表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
66/99

064 首相襲来

 6月上旬のこと。


 勇三が見つけて、すぐに契約したこの物件。

 集まるのに都合がいいので利用しているが、住所はもう公開してある。


 マスコミがうるさいので入口は鍵をかけて、インターフォンもはずした。

 外部からのアクセスを完全にシャットアウトしている。


 部屋を出て、恐る恐る入口に向かってみると、国会中継で見たことある顔が、手持ち無沙汰に佇んでいた。

 変装の達人でなければ、本人だ。


 一応玲央先輩に確認を取ると、真面目な顔で頷いたので間違いないだろう。

 鍵を開ける。


「やあ、はじめましてだね。この国の首相をしている逸見(いつみ)です」

 首相から自己紹介を受けた。


 ここは「知っています」と言うべきだろうか。

 逡巡していると、首相は周囲を見回し、「ここはいいところだ」と言った。


座倉(ざくら)くんに開けてもらうよう頼んだのだけど、悪かったね」

「い、いえ……まずは中へ……どうぞ」


 どう考えても、首相と入口で立ち話はまずい。

「しかしここはいい。あちこちで守られている」


「……?」

 周辺環境の話か?


「SPが言うには、八神(はっしん)守護(しゅご)だろうってさ。どこでそんな古い人たちと知り合ったんだい?」


 言われて気がついた。この前茂助先輩と説得に行った蓬莱(ほうらい)一族のことだろう。

「縁がありまして」


「そうかい。あれは容易に突破できないね。SPも下がらせたよ」

「それは……ありがとうございます」


 逸見首相は、アポ無しでここまでやってきたらしい。

 だが、扉には鍵。電話も線を抜いているため、連絡の取りようがない。


 明かりがついているので、中にいるのは分かったが、さてどうやって知らせようか。

 大きな音を出して強引に注意を引くことも考えたが、八神守護と呼ばれる包囲が完成しているため、何かすると、SPの方が排除されかねない。


 建物の所有者はすでに調べてあり、会社のことも調査済み。

 座倉家の三男が関わっていることは掴んでいたため、その父親に電話をかけて鍵を開けさせたというわけらしい。


 さすがというべきか、抜かりがないというべきか。

 そういうことがサラッとできないようでは、首相など務まらないのだろう。


 応接室のような洒落たものはないので、俺たちがいたところに首相を案内する。

「早速だが、ここへ来た目的を話そうじゃないか」


 スッと雰囲気が変わった。

 それまでは、どこにでもいる優しげなおじさんといった感じだったが、いまは猛禽類(もうきんるい)のような目をしている。


「日本には、昔から落人(おちうど)伝説というのがあってね……神隠しの逆と言えば分かるかな。どこからともなく、人が現れる。といっても、日本は島国だ。もし人が外からやってくるなら、海を越えてきたと考えるのが普通だ。だが、とてもそうは思えない話もある」


 外見や服装が違う。それに日本の言葉は話せない。

 それだけ聞くと、外国人の遭難者を思い浮かべるが、ときに山の中に忽然(こつぜん)と出現するらしい。


「大抵は大怪我をしていて、回復することなく亡くなるのだが、その者たちの遺品が少し変わっている。たとえば石に見えるが、中で光が蠢いていたりね。生きているものが石の中にいて、まるで外へ出ようとしているようにも見えたりするんだが……」


 逸見首相は、「そんな石、見たことないかね?」と聞いてきた。


「俺たちが魔石と呼んでいるものと似ていますね」

 隠してもしょうがない。


 この場で知らないと言うことはできるが、実物はそのうち、いやでも手にすることになるだろう。隠しても意味はないのだ。


「魔石か……我々は、落人石(おちうどいし)と呼んでいるが、同じものかもしれないね。それがダンジョンの中で採れる?」


「正確には、ダンジョンの中にいる魔物を倒すと、まれに手に入ります」

「そうか……」


 逸見首相は、しばらく腕を組んで、じっと目を閉じていた。

 俺たちは、このあと何を言い出すのか、固唾を呑んで見守った。


「落人と会ったことがあるだろ? それともお前さんらのだれかが、落人かな?」

 やはり逸見首相は、ただものではない。


 何気ない顔をして、俺たちの中に爆弾を放り込んできた。

 もちろん、可能性はいつでも考えてきた。


 いつか聞かれるだろうと準備だけはしてきた。

 だがまさか、日本の首相にはじめてこの創作話(ストーリー)を語ることになろうとは。


「落人という言葉は知りませんでしたが、俺たちは『異世界人』と呼んでいますが、その人だったら知っています」

「ほう……異世界人。詳しく聞かせてくれるかな」


「ええ……と言っても、俺が体験した話ですけど」

 そう前置きして、以前から用意していた話を語る。


 一昨年(おととし)の夏休み、俺が茂助さんの家に行こうとしたとき、たまたま行き倒れの人を見つけた。

 茂助さんの家が近かったので、とりあえずそこに運び込んだ。


 茂助さんと救急車を呼ぼうかと話している間に、その人は回復してしまったことなどを話した。

「回復した? 救急車が必要な状況ではなかったのかね」


「外傷はなかったんですけど、意識が朦朧としている感じだったので、頭を打ったんじゃないかと思いました」

「頭か……それで回復したというのは?」


「あとになって思えば、ポーションを飲んだんだと思います。そのときは、ただのめまいか、貧血だったんだと納得しました。その人は日本語が話せなくて、かといって英語でもなかったので、確認できませんでしたが」


「ああ、やはりそうなのか。それでどうしたんだい?」

「行くアテがなさそうだったので、茂助先輩が面倒を見ることにしました」


「茂助というのは、この会社の本拠地を提供している千在寺(せんざいじ)くんでいいのだな」

「はい。昨年の学園祭のとき、いろいろ手伝ってくれた人です」


「ふむ……それでその人はどうなったのかな」

「記憶喪失かと思ったので、茂助先輩がいろいろ連れ回すと、とても驚いていました。数日後、突然消えたそうです」


「消えた?」

「ええ。それから数ヶ月ほど経って、また突然やってきました。お礼をしに来たんです」


 それからもたびたびやってくるうちに日本語もできるようになり、彼女が異世界人であること、ここへは〈転移〉のスキルでやってくることなどを聞いたと話した。


「〈転移〉は自分ひとりしかできないらしく、仲間を連れてくることも、俺たちが異世界に行くこともできないみたいです」


「ふむ……その異世界人のことは分かったが、キミたちが商売をはじめたダンジョンだが。あれはどう関係するのかね?」


「それは秘密です」

「なに?」


「企業秘密というやつですね」

「…………」


「いくらなんでも、会社の秘密までは話せません」

「……そうか。そうだよな。会社の秘密は話せんか。民間企業ならそれはもっともか」


「ええ、自分は政治家だから、会社の技術をすべて知る権利がある……なんて言いませんよね?」


「そんなこと言い出したら、民主主義が根本から壊れるな。……よし、その話はいい。ならば別のことを聞こう。その異世界人とはいまも連絡が取れるのかい?」


「向こうが一方的にやってくるだけですし、電波も届かないところですから、こちらからの連絡はできません。ですから、彼女が来れば会えるとだけ」


「なるほど。ならば、こっちの世界にやってきたとき、俺は会えるかな?」


「本人が望めばですね。俺と茂助さん以外と会うのに1年かかりましたので、難しいでしょうけど」

「その異世界人と会ったことあるのは?」


「あとは玲央先輩と勇三だけです」

 会うのはかなり難しいぞと告げると、首相は難しい顔をした。


「……ならば、話を変えよう。君たちがしている商売の話だ」

 逸見首相は、今度は俺ではなく玲央先輩の方を向いて言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 出来る人感が凄い首相だ… 次話が待ち遠しい!
[良い点] しらばっくれるには名前がキラキラ過ぎる二人を思うと笑ってしまう まあ祖母は主犯だし強かだからいいとして父は災難だなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ