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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第三章 周囲が騒がしいようです
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082 もう一つの宇宙論的仮説

 今回、侵入しようとした相手を呪禁(じゅごん)法師(ほうし)と仮定する。

 大昔は宮中を守っていたようだが、陽依(ひより)さんいわく、すでに死に絶えた一族だと。


 彼らの所属は分からない。裏に彼らを雇える大きな組織があると思われる。

 問題は彼らの目的だ。


「物盗りではなく、何かを調べに入ったのでござろう」

茂助(もすけ)さん、それはどういうことです?」


「盗みが目的なら、昨晩、強引に済ませてもよかったでござるゆえ」

「……バレてもいいなら、強盗もやむなしですか」


 彼らなら、非常ベルが鳴り響いても、二、三分あれば盗みを働いて撤退できるかもしれない。

 防犯カメラがあろうが、自動通報装置が設置していようがおかまいなし。


 警察がやってくるまでに逃げればいいのだ。

 たしかに盗みが目的なら、それでもいいだろう。


「ねえ、ちょっと思ったのだけど……あなたたちの家に大事なものとか、置いてあるわけ?」

 蓬莱家の人たちは、会社同様、俺たちの家の警備をしてくれている。もちろん、この家もだ。


「重要なものを置いてあるとしたら、俺の家くらいですかね」


 異世界産、ダンジョン産のアイテムは、祖母の部屋と押し入れに、無造作に放り込んである。

 祖母の部屋に置いておけば安心と考えていたが、それも考え直した方がいいかもしれない。


「もっと安全なところへ移した方がいいかもしれないわね。アテはある?」

「大事なものの移動先ですか? あると言えばあるような……ですかね」


 祖母に頼んで異世界においてもらえれば、すべての問題が片付く。

 もっとも、祖母以外に取り出せないのが難点だが。


「じゃあ、そちらはいいとして、問題は侵入者対策のほうね。警備を見直して、明日までに修正しておくわ」

 そう告げると、陽依さんは帰っていってしまった。


「今後のことを考えたら、蓬莱家の人たちのレベルアップを急いだ方がいいかもしれませんね」

「そうでござるな。互角の相手が出てくるとは予想外でござった」


「しかし調べ物か……何を調べようと思ったんですかね」

「心当たりが多すぎて、絞りきれないでござる。黒幕が分かれば、少しは予想がつくでござろうが、現時点では皆目見当もつかないでござる」


 異世界の情報、床に設置した魔法陣、ダンジョンのデータ、異世界人の情報……ダメだ、絞りきれない。

 敵が求めているものが何なのか分かれば、対策の立てようもあるの。


 だが、分からなければ、人やモノ……すべてを警戒するしかない。

「面倒ですね」


 やはり蓬莱家の人のレベルアップを優先した方がいいな。

「それで、今回来てもらったのは、教授へ質問する件でござる」


「追加で質問したいことがあるんですよね」

「そうでござる。孫一氏は、教授どのに『見えない宇宙』について、その観測方法を聞いてほしいでござる」


 明日、俺たちが治療するのは、日置内(ひきない)源一郎(げんいちろう)という高名な物理学者。

 宇宙物理学の権威らしいが、一風変わった研究で有名らしい。


 彼が研究しているのは、この地球上どころか、宇宙のどこを探しても存在しないと言われている反物質(はんぶっしつ)


 ビッグバン……つまり、宇宙創生のとき、どうやら物質と一緒に反物質が同時に生まれたらしい。

 だが、両者の生まれた個数は、ほんの少しだけ物質の方が多かった。


 物質と反物質が互いに対消滅(ついしょうめつ)し、わずかに残った物質によって、この宇宙が造られた……というのが一般的な宇宙開闢における解釈だ。


「なぜ反物質より、物質の方が多かったんでしょうね。普通、同数だけ生まれません?」

 ビッグバン前を『ゼロ』状態とする。


 物質を『正』、反物質を『負』とした場合、ゼロの状態からならば、+10と−10が生まれる方が自然だ。

 なぜ+10と−9のような不均衡が生まれたのだろうか。


「物質を生成するエネルギーと、反物質を生成するエネルギーに差があったと考えられているでござる。それはいいのでござるが、果たして本当に反物質はすべて対消滅で消えたのでござろうか?」


 宇宙が生まれ、わずか0コンマ何秒かの間に反物質がすべて対消滅で消えたのか?

 日置内教授は、そのところが疑問らしい。


 反物質は別の空間……もしくは宇宙に流れ出たのではないのか?

「それが見えない宇宙ですか」


「反物質のみで構成された宇宙があると提唱する物理学者がいるでござるが、教授はその上をいくでござる。多元宇宙論とでも言うでござろうか。ビッグバンはただ一つでござるが、反物質の宇宙があるならば、宇宙はもっとたくさんあると提唱しているでござる」


 そもそもなぜ対消滅という概念が生まれたかというと、ビッグバンにおけるエネルギーからすると、この宇宙に存在する物質の量が明らかに少ないらしい。

 スカスカなのだ。


 なぜそれほど少ないのか。それは、ビッグバンでうまれた多くの物質と反物質が対消滅して消えたからである。

 これまで、それが一般的な認識であった。


 だが今回、俺たちが発表した「異世界」という概念。

 これこそが、教授の提唱している多元宇宙の証明ではなかろうか。


 宇宙に物質が少ない理由。それは、複数の宇宙ができ、物質はそこへ流れてしまったからであると。

 だがそう考えると、同じように生まれた反物質はどこへ行ってしまったのかという問題が残る。


「同じように、反物質もまた、どこかへ流れ出てしまったのでござろうな」

 すべてが対消滅していないのならば、どこかにあるはずである。


 それはどこなのか。

 茂助先輩は、見えない宇宙の観測について、第一人者の意見を聞きたいのだと言った。



本話と次話は説明回っぽくなっています。

分からないところは読み飛ばしても構いません。(本当に)

宇宙物理学とか知っている人は「ああ、そういうことね」と思ってもらえるとうれしいです。(その程度です)

では明日もよろしくです!!

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