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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
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074 そして当日

 探索者を受け入れるにあたって、一番問題となったのが、規約の部分だ。


 弁護士と協議し、法的な部分はそれなりにクリアできたと思う。

 細かい部分は弁護士任せ。俺はよく分からない。


 それでも話を聞かなきゃダメということで、理解するまで何度も勉強させられた。


 日本国憲法には、『幸福追求権』というものがあるらしい。

 すべての国民が、個人として幸福を追求する権利を有しているのだという。


「ダンジョンに入りたい!」と思えば、それを追求する権利を有しているわけだ。

 他人が幸福の追求を制限するには、合理的な理由が必要になってくる。


 だれかが私有地に無断で入ろうとした場合、土地所有者はその権利を制限できる合理的な理由を有していることになる。


 逆を言えば、土地所有者の許可があれば、自分の土地でなくても入ってもいい。

 ではそこで何かが起きた場合、どうなるのか。


 土地所有者にはその土地の管理責任がある。

 ならば、土地所有者の責任であろうか?


 たとえば、月極の駐車場で車の盗難がおきたらどうだろう。

 土地所有者が管理責任能力を問われて、盗まれた車を弁償するだろうか。


 そうはならないらしい。

 法律が定める『管理責任能力』とは、土地所有者がその駐車場を滞りなく利用できるよう管理する責任を持つことらしい。


 これはスーパーの駐車場でも同じだ。

 書面の契約書を交わしていなくても、「スーパーの駐車場で車が盗まれました。スーパー側で弁償してください」と言っても、話は通らない。


 細かいことははぶくが、駐車場に瑕疵(かし)や不備がない限り、自分の財産は自分で管理するのが原則のようだ。


 というわけで、株式会社ダンジョンドリームス側としては、ダンジョンを滞りなく使用できる環境と、想定しうる危険を探索者に周知し、武器や防具を装備しない限りダンジョンへ入れないなどの安全対策を採ることで、責任問題を回避できるだろうとのことだった。


 これが、アメリカになると事情は少々違うらしい。

 俗に「救急車の追っかけ」という弁護士業務がある。


 救急車のあとをつけていって、アパートの階段で転んだという老人に「アパートの階段のペンキが剥げていますね。これなら大家から多額の賠償金が取れますよ。ぜひとも私と契約してください」とコマーシャルしているらしい。


 さすが訴訟大国アメリカだ。

 裁判で勝っても負けても弁護士は、弁護士費用を得られるというわけである。


 最近では真っ当な判決がでることも多く、救急車の追っかけは成立しないらしいが。


 日本の場合、山菜を採ろうと無断で入山した者が怪我をし、山の所有者を訴えた事件があった。

 この裁判で、山の所有者に賠償責任はないという判決が出ている。


 山はみんなのものだから、入っていいに決まっている。

 だけど怪我したらそれは山の所有者の責任だ……とはいかなかったようだ。


 ダンジョンで怪我を負ったり、最悪死んでしまうこともあります。

 会社側は最大限安全に配慮しています。


 こちらは責任を取りませんが、それでも行きますか? という内容を書面で送ってある。


 これでダメなら、別の国でやり直せばいいだろう。




 そして迎えた、一般人探索者を迎え入れる日。

 社員はすべて、勇三の会社からレンタルした。


 アルバイトに(はせ)先輩たちも来てくれている。

「それではみなさん、よろしくお願いします」


 本日の流れとしては、こんな感じだ。

 受付を済ませた人は、ステータス棒を握って、自分のステータスを計測する。


 それが終わったら2階にあがり、男女別に分かれた部屋で着替えをする。


 武器防具の確認を終えた組から順に魔法陣部屋に入り、5組が揃ったらスタートする。

 祖母が事務所の中に控えていて……隠れていて、彼らをダンジョンに送り出す。


「若い人が多いね」

 誘導を終えた馳先輩が、そんな感想を漏らした。


「二十代から三十代が多いですね。申し込みだけをみると、三十代、四十代もいるんですけど、数としては二十代と三十代が飛び抜けています」


 ゲーム世代の年齢が上がっているせいか、五十代からの申し込みもそれなりにいた。

 当選はランダムなので、応募者の年代割合がそのまま反映された形だろう。


 外国人は3割程度。

 日本語で日常会話が理解できることが条件になっているので仕方がない。


 着替えを終えた人たちは、みなやる気に満ちた顔をしている。

 もっとも易しいダンジョンに入るわけで、中で拍子抜けしないか心配だが、それはおいおい解消されていくと思う。


 今回当選させたのは、全部で2000人。

 一度探索して、「もう一回入りたい」と思ったときは、次回の予約ができるようになっている。


 そのうち、参加者が減ってくると思うので、そうしたら第二陣の当選者を出す予定である。


「最後にもう一度、武器と防具を確認してください。忘れ物はないですか?」

 全員が頷いた。


「足元を見てください。ちゃんと魔法陣の中に入っていますか? はみ出ていると、自分だけ転送されないなんてことになりますよ」


 探索者の何人かが足元を確認している。大丈夫そうだ。


「準備はいいですね。帰りは、ダンジョンの中にある台座に触れてください。確認画面は出ません。一瞬で転送されますので、試しに触るとかは、止めたほうがいいですよ」


 笑い声が漏れた。

「大丈夫そうですね。それでは、よい探索を」


 俺の言葉とともに、室内にいた25人の探索者が消えた。

 廊下で見ていた人たちから「おおっ!」という声が聞こえる。


「次いきます。並んでいる人たちは、魔法陣の中に入ってください」

 事務室にいる祖母は、監視カメラを通して映像と音声が聞こえている。


 俺が「よい探索を」と言ったら、祖母が〈ダンジョン生成〉のスキルを発動させることになっている。


「それでは、よい探索を」

 これを4回繰り返し、午前中の仕事は終わった。簡単なものだ。


 ダンジョンの中にいられる時間は、最大で6時間。

 台座に触れれば、いつでも帰還できるので、社員とアルバイトの人たちは帰還の魔法陣がある部屋に詰めている。


 戻ってきた探索者たちを誘導するためだ。


「しかしこれで200万円か」

 玲央先輩が、やれやれといった顔をしている。


 1組10万円で値段設定したため、1回のスキル発動で50万円の収入となる。

 午前中は、流れ作業で4回。たったそれだけで200万円だ。


 午後は、自衛隊と米軍がやってくるが、彼らは倍の値段設定にしたため、400万円の収入となる。


「探索者の数を抑えてこれですからね。なんていうか、金銭感覚が狂いそうです」

「規模が大きくなれば問題も増えそうだが……そうだ、勇三くんに見つけてもらった土地と建物だが、購入の目処がついた」


「そうなんですか? 良かったですね」

「周辺の土地もいくつか購入できるので、そのうち契約することになるだろう」


「いいことですよね? なんか、顔色が優れませんけど」

 交渉がうまくいっていないのだろうか?


「逸見首相だが、あれはなかなかのやり手だぞ」

「はい?」


 なぜここで、首相の名前がでてくる?


「すでに嗅ぎつけていて……内々に提案してきた」

「提案? なにをです?」


「場所は、自衛隊の立川駐屯地と横田飛行場の中間くらいなんだ。都合がいいということで、米軍と自衛隊が共同で購入するから、そこを専用で使わせてほしいと言ってきた」


「専用って……ん?」

「他に広い用地を用意すると言うことだ」


「ええっと……つまり、勇三が見つけてきた場所は、自衛隊と米軍がダンジョン探索として専有して、俺たちが本来使おうと思っていたものには、別の場所を用意するってことですか?」


 玲央先輩は頷いた。


「即答はしていないが、連中は本気のようだ。とくに米軍の腰の入れようがすごい。おそらく、米軍と自衛隊で相当な量の会議を(こな)している。交渉は一本化され、双方の妥協点がすでにあった」


「……とりあえず、俺たちで話し合わないとですね」

 なんかまた、面倒くさいことになってきた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >日本語で日常会話が理解できることが条件 規約が読めなくてもいいということになりませんか? 全部読み上げたとしても、日常会話より難解な言葉を 理解できなければ、規約の意味がないでしょ…
[良い点] 転がってきた [一言] ありがとうございます
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