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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
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069 パフォーマンス(1)

 探索者募集は現在も続いている。

 抽選までの間に、ポーションの効果を全世界に知らしめるパフォーマンスを行うことにした。


「本当にすまない」

 玲央(れお)先輩がうなだれている。


「いえ、かえって良かったと思いますよ。メリットもありますし」

「本当にすまない」


 玲央先輩は、悄然(しょうぜん)としている。

 一体、何がおこったのか。そもそも玲央先輩は、何に対して謝っているのか。


 実は、株式会社ダンジョンドリームスの代表取締役……つまり社長は、鬼参(おにまいり)玲央先輩。


 俺や勇三では、(まっと)うできない役職だ。

 そしてここで、玲央先輩の実家が問題になってくる。


 ――鬼参総合病院


 玲央先輩は、そこの長女。

 当然、名前の関連性と会社の所在地、玲央先輩の出身校から予想をつけた者が大勢いた。


 難病を抱えた人は、当然のごとく鬼参総合病院の院長――つまり、玲央先輩の父親を頼る。

 玲央先輩の父親は安請け合いし、それが話題となり、人がさらに殺到する。


 玲央先輩が知ったときにはもう、どうしようもない状態となっていた。

 そこで浮上したのが、ポーションのパフォーマンスをする案。


 はっきり言って、いまの段階では、どれほどポーションの効き目が確かでも、薬として認可は受けられない。

 効能を記すことができないのだ。



 Q.このポーションを飲んだら、欠損した四肢が生えてきますと宣伝した場合、どうなるか?


 A.捕まる



 悲しいかな。これが現実なのである。

 嘆いていても仕方ないので、いまのうちに少しでも外堀を埋めてしまおうと考えたのである。


 中身の成分が不明でも、効果が確かならば、効能をうたっても問題ないような許可が得られればいい。

 それを目標として、パフォーマンスを行うことにした。


 同時に、ダンジョンに入ると、こういったものが手に入るんですよと世間に知らしめる意味もある。


 加えて、いまだ信じていない人たちが反対運動を起こしそうな勢いなので、そういった勢力を黙らせたいという思いもある。


 つまり、どこかでこのパフォーマンスは行う必要があったのだ。


「最低限、患者はこちらで選ぶことに同意させたから」

 院長に任せると、金を積み上げた人を優先しかねないらしい。


「一応これは、治療活動ではありませんからね。お金も取りませんし」

 そうやってポーションを飲ませないと、こっちが捕まる可能性があるのだ。


 薬事法は本来、薬というものを正しく扱うための法律だが、ことダンジョン関連では、足を引っ張る要因となっている。


「今後は軽はずみなことをしないと、誓約書を書かせたから」

 間に弁護士を入れて、本格的な書類を取り交わしたらしい。親子で、なにやってるんだか。


 ちなみにそれらのポーションは祖母が用意する。

 祖母に話をしたところ「どんどんやっちゃいなさい」と尻を叩くほどだった。なぜだ?


 それでも鬼参総合病院から大量の金品を受け取ったので、やらざるを得ない。

 もっとも、これはパフォーマンスの一貫なので、もらった金品はすべて祖母に渡してある。


 異世界でポーションを買うのに、少々面倒な手間をかけて換金したらしい。


「怪我と病気を治すポーションを5本ずつ用意してもらいましたけど」

「十分だ。まず、怪我の方だが、事故で両足を切断した少女を治す」


 これらは動画で撮影し、証拠映像としてDoTubeにアップする。

 少女の顔にはモザイクをかけるが、場所が鬼参総合病院で、院長がアレなので、マスコミには情報が漏れると思っている。


 少女の両親に聞いたところ「それで足が生えてくるのに、何の問題がありますか」と言われた。

 こちらも後日揉めないために、覚え書きを取り交わしてある。


「ではいきます」

 俺たちの顔はもうモザイクをかけていない。


 俺は『癒しの超水』を少女に渡した。東海林さんに飲ませたのと同じものだ。

「ゆっくり飲んでね」


 味は甘みのない牛乳みたいなものだろうか。あまり美味しいものではないが、苦いとか、(から)いわけでもないので、少女でも普通に飲むことができる。


 少女がポーションを飲み終わると、全身が光り輝き、その後、失われた両足へ光が収束していく。

 光の明滅が数十秒続いたあと、ゆっくりと消えていった。


 光が消えたあとには、真っ白な両足が残っていた。

美華(みか)……」


 父親が涙ぐんでいる。

「おかあさん……足が……足が……あるよ」


「そうね、美華。よかったね、よかったね」

 お母さんは号泣している。


 何度見ても不思議だが、少女の足は元通り。

 現代医学では不可能な現象だ。


 今回のポーションパフォーマンスは、様々な思惑が入り混じった打算的なものである。

 発端は、鬼参総合病院の名を上げるため、院長が勝手に約束したもの。


 今回のポーション代だって、ここの病院が支払っている。病院の完全な持ち出しだ。

 だが、院長――玲央先輩のお父さんの顔はホクホク。


 ポーション代は、1本1000万円を吹っかけた……のだが、普通に了承された。

 1000万だよ? こっちは吹っかけすぎたと思っているのだが。


 ただ、これだけ世間に有名になると、税金の問題もある。

 領収書を切った方がいいとアドバイスを受け、弁護士と税理士と相談した結果、急遽、総額で1000万円に変更した。


 治療代としては貰えないので、雑収入扱いになるようだ。

 贈与税とか、そんな感じだろうか。


 ちなみにこれらは、祖母が異世界で買い込んだものだが、どうやら経費計上できないらしい。


 いや、税務署がちゃんとその存在を確認できれば、どこで買い物しても経費として扱うことができるが、異世界は流石に難しい。


「ウルトラ○ンの故郷で買い物しましたとか、○ンギン村で買ってきたものですと言われても、税務署は認めないと思うのです」

 弁護士にそう言われた。


 別にM7○星雲とか、ア○レちゃんの世界で買ってきたとしても、実物があればいいのではと思ったが、そうもいかないらしい。


 そういうわけで、とてつもない税金が発生すると言われたので、急遽大幅にディスカウントすることになったわけである。


 今回用意したポーションは、怪我と病気を治すものをそれぞれ5本ずつで、総額1000万円。

 ほかに病院が保存している(でも消費期限が迫っている)災害備蓄品で手を打った。


 災害備蓄品……ようは保存食だが、どうやら異世界で戦争がおきているらしく、大量の難民が出たらしい。

 このままだと餓死者すら出るかもしれないという。


「人が少なくなるとね、魔物を倒す人間も減るんだよ。……まあ、偽善だね」と祖母は笑っていた。


 鬼参総合病院では、医師や職員と入院患者、近所から避難してきた人たち分、一週間程度の食料が備蓄してある。


 今回、その中の一部をもらったわけだが、それだけでも10万食分もあった。


 最前線近くの町だと、明日の食べるものに事欠く住民が、全体の10~15%ほどあるらしいので、これがあるとかなり助かるとか。


「おばあちゃん、何か悪いこと考えていない?」

 玲央先輩が悪巧みしているときと同じ目をしている。


「いやいや、こんな老い先短い老人に何を言ってるんだい」

 祖母は首を左右に振った。


 老い先短いって……あと何年生きるつもりだっけ?



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― 新着の感想 ―
[一言] 玲央先輩が押し切られた形で親の病院の患者を受け持って再生治療させてますけど、病院側にはメリットしかないわけでなんかイラっと来ますね。 それとまだ主人公たちも再生レベルのポーションを何百も持…
[良い点] >ウルトラ○ンの故郷や○ンギン村云々 笑った。 [一言] 税務署職員だと「住所はどこだ?」とか言って、実際に行っても納得しなさそうですね。
[良い点] 1本1000万円にしようと思ったけど税金問題でややこしくなるから 各5本(つまり10本)総額1000万円にする。という9割引きの理由が税金問題
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