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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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007 ダンジョン商売

 祖母は、息子にもスキルを受け継いでもらいたかったようだ。

 だが性格的なアレで、父は断固拒否。


 父は異世界人であることを捨て、日本人として生きることを選んでいる。

 異世界のことは、東照宮(とうしょうぐう)の三猿なみに拒絶しているのだという。


 父はやはり相当頑固なのだと思う。

 結果、孫の俺にお鉢が回ってきたわけだが、ダンジョン探索と通常の学生生活では、何もかもが違う。


 これまでの常識と経験がダンジョンの中で活かせるとは思えない。

 一つずつ学びながら探索することになるだろう。


 一応、このまま高校や大学に通いながら、ゆっくりレベル上げをすればいいかと考えていたが、先輩や勇三の事情もある。

 とくに二人とも、家庭内は結構複雑で、そうそう都合良く物事が運ぶか分からなくなってきた。


「玲央せんぱいの話を聞いて、オレも将来のことを少し考えたんだよ」

 いつになく勇三が、真面目な顔をしている。


「お前の将来というと……ベーシストの道をまた目指すのか?」

「ちげーよ!」


 勇三はかつて、早世したベーシストをリスペクトして、腰に鎖と南京錠をぶら下げていた。

 中学生の頃だったので、よくある病気と思って放っておいたら、いつのまにか治っていた。


「ベーシストじゃないなら、なんだよ」

「べーシストはもう、忘れろよ。……オレもせんぱいと同じように、高校を卒業したら、家を出る予定なんだ」


 前にも聞いた話だ。


 二十年ほど前のことである。

 座倉(ざくら)一族が開いた大規模なパーティで、勇三の母親はパーティコンパニオンとして参加していた。


 どういう経緯か分からないが、そこで彼女は、座倉源蔵(げんぞう)と親しくなった。

 源蔵は結婚しており、すでに子供が二人いた。


 一方の彼女はまだ未成年で、源蔵ともひとまわり歳が離れていたという。

 当時二人の間に、ラブやロマンスがあったは定かでない。


 数年後、同じようなパーティで、源蔵はやつれ果てた彼女と再会する。

 彼女は結婚してすぐ、夫を病で失っていたのだ。


 夜勤の多い昼夜逆転の生活が祟ったのか、彼女の夫は帰宅途中の路上で倒れ、そのまま帰らぬ人となったという。


 ただでさえ物入りの新婚生活。

 そして彼女は、亡くなった夫の子を腹に宿していた。


 これからの生活を考えると、稼げるときに稼がなくてはならない。

 身重となって動けなくなる前にと、彼女は昼夜を問わず働いていたらしい。


 事情を知った源蔵はすべてを受け入れて、彼女を後妻として迎え入れた。

 やはり同じ頃、源蔵もまた妻を病で亡くしていたのだ。


 勇三がそのことを知ったのは、心ない一族の者が告げ口したからである。

 それ以後、勇三は自身の去就を本気で考えるようになる。


「家を出る決意は変わらないのか?」

「ああ……そのつもりだ」


 座倉一族の内部は、利権が絡み合っていて一筋縄にはいかない。

 勇三がそこに身を置くことは、自分にも一族のためにもならないと考えたのだろう。


「先輩に次いでお前もか。これは早急におばあちゃんに話してみた方がいいかもな」


 いくら先輩後輩、友人同士とはいえ、数年にわたって同じ環境に身をおき、将来にも関わることだ。

 後回しになどできない。




「……というわけなんだけど、どうしたらいいと思う?」

 帰宅してすぐ祖母に相談した。


 二人の場合、時間をかけながらゆっくりレベル上げというわけにはいかない。

 遊びで、ダンジョンにばかりかまけていられないのだ。


「そうだねえ……だったら、あっちの世界にあるように、『ダンジョン商売』をはじめてみるのはどうかね」


「ダンジョン商売? なにそれ?」

 ダンジョンで素材を集めるのとは違いそうだが。


「異世界ではね、町の外に魔物がわんさかいるのよ」

「前に聞いたよ」


「強いのも弱いのも一緒くたに出るから、隣町へ行くのも命がけだろう? 少しでも生存率をあげるため、みんなスキルで造ったダンジョンに入るのよ」


「スキルなら、ダンジョンに出てくる魔物の強さを選べるから?」


「そう。ポーションやその素材、スキルオーブだって出るしね。あんたいまスキルなしのレベル4でしょ。これがスキル2つ持ったレベル10だったら、隣町へ行くにも少しは安心できるでしょ?」


「ダンジョンでレベル上げしたらな、戦う経験もそれなりにあるだろうし」


「だから、各町や村には〈ダンジョン生成〉のスキルを持つ人がいて、お金を受け取って、その場でダンジョンを造るわけよ」


「ダンジョンの入場料で生活するわけか」


「そうだね。小さな村だって、独立して生きていくには最低でも数十人、ふつうは二百人くらいいるわけ。村に一人も〈ダンジョン生成〉スキルを持つ人がいないと、どこからともなくやってきて商売を始めるのさ」


 都市や町に定住して店を構えるダンジョン生成職人もいれば、定住せずに数年ごとに村を回るダンジョン生成職人もいるらしい。


 祖母いわく、生成されたダンジョンならば、素材採取も簡単にできるし、スキルオーブを得て一攫千金を狙う人もいて、それなりに需要があるらしい。


「つまりおばあちゃんは、日本で『ダンジョン商売』をすればいいと?」


「そういうやり方もあるんじゃないかと思うわね。ほらっ、魔石だっていちいち異世界に売りに行かなくても、どっかでだれかが高く買い取ってくれそうだし」


「たしかに……だけど、大事(おおごと)になるんじゃないの?」


 俺としては、密かにスキルを継承して、成人後は趣味としてコツコツダンジョン探索をしようと思っていたのだが。


「まあ、商売するかしないかは好きでいいと思うけど、一度お友だちに話してみたら?」

「そうだね」


 ダンジョンを探索するのではなくて、探索そのものを商売にする。

 たしかに需要はありそうな気もするが、危険もあるし、どうなんだろう。できるのだろうか。


 そのとき俺は、そう思っていた。



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