
いろいろ精査した結果、単純なレベル上げには、虫系が一番ということに落ち着く。
以前は牟呂さんと東海林さんのレベルに合わせてAダンジョンに入っていたが、その甲斐あって、二人のレベルは11にまで上がった。
毎日休みなしで探索しても、二人とも嫌な顔ひとつしない。
そのおかげで二人のレベルはモリモリと上がって、ようやくレベル11になった。
試しにと五人でB4ダンジョンに入ったところ、意外にもやれることが分かった。
玲央先輩、勇三そして俺の三人はレベル19。
節目のレベル20になるには、まだしばらくかかる。
できるだけ効率のいい探索をしておきたかったので、ここでレベル上げをすることに決まった。
「よし、残りはあと一体か。ここは私の魔法で……」
「いえ、玲央先輩。もう終わりそう……あっ、終わりました」
最後の一体に牟呂さんが特攻し、『兎蜘蛛』と名付けた魔物が『もや』となって消えた。
玲央先輩は、〈火弾☆1〉のスキルを使おうとしたのだろう。手を前にかざしたところで止まってしまった。
どうするのだろうと見ていたら、先輩は何事もなく手を下ろした。
「さあ、進もうじゃないか」
「そうですね。時間はまだありますし、どんどん行きましょう」
俺たちは探索を開始した。
この『虫系B4ダンジョン』だが、実は二人の適正レベルよりかなり高い。
だが、実際に入ってみると、俺たちが手持ち無沙汰になることもしばしば。
どう考えても、当時の俺たちよりやれている。
「すごいな。オレたち三人だけで戦ってたときは、もっと泥臭かったよな」
「まあ、あのときは結構手探りだったからね」
勇三が言うように、いまのレベルの半分くらいのときは、小さな怪我はしょっちゅうだったし、うまくいかないことも多く、反省会をよく開いていた。
あの頃に比べれば、東海林さんたちはよくやっている。
「うまく俺たちとの連携……歯車が噛み合っている感じがするね。東海林さんの動きもなめらかだったよ」
「そうですか? だったら嬉しいです」
東海林さんは笑顔を見せた。すでにダンジョンに入って数時間経過しているが、東海林さんはまだまだやれそうだ。
身体は疲れているはずだが、レベルが上がったことの恩恵だろうか、元気いっぱいだ。
俺たちはレベル20が目標で、東海林さんたちは、俺たちに追いつくのが目標。
そのせいか、レベル差を感じさせないほど、二人が頑張っている。
「東海林さんたちのレベルがあと3つも上がれば、B5ダンジョンにも入れそうかな」
玲央先輩に聞いてみると、「虫系ならあと2つ上がれば行けるのでは?」とのことだった。
東海林さんは、玲央先輩の言葉に頷く。自信があるのだろう。
もともとスポーツ少女だったこともあって、東海林さんの順応は早い。
一方の牟呂さんは、「B5ダンジョンは、私の適正レベルから外れていると思いますけど」と、難色を示している。
牟呂さんは大柄であり、力も強い。その反面、性格はかなり慎重。石橋を叩いて渡るタイプだ。
牟呂さんが普段大人しいのは、いろいろ考えているからだと俺は思っている。
「そうですね、B5ダンジョンの適正レベルは五人の平均レベルが19から20らしいです」
「でしたら……」
「ただし俺たちは装備も揃っていますし、ポーションも持っています。多少の無理はできると思いますよ」
これまでかなり安全マージンをとってきたが、戦いの勘というのだろうか。良い意味での「慣れ」が出てきている。
各人の視野が広がり、連携も自然に取れている。余裕をもって戦えている。
スキルも有用なものを持っていることから、五人が揃えば、レベルが足らなくても何とかなりそうなのだ。
一応、祖母から教えてもらった適正レベルは以下の感じ。
異世界人の探索者が五人揃った状態で。
Aダンジョン レベル1~10
Bダンジョン レベル11~20
Cダンジョン レベル21~30
各ダンジョンは「A1」「B3」のように5段階に分かれているので、「A1は、レベル1~2」「B3は、レベル15~16」が適正と考えることができる。
ただし、先ほど言ったように俺たちは装備が整っているし、有用なスキルも持っている。
単純に異世界人の適正レベルを当てる必要はないと考えている。
ちなみにDダンジョンから上は、レベルよりもスキルが重要なので、適正レベルというのはとくになかったりする。
Cダンジョンですら、どれほどレベルが高くても、有用なスキルを持っていなければ、決して入ることはないらしい。
「俺たち三人がレベル20になって、東海林さんたちがレベル14になったら、Cダンジョンへ入りますか?」
「それでもいいかもしれないな。ダンジョンを出たら、御祖母様に聞いてみよう」
「じゃあ、今度聞いておきます。……そういえば祖母ですけど、近々英国へ行くそうですよ」
「英国へ? 英国に何かあるのか?」
「観光がてら、人と会ってくるって言ってました」
「……ふむ?」
「ダンジョンを使うときまでには戻って来るそうなので、その辺は問題ないみたいです」
「そうか……しかし英国か」
探索の間中、玲央先輩は何かを考えているようだった。




