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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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009 島原の乱

「もともとあれだろう? 島原は玲央(れお)せんぱいを追っかけて、ここに入ったらしいじゃん。1年のときに告白して、玉砕したって聞いたぜ」


「らしいな。『イケメン三銃士』も、最初は揶揄(やゆ)された呼称だったみたいだし」


 いまの3年生がまだ1年生だった頃、高校デビューかどうかは知らないが、頻繁に女子へ声かけする3人の男子がいた。


 陽キャとも少し違う。

 欲望に忠実なのか、フラれてもめげない性格だったようで、次々と女子に声をかけることから、だれかが彼らのことを『イケメン三銃士』と呼んだらしい。


 もちろんわざとだ。

 ときどき、こういった特殊な呼び名が流行ることがある。


 蛮勇をふるう者のことを「あいつ勇者だぜ」と評することがあるが、それと同じだろう。

 次々と女子に声掛けすることから、「あいつイケメンだぜ」となったわけだ。


 月日が経ち、2年生になっても彼らの行動はなりを潜めない。

 それどころか、ターゲットを新入生に絞って活動しはじめた。


 そこに『イケメン三銃士』というあだ名が一人歩きしてしまった。


 同学年では他に、顔良し、性格よし、頭良しの男子がいるにもかかわらず、彼らが学年を代表するようなイケメンだと思われるようになったのだ。


 これには名付けたヤツも苦笑いだろう。


 そして人は、フィルターを通して相手を見てしまう生き物である。

 市場のイドラとはよく言ったもので、『イケメン三銃士』と呼ばれているのだから、イケメンに違いないと新入生は思い込んだわけだ。


 進学間もない右も左も分からない状態で「イケメン」と呼ばれている上級生から声をかけられたら、舞い上がってしまうのも分かる。


 そんなものだから、下級生に声をかけるとホイホイと引っかかる。

 まあ、引っかかりやすそうな女子を狙っていたのもあると思う。


 それに気を良くした『イケメン三銃士』は行動が大胆になり、さらに噂が加速する。

 本質は何も変わらないのに虚像だけが独り歩きしてしまったのだ。


 島原先輩は、玲央先輩を追っかけて『行列研究部』に入っていた。

 フラれてもめげない性格だったし、本人の中で本命と定めていたのかもしれない。


 翌年、彼はその気のない女子を次々と部へ勧誘した。

 いいところを見せようと思ったのかもしれないが、本気で部活動をしたい玲央先輩は、苦々しく思っていただろう。


 それでも新入生が入ったのだからと、先輩は頑張った。

 各種行列の情報を提供し、ときには一緒に行こうと誘ったが、反応は今ひとつ。


 そして今年の3月、このままではいけないと思った玲央先輩は、思い切った行動に出た。


 島原先輩目当ての「やる気の無い女子」に、最後通牒(さいごつうちょう)を突きつけたのである。

 次に入ってくる新入生に悪影響を及ぼさないためにも、活動しないならば部を去りなさいと告げた。


 春休みに行われたそれは、島原先輩の介入によって有耶無耶(うやむや)にされ、新歓期である4月を迎えた。

 島原先輩はまたもや、やる気のない女子を入部させた。


 ここで玲央先輩の怒りが爆発した。


「あのときは怖かったな。本気で怒った玲央先輩をはじめて見たぜ」

「俺もよっぽど、あの場を去ろうかと思ったんだけどな」


 玲央先輩と島原先輩の壮絶なバトル。

 副部長であった俺は、仲介役として部室に残った。


 他の部員は全員外に出し、両先輩の言い合いが始まったのだが、口でコテンパンに負けた島原先輩は、あろうことか、実力行使に出た。


「あれは島原が全面的に悪いわけだしな」

 勇三が笑っている。


「たしかにそうだけど、俺もやり過ぎたよ」

 あろうことか島原先輩は、玲央先輩を殴ったのだ。


 拳で肩のあたりを殴られ、壁際に吹っ飛んだ玲央先輩に島原先輩は駆け寄った。

 追い打ちをかけようとしたのか、やり過ぎたことを反省して介抱しようとしたのかは分からない。


 とっさに俺は島原先輩を羽交い締めにし、暴れる先輩をずっと拘束し続けた。

「孫一くん、それは『裸絞(はだかじ)め』というやつだ。もう落ちている」


 いつの間にか島原先輩は気絶していた。


 オロオロしている俺に玲央先輩は優しく微笑みかけて「守ってくれてありがとう」と囁いたあと、パンッと島原先輩の頬を叩いた。


 ちょうどそのとき、廊下に響いた音に驚いた部員たちが部室になだれ込んできた。

 彼らが見たのは、気絶から回復した島原先輩。


 落ちたときに括約筋(かつやくきん)が緩んだのだろう。

 ズボンの左側は、太ももから足首まで濡れたシミが広がっていた。


「左曲がりか」

 勇三の言葉に、島原先輩が下半身を見る。


 多くの部員が見守る中、島原先輩はズボンを手で隠しながら廊下へ飛び出していった。

「汚した床を掃除していけよ!」


 勇三の声が届いたのか、どうなのか。

 島原先輩は振り返ることなく廊下を曲がり、俺たちの前から消えていった。


 あとで聞いた話だが、翌日と翌々日、島原先輩は学校を休んだ。

 そして二度と、部室に顔を出すことがなかった。


 これが『島原の乱』の前半部分である。

 後半部分は至極単純で、島原先輩目当てで入部した女子たちが少しずつ部室に顔を出さなくなった。


 島原先輩が裏で接触したらしい。

 男子も入っていたが、そちらは直接辞めるよう説得したようである。


 結局玲央先輩と俺、そして勇三の3人以外、だれも部に顔を出さなくなったのだ。


 4月から6月の間にそれが行われ、「幽霊部員を出したくない」と玲央先輩が言うので、3人で手分けして部員たちと話をし、夏休み直前に一通りの退部処理が終了した。


 そして9月から3人でスタートと相成ったわけである。



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