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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
74/99

071 選考結果

 本日、探索者の選定が終了した……といっても、何のことはない。


 申し込みがあった順番に番号が割り振られるので、ランダムに番号を抜き出しただけだ。


「当選者の重複はないみたいですし、これで決定ですね」

「ああ、予備も含めて、当分はこれでいいだろう」


 会社にはいま、俺と玲央先輩しかいない。

 茂助先輩に選考をやってもらおうとしたら、「それは拙者の領分ではないでござる」と断られてしまった。


「それじゃ、当選者のリストを茂助先輩に送っておきます」

「ああ、そうしてくれ。……一般人は、1日20組だったよな」


「そうです。1度に5組ずつダンジョンに入れますので、魔法陣は4回転です」


 玲央先輩は「混乱がなければいいが……いやあった方が後のためにいいのか?」と悩んでいる。


 一般人は、午前11時からダンジョンに入ってもらう。

 受付は午前9時からにしてあるので、俺たちはそれより前に集合することになる。


「勇三のところから社員が応援に来てくれるそうですし、リハーサルも済んでいるので、いまのところ大きな混乱はないと考えていますけど……まだ心配ですか?」


「物事はいつだって想定外のことがおこるものだ。夏休みということで、関係ない人たちが大勢集まるとかな」


「あー……どうなんでしょうね」

 午後は自衛隊と米軍がダンジョンに入ることになっている。それぞれ50人ずつだ。


 13時開始と伝えてあるが、こちらも受付は2時間前から可能になっている。

 もっとも彼らは、俺たちが受付するまでもなく、キッチリ人数を揃えてくるそうだ。


 一般の探索者……つまり今回当選した人には、ダンジョンカードと同意書を郵送する。

 当日、その二つを持参しない限り、ダンジョンには入れないので、しっかり管理してほしいものだ。


「ネットでは、もっと枠を増やせと言ってるみたいですね」


「そうなのか? たしかに1日100人は少ないが、こちらも初めてだし、そこは我慢してもらうしかあるまい」


 今回の選考結果が送付されたら、またインターネット上では、阿鼻叫喚の声がそこかしこであがることだろう。


「俺たちのレベル上げも、頑張らないとですね」

「もうすぐレベル19……長かったな」


「牟呂さんや東海林さんが加わって、俺たちのレベル上げペースも緩やかになりましたしね」


「そうだな……商売(こっち)にも時間を取られたしな。集中してレベル上げしたかったのだが」


「これからは商売の方も頑張らないといけないですしね」

 いろいろあって、レベル20には届かなかった。残念だ。


 数日のうちには、郵送したものが各家庭に届く。

 そっちの反応は、いまから楽しみだ。




 ――『マッスル友の会』静岡支部


「やった! 選考に通ったぞ!」

 筋肉ムキムキの男が、両手を天に突き出した。


「やりましたね、アニキ!」

「ああ、俺たちもこれでダンジョン探索者だ」


 4人の浅黒い肌をした男たちが円陣を組んで、『アニキ』と呼ばれた男性を称えている。

 彼らには角刈り、テカテカとした肌、真っ白な歯という共通点がある。


「日頃鍛えた筋肉を活かすときが来たのだ」

「やりましょう、アニキ!」


「そこらの軟弱な者どもに、オレたちの筋肉を見せてやりましょう!」

「ああ、俺たち筋肉の船出だ。黒船となって、ダンジョン界に殴り込みをかけるぞ!」


「「「オーッ!!」」」

 5人はめいめい得意なポージングをはじめた。




 ――『紫堂(しどう)流剣術道場 育錬(いくれん)館』


総帥(そうすい)、当たったのは1名ですか」

「残念なことにな」


「育錬館七十余名で申し込んでもですか」

「5人1組の応募だからな。15組申し込んだが、当たったのは葉錐(はきり)のところのみだった」


 その場にいた者の視線が、葉錐に注がれる。

 葉錐はゆっくりと頷いた。


「メンバー変更は不可能……ということは」

「うむ。我が紫堂流からは、葉錐たちを出すしかあるまい」


「ダンジョンは複数の難易度があるようですが、希望すれば高難易度に挑戦できるのでしょうか」


「今回……と言えばいいのかな。それは無理だそうだ。生命の危険がもっとも少ないところのみらしい」


「それはやや、肩透かしですな」


「今後に期待しよう。有事に備え、剣を磨いてきたのは無駄ではなかった。いまはそれを喜ぼう」


「しかし……時代が変わりましたな」


「そうだ。もしダンジョンがもっと身近になれば、剣で身を立てることも不可能ではない。それこそ、戦国の世に戻ったかのような、剣一本で成り上がることも夢ではないということだ」


「なればこそ、このチャンス、無駄にできません」


「その通り。相手を出し抜こうとして、小細工をする必要もあるまい。まず葉錐たちで十分情報を集めようではないか。これが飛翔のはじまりだ!」


 総帥がそう告げると、門下生たちが一様に頷いた。




 ――祓魔(ふつま)一族


「全員、外れたらしい」

隠岐(おき)繧繝(うんげん)の言葉に、隠岐霧子(きりこ)が頷いた。


「それはまた、狒々(ひひ)爺が口角泡を飛ばしたでしょうね」

緋罪(ひざい)殿な。……実際、飛ばしていたぞ。みな(たもと)で顔を隠してたわ」


 その様子が想像できるのか、霧子はプッと吹き出した。

「ながらく祓魔一族の舵取りを任せてきたけど……そろそろ隠居時では?」


「そういう意見もある。舵を切る者は、手元を見ても意味はない。海原の先を見据えて手を動かすものだ」


 車の運転もそうだが、重要なのは道路状況によってハンドルを適切に切ることで、ハンドルを見ることではない。


「狒々爺は、歳をとって近眼(ちかめ)になっていますよね。最近の指示を見ても、そう思うし」


「かといってなぁ……まあ、選考に外れたのは運だ。それで責任を取らせるわけにもいくまい」

 ゆえにどうしようもないのだと、繧繝は言った。


「私は未成年だから関係ないですけどね」

「そういうな。俺たちはみな初代様の血を引いた仲間だ。関係ないなんて、言わないでくれ」


「だからできること……監視任務だって、しているでしょう?」

 霧子は高校生という身分ゆえに、商店街をふらついても、あまり目立たない。


 株式会社ダンジョンドリームスの監視をはじめたが、なぜかまだ右腕少女の監視は継続中だ。


「他の連中じゃ個性ありすぎて、そもそも不可能だろう。危なくて町に出せないのもいるぞ」


 霧子は「まあ、それはたしかに」と納得するも、だからといって、すすんでやりたいわけではない。


「それで私たちの今後は……?」

「これまで通りだ」


「………………はぁ」

 霧子は盛大なため息をついた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 一般人はともかく、日米軍のおそらく精鋭連れてくるだろうけど、いきなり芋虫は楽勝過ぎるだろうな。 そして魔石が稀にしか出ない事実を知るw
[一言] 祓魔一族かわいちょ。 この小説でもマッチョーズが!!ゲーム異世界転生「ダン活」参照w
[一言] 祓魔一族もコンタクト取って情報交換したら特別枠あったかも?
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