表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第三章 周囲が騒がしいようです
88/99

085 島国の願い

 日置内(ひきない)教授がポーションによって全快したニュースは世界中に広まった。

 もともと本人が高名な物理学者だったこともあるが、末期の病状からの復帰ということが注目されたらしい。


「教授はすでに、親しい人と別れをすませていたようね」

 鬼参(おにまいり)玲央(れお)先輩が、事務所のパソコンを使って、ネットニュースと海外の反応をあさっている。


 どうやら自身でポーションを販売するときのリサーチを兼ねているらしい。

 ネットの反応は上々で、先輩は満足そうだ。


 勇三たちはいま、階下で作業をしてもらっている。

 あと少ししたら、自衛隊のみなさまがダンジョンから帰還する時間となる。そうしたら俺たちがダンジョンに入る番だ。


「どんな病気も完治するポーション……また周囲が騒がしくなりますかね」

「いまさらだろう。それより早くレベル20になりたいぞ。世間をアッと驚かせたいよ、くくく……」


 現在、ダンジョンへ人を送り込むのに、俺たちは祖母の力を借りている。

 俺と玲央先輩、そして勇三の三人がレベル20になれば、祖母の持っている〈ダンジョン生成☆4〉を複製してもらえる。


 そうすれば活動の幅は大きく広がる。

 三人いれば、出張ダンジョンなんてこともできるのだ。やらないけど。


「いまは夏休み中ですし、頑張ってダンジョンに入りましょう」

 レベル20になったあとの本格運用にむけて、いま準備を進めている真っ最中だ。


「ダンジョン一本に集中できないのが辛いところだな」

 先輩はそう言って嘆くが、俺たちはまだ学校すらあるのだ。


 注目された中で登校するのはめんどい。果てしなくめんどい。


「そういえば、俺たちが本拠地にする予定だった立川(たちかわ)の建物ですけど、国が購入したんですよね」

「ああ、すでに改装計画案が出たようだぞ」


 勇三が見つけてきた元パチンコ屋の建物。

 建物は大きく、駐車場は広いので、俺たちの本拠地にする予定だった。


 どうせならと、周辺の土地を買って、周囲一帯を株式会社ダンジョン・ドリームスの土地にしようと思っていたのだ。

 ところが以前、首相がアポなしで現れて、あれよあれよという間に話が転がってしまった。


 改修予定だった元パチンコ屋の建物は、立地がちょうど良いということで、自衛隊と米軍専用のダンジョンにすることが決まった。

 何しろそこは、米軍横田基地と自衛隊立川駐屯地のほぼ中間にあるのだ。


 代替地を提供するからと言われ、俺たち了承した。

 元パチンコ屋は、国の手で改修中。そこが完成する頃には、先輩や勇三だけでなく、五人全員がレベル20を超えると思っている。


「国から用意される予定の場所は、まだ私たちにも秘密らしい」

「そうなんですか? 政治的な思惑でも?」


「周辺の土地を買い占めようとする馬鹿が出たり、工事道路に座り込みをするのを防ぐためかもしれないな」

 玲央先輩の言葉に、俺は首を傾げた。


「どうやら日本にだけダンジョンがあるのが不満らしい」

「諸外国の妨害ですか……」


「情報を錯綜(さくそう)させて、直前まで違う場所へ目を向けさせる可能性も考えていようだぞ」

 つまり、それだけ用心しないと、直接間接的な妨害が予想されるわけだ。


「ついこの前、建物に侵入者が出ましたけど……なかなか一筋縄ではいきそうにないですね」

「だが、そういった妨害をはね除けるのも楽しいものさ」


 先輩はクククと悪役のように笑う。

 もとからこういう人だったので驚きはないが、あとで報復でも考えているのだろうか。


「さて、そろそろ本日のお勤めをしようではないか」

「ダンジョンに入るんですね。……じゃ、下にいる勇三たちと合流しましょう」


 俺たちの目標は、早くレベル20になること。

 いま俺たちはレベル19、できれば夏休み中に20へ到達したいと思う。




 ~夕闇家~


 夕闇家の居間では、 蓮吹流(ハスフィキール)が静かにお茶を飲んでいる。

 その向かいで正座しているのは、英国紳士の装いをしたアーサー。


 アーサーは、首相官邸から辞したばかりである。


「お初にお目にかかります、レディ。日本の魔女たるあなたにお目にかかれて光栄でございます」

「何のことか分からないねえ」


「私は、英国の全権委任大使として参っております。これは女王陛下のみならず、魔法組織『フェアリーリング』からも、すべての決定権を任されております」

 アーサーは恭しく頭を下げた。


 向かいに座る 蓮吹流(ハスフィキール)は、ざらめせんべいを囓りながら「何のことだろうねえ」と韜晦(とうかい)を繰り返す。


 アーサーが話し、 蓮吹流(ハスフィキール)がはぐらかす。

 いくど、その攻防が行われたことだろうか。


「我が国では、あなた様をストレンジレディと呼び、長年にわたって探しておりました」

「…………」


 ぽり、ぽり。


「はじめてあなた様のお姿が映ったのは、二十年以上も前のことでした」


 ずずっ。


「政府は大金を投じ、町の各所に防犯カメラの設置を推進しました」

「……なるほど」


  蓮吹流(ハスフィキール)の持つ〈転移☆7〉は、あまりに使い勝手の良いスキル。

 二十年前といえば、息子はもう働いている。暇を持て余した 蓮吹流(ハスフィキール)は、転移を使って世界中を旅して回った。


 英国にも何度足を運んだことか。

 つい「やらかした」ことも、一度や二度ではない。


 どうやら防犯カメラ……ようは監視カメラにその姿が映っていたようである。

 一般公開して探しているわけではない。


 姿形は分かれども、これまで消息を掴むことは叶わなかった。

 だが、日本にダンジョンができた。


 孫一とその家族を調べるくらいは普通にするだろう。

 どうやらそこで、 蓮吹流(ハスフィキール)の存在を知ったらしかった。


「『フェアリーリング』は、日本の魔女たるあなた様に教えを請いたいと。また、女王陛下は一度、お話したいと申しております。ストレンジレディと仮に呼ばせていただいたことは謝罪いたします。それと、このことは日本政府および他にも決して漏らしません。ですからどうか、女王陛下のご希望を叶えていただけないでしょうか」

 アーサーは正座のまま、深く頭を下げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] アメリカから来たのもアーサーだった気がするんだけど、名前が同じってだけ? それともスパイか何か?
[良い点] 物語が動きだしてワクワクです! 続きが気になる!
[一言] 英国の魔法組織!? 面白くなってきました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ