066 5人の仲間
自衛隊と米軍の双方を受け入れることになった。
協調路線を歩んでいないところを玲央先輩は不思議がっていた。
「強くなりたいのではなく……魔石が狙いか?」
総理の話と米軍の対応を見て、そんな予想を立てていた。
それがどう影響するか分からないが、玲央先輩は「まあ、盾になってくれそうだし、いいか」と悪い顔をしていた。
他国への牽制には使えるだろうとのこと。
会社のウェブサイトだが、ようやくサーバーも安定し、最近は普通に閲覧することができるようになっている。
サーバーはレンタルで運用しているが、サーバーの提供会社から何度か怒られている。
アクセス集中しすぎらしい。
「今回は送信フォームを使うだけなので、問題ないでござろう。それより、自衛隊と米軍の参加でござるか。面倒なことになったでござるな」
「毎日百人を予定してましたけど、半分を自衛隊と米軍に充てますか?」
1度に25人がダンジョンに入れる。5人ずつ5つの魔法陣から入るのだ。
1日4回転を考えていたので、その半分を自衛隊と米軍に当てると、一般人は毎日50人しか入れない。
「とても応募者をさばくことはできないでござるな」
「ですよね」
どれほど多くしても、需要を満たすことはできないのだが、あまりに少ないと、ヘイトを集めてしまう。
「どうやらダンジョンは、一攫千金の場と思っているようでござるな」
「魔石やポーションは、それを得た人のものですからね」
いまならさぞかし、高値で売れることだろう。
「祖母殿はなんと言っているでござるか?」
「人数が増えるのは別に構わないって言ってます。それより早く俺たちのレベル上げろと言われてます」
「レベル上げでござるか。予定はどんな感じでござる?」
「学校は出席停止中ですので、思ったより順調ですね。この分だと、祖母の助けを借りなくても大丈夫かもしれないです」
現在レベル18。レベル20になれば、〈ダンジョン生成〉スキルが使える。
そうなれば、祖母に来てもらう必要はなくなる。
「なるほど……なら当初の倍。一般人はそのままで、自衛隊と米軍を50人ずつ毎日受け入れるのはどうでござろうか」
「全部で200人ですか。まあ、本番ではもっと多くなるでしょうし、いまはその予行演習です。駄目なところが見つかっても、その洗い出しができると考えればいいのかもしれませんけど」
「世論を味方につける意味でも、あまり数を減らさない方がよいでござる」
実はマスコミの取材攻勢が激しさを増している。
対応しきれないので、取材申し込みを受けてもすべてお断りしているが、メディアでは最近、批判的な論調が増えてきている。
「隠していることが多すぎないか」
「危険ではないのか?」
「なぜメディアの前に出てきて、しっかり説明責任を果たそうとしないのか」
などだ。
これに対抗するため、DoTuberの人たちを何人か、コラボと称して、ダンジョン探索を体験してもらう予定でいる。
ブラックキャップさんをはじめ、これまで協力してくれた人たちも「もう一度、入りたい」と言ってくれているので、定期的に開催するつもりだ。
ただいまは、準備に大忙しなので、一般探索者、軍関係者と別で配信者枠をつくろうと思っている。
そして東海林さんだが、正式に俺たちと一緒に探索することになった。
「先輩、よろしくお願いします」
「うん。はじめは見ているだけだけど、レベルが上がったら、ガンガン戦ってもらうからね」
「任せてください!」
牟呂さんと東海林さんは、B1ダンジョンからのスタートだ。
俺たちと一緒に探索するのだが、しばらくは雰囲気を掴んでもらうことになりそうだ。
そんなこんなで日が過ぎ、いまだレベルは18から上がらないが、東海林さんたちのレベルが5になった。
「これがスキル伝授……」
はれて二人とも、祖母からスキルを伝授してもらい、正真正銘、俺達の仲間になった。
「応募も受付を開始したので、これから忙しくなるでござる」
社員を雇い、さあこれからだというときになって、学校から連絡が来た。
いわく、校門前にいたマスコミもほぼいなくなったので、登校して構わないというのだ。
「登校って、すぐ試験じゃねーか」
勇三は嘆いているが、家庭学習は欠かしていないので、赤点を取ることはないだろう。
「それより、クラスメイトの反応がね。どうなることやら」
面倒事は多々ある。
それでも残り少ない学生生活だ。悔いのないようにしたい。
「おばあちゃん、落人って言葉、知ってる?」
「知らないねえ。大昔、戦で負けて逃げ出した人をそう呼んだんだっけ?」
「落ち武者のことかな? そうじゃなくて、異世界からこっちへ来た人のことをそう呼んでいるらしいんだけど」
過去、何人かの異世界人が、この世界にやってきていた。
政府は彼らのことを落人と呼んでいる。そんな話をしてみた。
「なるほどねえ。そういうことがあっても、おかしくないかもねえ」
すべての話を聞き終えた祖母は、ある種感慨深げにそう言った。
祖母がまだ若い頃、牟呂昇という人と出会った。
彼は太平洋戦争で瀕死の重傷を負い、祖母のいた世界に忽然と現れたのだ。
運良く生きながらえたが、そのまま死んでもおかしくなかったという。
つまり、他にも似たような人がいたって、不思議ではない。
茂助先輩も同じような話をしていた。
山中に現れた人の話だが、共通しているのは、大怪我をしていたこと。
生死の境を彷徨っているうちに世界の壁を越えるのか、三途の川を渡っているうちに流れてしまったのか分からないが、ごく稀ではあるものの、そういった事例が過去にあったのは事実だろう。
「すると平安時代のあれも……世界中に散らばる伝承のうち……ふむ」
「おばあちゃん?」
祖母が何やら、ブツブツと独り言を呟いている。
ずいぶんと長い間、考え込んでいたが、大丈夫だろうか。
「……まあ、あれさね。なるようになるだろうよ」
「おばあちゃん?」
ちょっと、何言ってるか分からない。(2回目)




