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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
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【異世界閑話03】思わぬ拾い物(※夕闇 蓮吹流)

 夕闇(ゆうやみ)蓮吹流ことハスフィキールは、タージェス共和国のとある町に転移した。

 過去、何度も訪れたことのある町である。


 目的の店まで来ると、ハスフィキールは「店長はいるかい」と、軽い調子で奥まで入っていく。


「なんだ、また来たのか」

「ほいよ。これでまた防具を少し融通してくれんかね」


「この前、大量にやっただろ……おお、砂糖か。こいつは高く売れるんだよな」

「死体から引っ剥がしたのでいいんだ。あと30。できれば50くらいあるといいねえ」


 ハスフィキールは先日、ここで日本から持ち込んだ品物と、使用済みの革鎧を交換していた。


 本日持ち込んだのは、精製済みの真っ白な砂糖。砂糖は大陸の南端でしか採れないため、どこでも高額で取り引きされる。


 真っ白に精製したものなど、なかなかお目にかかれるものではないのだ。

「それがなあ、あまり手に入らんのだよ」


「ありゃま……もしかして、戦争が激化したかい?」

「そのまさかだ。全面戦争になりつつある」


「まあ、近い近いって話は聞いていたが……困ったねえ」

「生産系のスキルオーブが、天井知らずだ」


 この世界では、男性も女性も魔物を倒さねば、安心して生活できない。

 みな戦えるのである。


 その中でも、若い男性は兵士として有用。簡単に徴兵されてしまう。


 ただし、生産系のスキルを持っていれば話は別で、貴重な生産スキル持ちを兵士として消耗させるのは国家の損失と考えるらしく、徴兵を免れることが多い。


「その分じゃ、戦闘スキルもかい?」

「ああ、戦闘系のスキルオーブも上昇傾向にあるな」


 戦闘スキルを持っている者は、戦場でも生き延びる確率が高くなる。

 戦争が激化すれば、これもまた値上がりは必至である。


 もちろん、戦闘スキルを持っていれば、激戦地へ送られることもあるが。


「しかしこの国も、それに帝国も『負の連鎖』のことは、お構いなしかい」

「だろうなあ。国がなくなるとあっては、先のことなんか考えてられないだろうぜ」


「そのせいで何度も文明が崩壊しているんだけどねぇ」

「オレに言われても困る。……それで防具だったな。あと10は揃うけど、それ以上はちょっと待ってもらうぞ」


「……はあ、仕方ないねえ」

「それより、そんな安物の古防具なんざ集めてどうしようってんだ? 強力な魔物相手じゃ、通用しないだろ」


「いろいろ使い道があるんだよ。しかし困ったね……貯金を取り崩すかねえ」

 ハスフィキールは昔から、日本のものをこっちへ持ってきては、高値で売っていた。


 足がつかないようにいくつかの町で少量ずつ。

 とくに南方からしか入らない香辛料や砂糖は高値で売れた。


 それらで得たお金はすべて、夫であるフエノアギスに渡してある。

 息子を日本で産んでしまった贖罪の意味もあったが、万一のときに必要だと考え、貯めておいたのである。


「まあ、ウチのモンがいま戦場に行ってる。どれだけ持ち帰れるか分からんが、あと10日もしないうちに戻って来るだろう。そのときまた顔を出してくれ」


「そうかい。それじゃ、10日後くらいに来ようかね」

 ハスフィキールは店を出てしばらく歩く。


 ダンジョンに多くの一般人を入れるのはいいが、武器や防具が足らない。

 武器はまだなんとかなるだろう。問題は防具だ。


 革装備を日本で揃えようと思ったら、一着数万円はする。

 それなりの性能をもたせるならば、10万以上はかかるだろう。


 それでは数を揃えられない。

「……ちとばかし、戦場を見に行ってくるかね」


 戦場は日々移動しているだろうが、両国の国境線で戦っているのは間違いない。

 そこならば、ハスフィキールでも行ったことがある。


 そもそもヤンガス帝国へは、何度も足を運んだのだ。もちろん転移でだが。

「さて、どのあたりがいいかね……とりあえずは国境の町にしようか」


 ハスフィキールは、行ったことのある町を思い浮かべ、〈転移〉で跳んだ。




「名前は忘れたし、見覚えがある町だけど……ずいぶんとまあ、面変わりしたもんだねえ。ちょいと、あんた」

「なんだい、ばあさん」


「あたしはここに来たばっかなんだけど、この町はどうなってるんだい?」


「見ての通りだよ。一度帝国の手に落ちて、この前取り返したばかりじゃないか。ほらみてみな。飛空盤(ひくうばん)が翔び立っていくだろ。いまから、帝国の陣地を攻めに向かうんだよ」


「へえ……あれは前に見たことあったけど、ずいぶんとたくさんあるんだねえ」

「最近じゃ、魔道具師を優遇して、結構な数を揃えたんだよ」


「なるほどねえ」

 取手がついた数人乗りの円盤が二十ほど、町から翔び立っていった。


 あの飛空盤は、戦闘以外にも重宝されるものの、昔から数が少なかった。

 それなりに優秀な魔道具師とそれなりに大きな魔石を使う必要があるため、戦場で失うと、大きな痛手となるのだ。


「どれ、あれの向かった先へいってみようかね」


 町は占領と再占領を繰り返したせいで埃っぽく、現代日本で暮らしているハスフィキールにとって、あまり長居したくない場所となっていた。


 うんしょと、人気のない場所まで移動し、記憶を頼りに、飛空盤が向かった先を予測する。

「谷間を進んで、相手陣地の裏に回るつもりかね」


 徒歩ならば時間のかかる行程も、空からゆけばすぐに着く。

 ハスフィキールは、〈転移〉で先回りすることにした。


 案の定、ハスフィキールが待っていると、そこで戦闘が発生した。

 空から奇襲したことで、挟撃が成功したようだ。


 浮き足立った帝国軍を背後から攻め立てる共和国軍。

 だが、帝国軍とて負けてはいない。とくに、長年戦場に身を置いてきた兵士たちは、すぐに組織的な反撃にうつった。


 犠牲をものともせず、背後から遅い来る飛空盤の兵士を迎撃にかかったのだ。

 結果、挟撃作戦は成功したものの、飛空盤の半数は落とされることとなった。


「……これ、ひとつもらっても構わないだろうね」

 地上に落下した飛空盤のほとんどは壊れてしまったが、ハスフィキールが見つけた一つだけは、魔法陣の部分が生きていた。


 ひび割れ程度ならば、魔道具修復師に持ち込めば直すことができるが、大破してしまえばそれも不可能。

 ハスフィキールが見つけたのは、ひび割れ一つなく無事な魔法陣。


「魔石は駄目になっているが、それは仕方ないね。魔法陣だけでも持って帰るとするかねえ」

 お盆よりも一回りほど大きなそれを抱え、ハスフィキールは〈転移〉で日本に帰った。


「この魔石穴の大きさからいって……☆4ダンジョン産の魔石のようだね。あの子たちにはまだ早いか」


 いまだ☆2……Bダンジョンにしか行けていない孫一たちを思い浮かべ、ハスフィキールは魔法陣をいつもの倉庫に放り込んだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] サバゲー用とかバイク用とかアメフトのやつとか持参ありそう。 スーツアーマー来てきてスタミナ切れで動けないとか。
[一言] UFO!確認できてるけどUFO!
[一言] アメリカの持っている魔道具ですかね。 自分の世界を救うために、異世界でダンジョンを広げようとしている感じですが、息子や孫に説明しないのかな? 異世界を救うため、とか理由付けしたらダンジョンも…
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