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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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008 相談しましょう

「いいじゃん、『ダンジョン商売』。やってみようぜ!」

 家に来た勇三(ゆうぞう)に話したら、真っ先に賛成した。しやがった。


「でも商売だぞ。入場料とって、素人に探索させるわけだろ? 怪我とかするかもしれないし、面倒なことだって多いだろ」


「安全安心のアトラクションとは違うからな。だけど、冬山登山よりかは危険度は少ないんじゃねーの?」


「冬山登山の危険度はよくわからないけど、難易度の低いダンジョンなら、安全に注意すれば死ぬことはないだろうね」


 Aダンジョンなら、レベルさえ上がっていれば、問題ないだろう。

 その先は分からない。俺たちだって、未知の領域なのだ。


「だったら、一般公開しなくてもいいんじゃね? 限られた人だけ……会員制とかにしてさ」

「限られた人だけ……そういう方法もあるか」


 軍人専用とかにしても良さそうだ。なんにせよ、勇三が賛成なのは分かった。

 あとは玲央(れお)先輩がどう判断するかだが……。


「私も考えたことがあるけど、孫一くんから言い出すとは思わなかったわ」


 遅れてやってきた玲央先輩に同じ話をしたら、そんなことを言われた。

 マジで、先輩も考えたことあったのか。


「ダンジョンで商売ですよ。先輩、考えたことあったんですか?」

「そりゃもちろん、一度は考えるでしょ」


 考えるでしょと言われても、俺は考えなかった。

 自分たちが入れるダンジョンがあるとして、それを一般公開しようと思うだろうか。俺はしない。


 ダンジョンは秘密基地と一緒だ。

 俺なら秘匿して、好きなときに好きなだけ使う。それで十分だと思っていた。


 将来、家族や友人に話したり、一緒に探索したりすることはあるだろうが、第三者に公開するかと言われたら、否だ。

 他人のために……管理が面倒だと思ってしまう。


 でも先輩の考えも分かる。

 難しい条件をクリアしてしっかり管理できれば、それはそれでアリだと思う。


「だけどそうすると、レベル上げが急務ね」

「……ああ、そうか。〈ダンジョン生成☆4〉のスキルを伝授してもらわないと駄目ですね」


 商売するのに、祖母の手を患わせるわけにはいかない。


「それと、あと2人は仲間が欲しいわね。それもできるだけ早く」

「それは俺も思いました。ダンジョンの難易度が上がると、探索に行き詰まりそうですよね」


 俺たちはいま、適正人数以下でダンジョンを探索している。

 Aダンジョンは、レベル1からレベル10までの5人が適正らしい。


 Bダンジョンは、レベル11からレベル20までの5人。

 基本は、そのような考えでいいらしいが、取得スキルの関係で適正レベルが上がりも下がりもする。


 Cダンジョンだと、レベル21からレベル30までの5人が適正だが、その5人がバランスのよいスキルを持っていないとキツイらしい。


 Dダンジョンだと尚更だ。そんな状態なのに、最後まで3人で探索できるだろうか。俺は無理だと思う。

 先輩が言うように、残り2人を早めに探したいと思っている。


 だからといって、だれでもいいわけではない。

 秘密を共有し、命を預ける相手になるのだ。慎重に選んでいきたい。


「私たちの戦い方もこれから変わっていくだろう。それに合わせられる者がいいな」

「スキルに武器選択も残っていますしね」


 俺たちは祖母から剣をもらったが、なぜ全員剣なのか、聞いてみた。

「攻撃するなら、なんでもいいのさ」


 と、意外なことを言われた。剣でも槍でも棍でも、好みでいいらしい。ではなぜ、祖母は剣を選んだのか。


「長い探索で疲れることもあるだろ? 怪我をした、腹が減った、喉が渇いた……なんでもいいけど、万全な状態で戦いが始められないこともあるんじゃないかい?」


「そりゃ、あるけど」

「例えばメイスのような鈍器は、力を込めて振り下ろす必要があるんだよ。つまり毎回、予備動作が必要なのさ。少なくとも剣は、構えるだけで刺さる」


「でも刺さっただけじゃ、ダメージは少ないんじゃない?」

「それでも牽制になるんだよ。仲間が隣で襲われているとき、とっさに刺せるのは便利だね」


 つまり攻撃は好みの武器でいいが、俺たちのような初心者の場合、とっさのときを考えると剣の方が対処しやすいらしい。

 たしかに、刺せばダメージを与えられるのだから、鈍器より手軽だろう。


「ということは、戦いに慣れて力がついたら、武器を変えてもいいということですね」

「そうだね。剣が使えていれば、他の武器にするのもいいだろうね」


 全員が同じ武器だと、これからの探索で詰まることもある。

 先輩はそれを見越しているようだ。


 そんな感じで、俺たちは武器の選択すらまだまだ。初心者を脱していない状態なのだ。

 装備と仲間の数は、生存率に直接関わってくる。疎かにできない。


「あと2人の仲間ですか。どうすればいいですかね」

 行列研究部の部員は、俺たち3人のみ。


 かえすがえすも、『島原の乱』が憎い。

 あれで貴重な部員が損なわれたのだ。


 その日は『ダンジョン商売』について話し合ったので、探索は止めにした。

 祖母から休息日を入れた方がいいと言われたので、ちょうど良かった面もある。




 翌日の昼。

 いつものように部室へ向かう途中、見知った人物と出会った。


 かつて『行列研究部』に在籍していた同級生の椎名(しいな)江奈(えな)穂谷(ほや)(あずさ)だ。

 二人とも部の活動には熱心ではなかったものの、それなりに良好な関係を築けていたと思う。


 だが、彼女たちが入部したのは、島原(いさお)が目当て。

 特段『行列研究部』そのものに興味があったわけではない。


 事実、2人とも彼と一緒に、あっさりと部を辞めている。

 さすがにメンバーがほしいといっても、この2人はないな。そんなことを思っていると……。


「夕闇じゃん」

 椎名が俺に気づいた。


「アンタまだあの部にいんの?」

「当たり前だろ」


「辞めちまいなよ、あんな部活」

「逆だろ。戻ってくれば、いいことあるかもしれないぞ」


 島原はどうしようもない先輩だったが、別段、この二人とは敵対していない。

 戻ってくれば、本当に()()()()があるかもしれないのだ。


「なによそれ、チョーウケるんだけど」

「アタシら、戻るわけないじゃん」


 椎名と穂谷がギャハハと笑った。

 もとから真面目よりも、不真面目寄りだったが、それに拍車がかかったようだ。


「なんか変わったな」

 前はもっと普通だったはずだ。というか、進学校でそれだと目立つだろ。


「なに上から目線なの?」

「オニマイリに何か吹き込まれたんじゃね?」


「お前ら、玲央先輩を名字で呼ぶと、怒られるぞ」

 俺は注意したのだが、2人は「マジウケる」と笑ってる。


 やっぱり駄目だな。

 島原先輩と一緒に辞めてから、悪い方に感化されている。


「そもそもあたしら、オニマイリなんか怖くないし」

「島原先輩最強だしぃ」


「そうか。だったらその最強の先輩に伝えておいてくれ」

 そこで俺はもったいつけるように間をおいてから、二人にそっと近づいて言った。


「ズボンを濡らして校内を走り回るのも結構だが、粗相(そそう)をした部室の床は、ちゃんと掃除してくれってな」


「……チィッ!」

「なによ」


「最強なら、漏らした後始末はしっかりしてくれってことだ」

「「ッ!!」」


 二人は「ケッ」と悪態をつきながら離れていった。

 やっちまった感があるが、気にしないことにしよう。


 部室に行くと、勇三がすでに来ていた。

「おう、どうした? なんか疲れた顔してんぞ」


「さっき廊下で椎名と穂谷に会った」

「あいつらか。絡まれたか?」


「少しな。島原先輩の粗相の話をしたら顔を真っ赤にして行ってしまったけどな」


「そりゃ傑作だな」

 勇三が嬉しそうに笑う。


 実際、島原先輩には迷惑をかけられっぱなしだ。

 あのくらい口答えしても、罰は当たらないだろう。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「かえすがえすも、『島原の乱』が憎い。  あれで貴重な部員が損なわれたのだ。」 そんなことで離れていく人間を選別出来て良かったと考えられないのかな。そんなに簡単に離れる人を仲間に入れようと…
[一言] なんか面白い新作がUPされてないかなと思って なろうのランキングを眺めていたら なんと作者さんの作品が日別ローファンタジー部門にランクインしているではありませんか!? これは読まないと! …
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